↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/13

02

 来週は義弟が初めて我が家にやってくる。


 確かあの日は……。




 急にお父様が連れてきた見知らぬ女性と小さな男の子。「お前の新しいお義母さんと義弟だ」と二人を紹介する幸せそうな顔のお父様。その様子を見て愕然とした。

 思い起こされるのはお父様とお母様と私の三人で過ごした幸せな日々。お母様の優しい笑顔、ハグをしてくれたあの温かな温もり。

 私はお母様を亡くした悲しみからまだ立ち直っていないのに。

 私の家族はお父様とお母様と私の三人だったのに、なぜ新しい人がやってくるのだ、なぜ急に知らない人が母親と弟になるのだ。そんなのは私の家族じゃない。


 その感情はあっという間に大きくなり、魔力までもが暴走を始め、自分で制御できるものではなくなった。

 二人に傷をつけなかっただけマシだというほどの暴れっぷりであらゆる魔法を放ち、ロビーを破壊した。

 お互いの印象は最悪と言っていいだろう。

 それ以降二人とは最大限顔を合わせないように過ごしたのだ。


 今考えると目の前であれだけ暴走する人間なんて恐怖以外の何者でもないわね。

 とても幼稚だったわ。

 

 実際、子供ではあったのだけれど、お母様を亡くした悲しみが全く癒えていなかったのも事実だ。そう簡単に新しい家族を受け入れるなんてやはりあの当時の私には難しかっただろう。

 ただもう少し手加減というものを知っていても良かったのではないかと今になって思う。

 あの日からさらに、私の暴れ具合に拍車がかかったのだ。


 お父様だって、私をないがしろにしていたわけではなかった。

 お仕事の合間を縫って私の様子を見に来てくれていたし、食事も毎回一緒に食べていた。

 そんな中、お母様が食卓にいないことに癇癪をおこして暴れていたのは私だ。

 何度目かの癇癪をおこしたとき、お父様が言ったのだ「自分の部屋で食事をとるかい?」と。

 突き放されたのだと思った。

 でも、きっとそうじゃなかったのだろう。

 お母様との思い出がいっぱいの食堂では辛いだろうという優しい心配りからの言葉だったのではないか。

 だって、あの時のお父様の顔は、どこか寂しく辛そうだったから。

 今になって思い起こされる過去。

 



 さて、意識を現在に戻そう。

 一週間後、お父様が義母となるアンネと義弟となるルイスを連れてくる。

 前回のように暴れることはないにしても、どのように接するべきか……。

 何せ話すことができないのだ。文字で伝えるにも常に紙とペンを持ち歩くのは正直面倒だ。常に両手が塞がってしまう。それに書いている間待たせるという時間も発生してしまう。

 その時間をどうにかして短縮できないだろうか。


 ふと人差し指を立てて空に文字を書いてみる。ここに文字を書けたなら……。


 ハッ!!


 そうよ、魔法を使えばいいのよ!私には魔法があるわ!

 文字だってなんだって書けるはず!


 炎でも水でもいいからそれで空中に文字を書けばいいのよ。

 内緒話には向かない方法だけれどこれで会話はできるわ!


 そうと決まれば早速練習をしてみましょう!


 膨大な魔力の持ち主ではあるものの、過去、文字を書くという繊細な使い方をしたことがなかった。ましてや今はまだ7歳、どこまで形になるかやってみないと分からない。


 ひとまず指先に集中して細い火の柱を出してみる。文字を形作れるような細さ、毛糸くらいの細さをイメージしてそれを真っ直ぐ伸ばす。次に円を描いてみる。自分の顔くらいのサイズの輪っかができた。その輪っかを極力小さくしてみる。文字を意識して指先ほどの輪っかになるように炎を調整する。


 ……できた!


 このサイズで文字をイメージして、まずは「a」を作ってみる。


 ん〜、少し読みづらいかしら。ほんの少し文字を大きくしようかしら。

 まだ7歳なのだしこれくらいは許されるでしょ。


 そうしてほんのちょっぴり大きい「a」が目の前に浮かぶ。

 続けてその隣に「b」も書いてみる。炎の分離はできないので、文字同士が繋がった綴り文字の形にはなってしまうがそれなりに読めるようになっている。

 満足げに頷きながら心の中でやるじゃない私!とちょっぴり得意げになっているのだった。


 そこからはいろんな単語を炎で綴る練習をした。短いスペルから徐々に長いスペルのもの、定型的な挨拶文、さまざまな言葉を試し書きしてみる。

 単語単体であればスラスラと書けるのだが文章となるとやはり集中力が桁違いに必要だ。長文を出すには向いていない、せいぜい右手と左手で一文ずつが限界だろうか。

 あとは文字を形作るまでのスピードを上げたいところだ。自分の声の代わりになるものだからできるだけ声と同じスピードで表現したい。


 一度目の人生ではやろうともしなかったコミュニケーションを取る方法。夢中になり、いろんな文字を両手で書いてみる。ある程度炎での文字を習得して、次は水ではどうなるだろうかとまた実験を始める。

 水は扱いやすいものの色がないため空中に浮かべると読みづらいことが分かった。水に色を着けると読みやすいのだろうか、あれこれ考えているうちにあっという間に夕餉の時間となる。


 コンコン、と扉がノックされれば運ばれてくる美味しそうなディナー。

 

 子供の体は素直なようで、くうっと小さくお腹が鳴った。

 テーブルに並べられる豪華な食事に心が浮つくとともに、ほんの少しだけさみしい気持ちが湧き上がる。

 この状況を作り出したのは私なのにね。




 文字練習のおかげかベッドに入るとあっという間に眠気がやってきた。


 あの日から魔法で作り出す文字を何度も練習した。

 これまで暴れ放題だった私が一心不乱に何かに集中している様子をメイドたちは怪訝な様子で窺っていた。

「どうしちゃったのかしら?」そんな声が聞こえてきても気にしない。

 私はこれから先、生き延びる選択肢を増やすために何としてもルイスとお義母様と良好な関係を築いていきたい。

 そう決意をして、再び魔法文字の練習に取り掛かったのだ。



 一週間なんてあっという間で、明日にはもうルイスとお義母様が我が家へやってくる。

 どうにか形になった魔法文字で「初めまして」と作り出す。


 うまくいくかしら。


 ベッドに横になり、天蓋を見つめ考える。

 この一週間、暴れることはなかった。ただひたすら魔法文字の練習をしていたのだ。

 練習を止めてしまうと、お母様が生きていた時の幸せだった日々を思い出して泣いてしまいそうだったから。また、悲しみが心を支配して暴れてしまうんじゃないかって怖かったから。

 

 ぎゅっと目を瞑り、大きく深呼吸をした。


 きっと大丈夫。

 今回は上手くいく。


 そう言い聞かせて眠りについた。






 コンコン。


 「お嬢様、おはようございます。

  朝のお支度にまいりました。」


 いつものようにアリーが部屋に入ってくる。眠たい目を擦りながらベッドを降りて鏡台の方へと向かう……前にアリーに見えるよう人差し指から炎を出す。


 『おはよう、アリー』


 にこりと微笑みかければアリーは驚いて目を見開き、その瞳はあっという間に潤みボロボロと涙をこぼすのだった。

 まさか泣き出すとは思わずオロオロと動揺してしまう。


 「お嬢様、お嬢様……、おはよう、ございますっ!」


 泣き笑いのその表情はとても嬉しそうで、私の新しい声を気に入ってくれたようだ。

 袖口でぐいっと涙を拭ったアリーは「今日はとびきりおめかしをしましょう!」と私を鏡台のもとへと座らせる。

 温かいタオルで顔を拭いてさっぱりしたところで、アリーは衣装棚のドレスと睨めっこしている。どれも一緒よ、なんて思いながらも私のことを思って選んでくれるその気遣いを嬉しく思うのだった。


 選ばれたのはシルバーの髪色によく似合うライトブルーのドレス。

 肩の部分のパフスリーブはふんわりと可愛い形をしており、パニエで広がったスカートが優しく揺れる。

 アリーの本気が伝わってきた。


『ありがとう』


 そう伝えると「御髪も綺麗にしましょう!」とやる気に満ちたアリーがあーでもないこーでもないとヘアアクセサリーと睨めっこしながら1時間を要して素敵なレディに仕上げてくれた。

 鏡に映るのはハーフアップにした銀髪が可愛く揺れる7歳の女の子。この頃こんなに穏やかに笑ったことがあっただろうか。


 アリーがとびきり綺麗にしてくれたことだし、今日の初対面はきっとうまくいくはずよ!


 そう意気込んで部屋に運ばれた朝食を食べるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。