24話 宅飲みで……
佳がシャワーを浴びている間、俺は内側が丸底のグラスをサッと洗い、大皿にミックスナッツを盛り付ける。 いわゆる宅飲みの準備だ。 佳が仕事帰りにわざわざ俺の所に来たのは、やはり藤堂さんがストレスになっているからなんだろう。 無理もない…… 藤堂さんには悪いが、やっと傷が癒えてきた俺達には衝撃的過ぎた。
司にしたってそうだ。 俺や佳に比べて平然としているように見えるが、アイツの心の中もきっと掻き回されたに違いない。 原因を作ったのは俺…… 何か埋め合わせを考えないとな……
「手が止まってるよ。 何を難しい顔してるのよ 」
「うわっ! …… 上がって来るの速ぇよ。 カラスの行水じゃないか 」
横から突然声を掛けられてビックリした。
「何言ってるのよ、30分も入れば十分よ 」
佳は何事もなかったように、目の前の大皿を持ってダイニングテーブルに向かう。 俺は冷蔵庫の奥に眠っていた缶ビールを取り出し、洗っておいたグラスを持って佳の後に続いた。
「アンタん家で飲むのも久々かな 」
「もう忘れた。 3本しかないけど、ちょうどいいだろ? 」
グラスを佳に渡してテーブルに置かせ、少し高い位置からビールが泡立つように注ぐ。 大きな泡が落ち着くまで待ってから、今度はゆっくりと注ぎ、荒い泡が消えたら泡を盛り上げるようにもっとゆっくり注ぐ…… 三度注ぎというちょっとした工夫だ。
「上手いねぇ! 誰に教えてもらったの? 」
「店長だよ。 ビールサーバー程ではないけど旨いらしい 」
自分のグラスにも同じように注ぎ、俺達は何も言わずグラスを合わせた。
「くぅー…… 」
「あ゛ー…… 」
俺達はお互いにビールの喉ごしに言葉が漏れる。
「孝太オヤジくさい! 」
「オヤジくさい言うなよ。 お前だって…… 」
「オバサンなんて言わせないわよ? こんないい女捕まえておいて 」
ハイハイと答えてややしばらく…… 俺達は顔を見合わせて笑い合った。 そのまま雑談に突入し、500mlの缶ビールも最後の一本に手を付ける。
「来月、どうするの? 」
頬杖を突いて佳は俺を見つめている。
「来月? あぁ…… もうそんな時期か 」
来月というのは、栞の命日の事だ。
「休みをもらうつもりだよ。 お前は今年はどうするんだ? 」
佳は墓前には顔を出さない。 栞との約束を果たすまでは頑張るんだと、栞が亡くなったすぐに言っていたことだった。
「うん…… まだダメそうかな。 まだ約束したこと果たせてないもん 」
「看護師以外に何かあるのか? 」
「女と女の約束! アンタと司だって男と男の約束とかあるでしょ? 」
「…… 別にそんなものないけど 」
佳はフフッと笑ってテーブルに突っ伏し、寝る態勢に入ろうとしている。
「カッコ悪ーい。 そんなんじゃ女の子にモテないぞー 」
「おい、そんなとこで寝ようとするなよ。 ベッド行け 」
目を閉じて半分寝かかってる佳の頭を軽く小突く。
「めんどくさいー、連れてってよー。 私重くないよー 」
……まったく。 仕方がないので佳をテーブルから引き剥がし、肩に担いで運ぼうとすると突然暴れ始めた。
「ヤダ! お姫様抱っこがいい 」
「ワガママなやつだな…… 」
言われるがままにお姫様抱っこをしてやると、佳は満面の笑みだ。
「いいじゃん。 酔っぱらいだもん 」
そのまま寝室に運んでベッドに下ろすが、首に回された腕をほどいてはくれなかった。
「ねぇ、孝太…… 」
間近で見る佳の潤んだ瞳。 ヤバい…… コイツってこんなに色っぽかったっけ?
「…… どうしたよ? 今日は 」
ドキドキする鼓動を抑え、平然を装って佳と向き合う。 内心は理性を失わないようにするので精一杯だ。
「…… ううん、お酒の入ってない時にするね。 ね、今日は一緒に寝よーよ 」
「お前、襲われちゃうーとか思わないのかよ? 」
「そんな勇気ないでしょアンタには 」
カッチーン! もうどうなっても知らんぞ! 俺は首に回された両手を振りほどき、力ずくで佳の頭の上で片手で押さえつけた。 目を閉じて大人しく押さえられている佳にそのまま……
「あっははは! いや! ヒャヒャ! や、やめて! ゴメ…… アハハ…… 」
佳の弱点の脇腹をこれでもかという程くすぐってやる。 涙目になりながら謝る佳がグッタリするまで続けてやった。
「ハァ…… ハァ…… オシッコ漏れるかと思った…… 」
「トイレ行ってこいよ。 俺は片付けしてくるから 」
フラフラと寝室から出て行く佳を見送る。 経験のない中学生かよ俺は…… でも、こういうのは酒の力を借りたくはない。 佳もそれは分かってくれているだろうと勝手に納得して、俺はキッチンに空になったグラスを運んだ。
結局佳と一つのベッドで寝たのだが、シングルのベッドスペースでは流石に二人は狭かった。 佳は酒のせいもあってベッドに入るなりすぐにスヤスヤと寝息をたて始め、俺は佳が寝返りを打つ度に肘打ちを食らったり腹を蹴られたり。 挙げ句の果てにベッドから追い出されてしまってソファーで寝ることになっていた。
はっきりさせないとな……
佳が俺に好意を持ってくれてるのは痛いほどよく分かっている。 栞との約束っていうのも、多分俺との行く末のことなんだろう。
今まで散々佳の優しさに甘えてきた。 きっと佳は俺が答えを出すまで待ってくれる…… 男として情けない限りだが、どうしても栞の姿が脳裏に浮かんでしまう。
ゴメン、佳。 もう少し…… もう少しだけ待ってほしい…… 中途半端な気持ちで答えたくないんだ……
今夜もまた眠れそうになく、俺はくるまった毛布を頭まですっぽり被り目を閉じた。




