16話 駅のホームで……
新城さんから沖野弁護士の連絡先を聞いた私は、翌日の放課後に学校近くの地下鉄駅の公衆電話から連絡を入れた。 沖野弁護士側の都合に合わせて予定を入れ、明日の放課後に会う事になった。
「…… よし、頑張ろう 」
受話器を置いた私は、胸の前で拳を握って気合を入れる。 パスケースを手に改札を抜け、ホームに降りる階段を下りた時だった。
ドン
「あ! ごめんなさい! 」
階段の陰から突然出てきた女性とぶつかって転び、パスケースを落としてしまった。 ぶつかった女性はすぐさま私のパスケースを拾ってくれる。
「怪我しなかった? 大じょう…… 」
パスケースを渡してくれた女性は、私の顔を見るなり言葉に詰まってしまう。
「…… うそ…… でしょ…… 」
パスケースを受け取る時、彼女の手は震えていた。 新城さんと同じ感じ…… もしかして栞さんの……
「あの…… 」
受け取ったパスケースを彼女は離してくれない。 私が声を掛けると、ハッと気付いたように手を離してくれた。
「ごめんね、知人にあまりにも似ていたからびっくりしちゃった 」
やっぱりそうだ。 彼女はエヘヘと苦笑いをしている。 なんだか助けてくれる人が増えたような気がして彼女に気軽に話しかけてしまう。
「あの…… 新城さんのお友達の方ですか? 」
目を見開いたまま彼女の動きが止まった。 彼女から笑みが消えて突然二の腕を強く掴まれる。
「…… なんでそこで孝太の名前が出てくるのよ 」
掴まれた腕が痛い。 憎しみとも取れる、睨み付けられた目に私は恐怖を覚えた。
「答えてよ。 なんで孝太を知っているの? 最近アイツの様子が少しおかしいのはアンタのせい? 」
怖い…… 睨め付けるその目はとても怒っているように見えて、でもとても動揺しているようにも見えて……
「…… ごめん、こんなんじゃ言うに言えないよね 」
彼女はブンブンと首を左右に大きく振ると、私の腕を掴んでいた手を離してくれた。
「少し時間ある? 話を聞かせて欲しいんだけど 」
転んだままの私に手を差し伸べてくれるが、目は笑っていない。 私は怖くてその手を取れずにいると、彼女はため息をつくように深呼吸してニッコリと微笑んでくれた。
「何もしないわよ。 私は丸ノ内、ちょっとだけ話を聞かせて貰うだけだから 」
恐る恐るその手を取ると、ちょっと手が痛くなるくらい強引に引き起こされた。 なんとなく勘で分かってしまう…… この人、新城さんが好きなんだ。
丸ノ内さんは近くのベンチに腰かけると、スマートフォンを取り出して手早くメールを打ち始めた。 私もその横に浅く腰掛ける。
「んで、孝太…… 新城とはどこで知り合ったの? 」
スマートフォンをバッグに仕舞い、私を真正面から見据えてくる。 とても真剣な表情…… 変な言い方をして新城さんに迷惑をかけたくはない。
「私の命の恩人です。 いつも星を見ている公園で助けて貰いました 」
「命の恩人? 」
「はい…… 私色々あって、自殺しようとしたんです。 新城さんが必死に止めてくれました 」
へぇーと丸ノ内さんは口を半開きで私に向かい合っている。 怖い人なのかなと思ったけどそうでもないのかな……
「どんな事情があったのか知らないけど、自殺なんて絶対ダメだからね。 どんな事があっても生きてなきゃ何も出来なくなっちゃうんだよ? 」
「はい、もう自殺なんて考えてません。 新城さんにもコッテリ怒られました 」
『よろしい』と丸ノ内さんは頷いて笑顔になる。
「アイツと連絡は取ってるの? 」
「いえ、私スマホとか持ってないんで 」
「…… 女子高生がスマホ持ってないなんてホントなの? 」
私は一つ頷く。 丸ノ内さんに怪訝な顔をされるが、スマホを持っていないのは本当の事だ。 連絡を取っていないと言えば嘘になるけど、この場で言っていいのか迷ってしまった。
「まぁいいわ。 ごめんね、時間取らせちゃって 」
丸ノ内さんはスッと腰を上げるとスマートフォンの画面を確認した。
「あー…… やっぱ仕事中は無理だよねぇ 」
腕時計を見てブツブツ呟いている。 話の流れから、これから新城さんに会いに行くのかな……
「あの…… 」
新城さんは何も悪くないんです…… そう言おうとしたけど、どうしてか言葉が出ない。 じっと私を見ていた丸ノ内さんは突然フフッと微笑んだ。
「ホントしーちゃんにそっくり…… なんでこうなっちゃうかなぁ…… 」
「え? 」
しーちゃん…… 栞さんと友達だったんだろうな。 その後の言葉の意味がよく分からない……
「あ、ごめん。 気を付けて帰ってね 」
そう言うと丸ノ内さんは改札に続く階段を駆け上がって行った。
チュンチュンとタイヤが泣く音と共に地下鉄がホームに到着する。 降車客をやり過ごして電車に乗り込み、出入口の手摺に寄り掛かる。
これで良かったのかな……
丸ノ内さんが新城さんの所に行ったのなら、話題は間違いなく私の事だ。
何を話すんだろう……
丸ノ内さんの表情は私を快く思ってはいなさそうだった。
「邪魔者なのかな…… 私 」
私は電車に揺られながら、薄暗いトンネルの中の灰色の柱が流れるだけの景色をボーッと見つめていた。




