17話 衝突……
「お疲れ様 」
裏口で俺を待っていたのは、腕組みをして壁に寄り掛かる怖い顔をした佳だった。 ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、司がすかさず声を掛ける。
「…… どうした? こんな時間に。 来てたなら店に顔出せば…… 」
「ごめん司。 ちょっと孝太と話があるのよ 」
佳は司の方を向くことなく、俺を凝視したまま司を黙らせる。
「どこか入るか? 」
「そうね、しっかり話したいわ 」
コンコン
店長が優しい顔で裏口のドアをノックをした。
「大事な話なんでしょ? 」
店長はそれ以上何も言わず、裏口を開けっぱなしにして店内に消えていく。 店を使っていいということらしい。
「佳、俺らも聞いていい話か? 」
普段とは違う様子の佳に司も真剣な顔になる。
「いいわよ。 私達に隠し事なんていらないでしょ 」
佳は遠慮せずに裏口から店内に入っていった。 続いて無表情の司が店内に戻り、オドオドした瑠依ちゃんが後に続く。
長い夜になりそうだな……
俺も最後に裏口をくぐり、ドアを閉めて鍵を掛けた。
佳はカウンターに近いボックス席に座り、目線だけで俺に向かいに座れと言う。 司と瑠依ちゃんはカウンター席から話を聞くつもりのようだ。 俺がボックス席に腰を下ろすと、店長がわざわざ特製ブレンドコーヒーを出してくれた。
「んで、どうしたんだ? 」
「しーちゃんのそっくりさんに会った。 それだけ言えば十分でしょ? 説明して 」
「はぁ!? 」
真っ先に声を荒らげたのは司だった。 俺は司には振り返らずに店長の淹れてくれたコーヒーを一口すする。
「藤堂遥。 ただの栞のそっくりさんっていうだけだよ 」
「命の恩人だって言ってたけど? 」
『説明不十分!』と言いたげな佳に、これまでの経緯を大雑把に話す。
「お前まさか…… 」
司が目を見開いて身を乗り出してきた。
「何もしてねーよ。 ただ…… 」
佳も司も何も言わず、俺のその先の言葉を待っていた。 話しておくべきだろうな、この二人には……
「彼女の親がとんでもない奴らしくてさ、子供の金を平気で取ったり、大事な物を捨てたり、暴力振るったり…… 見てられないんだ 」
「ダメよあの子だけは! 」
バンとテーブルを叩いて佳が立ち上がった。 勢いで佳のコーヒーカップが倒れて中身をテーブルや床にぶち撒ける。 俺の考えることなんてお見通し…… 睨めつける佳の目がそう言っている。
「夢まで奪われそうになってんだぞ! ハイそうですかなんて見過ごせるかよ! 」
「だからってなんでアンタが関わらなきゃいけないのよ! 家庭の問題なんだから警察に任せればいいじゃない! 」
「色々複雑なんだよ! 手放しで任せられるほど簡単な事じゃない! 」
「アンタはいっつもそう! 自分で何もかも抱え込んで! その気持ちのまましーちゃんに顔向け出来るの!? 」
俺は言葉に詰まる。
「出来ないんでしょ? アンタしーちゃんの気持ち考えたことある!? しーちゃんだって私だって…… !!」
佳の怒鳴り声がそこで途切れた。 顔を大きく歪ませ、口をへの時に結んで黙り込んでしまった佳は、突然バッグを持って裏口から走って出て行ってしまった。
「佳! ちょっと待…… 」
追いかけようと俺も席を立つが、彼女が最後に見せた悔しそうな横顔がよぎって躊躇してしまう。 俺はカウンター席の前で出て行く佳を見送る事しか出来なかった。
ガスッ!
思い切り背中を押されて俺は前のめりに倒れ込む。
「!? 」
振り向くとカウンター席に座ったままの司が片足を上げて睨み付けている。 俺の背中にいきなり蹴りを入れたのだ。
「お前が何をしようと勝手だけどな、今の佳を止められるのはお前しかいないんだ。 わかってるだろ? 」
睨み付けていた司の表情がフッと緩む。
「早く行けよ 」
「…… ありがとう、司 」
俺はズキズキと痛む背中を我慢して裏口から飛び出した。
どっちだ!?
路地裏を左右見回して地下鉄の駅がある方向に走り出す。 路地裏を抜けたところで通行人とぶつかりそうになりながらも、俺はまだ見えない佳の背中を追った。
ダメよあの子だけは!
アンタっていっつもそう!
しーちゃんに顔向けできるの!?
佳の言葉が頭に残る。
わかってるさ…… 俺だって辛くない訳じゃない。 佳や司に相談しなかった俺が悪いのもわかってる。 栞に顔向けなんてあの日から出来る筈がない……
無我夢中で走り続け、地下鉄の出入口で立ち尽くしている佳にやっと追い付いた。 流石元陸上部、パンプスで走っても速ぇよ……
「はぁはぁ…… 佳! 」
全力で走って乱れまくった呼吸で佳の後ろ姿に大声で叫ぶと、佳の肩がビクッと跳ねた。 通行人も俺の声に振り返るが、そんなことは気にしてられない。
「佳…… はぁはぁ…… ちょっと待ってくれ…… 」
肩を掴んでとりあえずこちらを向かせる。
「…… ゴメン 」
そう言う彼女の目には涙が滲んでいた。 こんな弱々しい顔なんて滅多にすることのない佳にドキッとしてしまう。
「しーちゃんに顔向け出来ないの、私の方だ…… 」
なんだ? ちょっと話が見えてこない……
グイッと乱暴に涙を拭った佳は、突然俺の手を取って歩き出す。
「ちょっ…… どこ行くんだよ? 」
「居酒屋! 少し飲みたい! 」
強引に手を引っ張っていく佳の後ろ姿は少し寂しげに見えた。
「飲みたいって…… お前、酒は激弱だろ 」
「いいから! アンタが悪いんだからね、奢ってよ 」
俺は佳にされるがまま、近場にあった古そうな居酒屋ののれんをくぐった。




