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ガタガタと揺れる馬車に乗りながら王宮へと向かう。
久しぶりに眺める街並みは平和そのもので、綺麗に整備された中央道をゆったりと進んでいく。
そんな穏やかな時間もすぐに過ぎ去り目の前にそびえるのは荘厳な門。
側に仕える門番に王宮からの招待状を差し出せばすぐに重厚な門が開かれた。
一度目の記憶と違わぬ景色。
滑らかな石畳の上を馬車が進み、ふわりと花の香りが風に乗って頬を撫でた。
馬車を降りて素敵な景色を横目にしばらく歩くと、庭園が見えてきた。
「ここからはクラリス様お一人でお入りください。
アンネご夫人はこちらへ。」
どうやらここが会場のようだ。気を引き締めてまいります、とアンネお義母様に目線だけで伝える。それに応えるようにコクリと頷いてくれたアンネお義母様。使用人に促される形で別の場所へと移動していった。
さて、このアーチを潜ったらいよいよ始まるのね。
お義母様との特訓を思い出すのよ、そう言い聞かせて一歩、また一歩と足を進めるのだった。
通された庭園は子供が駆け回っても問題なさそうなほど広く、間隔を開けてテーブルと椅子がセットされていた。
すでに何人か到着していたようでそちらに目を向ける。
同じ年頃の子供たちが談笑している。
――どの顔も知らない。いや、覚えていない。
ただ、笑い声の高さや強弱で力関係がだいたい分かる。
しばらくすると続々と人が集まり総勢20人ほどだろうか。同じ年頃の子供が男女半々ずつ庭園にやってきた。
そして最後に登場したのはオーネスティ王太子。
王太子の登場に一同がソワソワと落ち着かない様子を見せている。きっと親から上手くやるよう言い付けられているのだろう。
そんな私は王太子の目に付かないように背の高い男の子の影に隠れた。
「今日は私の主催するお茶会に出席してくれてありがとう。
うちの料理人たちが腕を振るって用意したお菓子たちだ、遠慮なく食してくれ。」
王太子がそう声を掛け、一番目立つ中央のテーブルへと腰掛けた。
それに倣い皆が着席し始めた。
私は王太子から死角になるように離れた場所へ着席する。王太子が座ったテーブルは一緒に入ってきた男の子が二人と女の子が二人、合わせて五人で座っている。
そして私が座ったテーブルは全員が女の子のテーブル。
皆が着席するとすぐにお菓子やデザート、紅茶が運ばれてきた。
なかなかお目にかかれないチョコレートケーキまである。さすがは王宮だ。
各テーブルにサーバーとして使用人がついており、慣れた手つきで皆のお皿に綺麗なデザートが乗せられていく。
皆が目の前のデザートに釘付けだ。
まだまだ子供だ、美味しいものに目はない。各々がデザートと紅茶を美味しく食べ始める。
そしてその合間になんてことない会話。
お父様に買ってもらったもの、今度避暑地に行く、新しいドレスが欲しい、そんな他愛もない話。
しばらくするとこのテーブルで一番のおしゃべり、ブロンドの髪をツインテールにして巻いているエミリーといったかしら。その子が急に私に話しかけてきた。
「先ほどから一言も話していないあなた、お名前は?」
想定していた展開だ。慌てずに私は喉元に手を当て口を動かす。
”クラリス・ルドヴァンです。声が出ません”
果たして口の動きだけで伝わっただろうか、いや伝わらなくてもこの状況で私がルドヴァン家の長女ということは分かるだろう。
その証拠にテーブルの皆がヒソヒソと話し始めた。
「あなたが話せないクラリス様ね」
ふんっと鼻で笑うように嘲れば周りの女の子もそれに続くようにして私を見下してくる。
この反応も想定内だ。昔のクラリスだったらここで大暴れだわ、むしろ面白い状況として捉えている。
私の声が出ないことを嘲笑するのはどうぞご勝手にというところだが、そこから派生する家の問題については考えていないのだろうか。
私はこのテーブルの誰よりも家格が上である公爵家、対してエミリーは伯爵家だ。うちが圧力をかければお家が傾きますよ、と心の中で言葉にしてみる。もちろんそんなことはしないし、このことをお父様やアンネお義母様にいうつもりもない。
「声が出せないなんて可哀想ね」
ちっとも可哀想とは思っていない声。良いおもちゃを見つけたとでもいうのだろうか、どんどんとその口からは私を攻撃する言葉が飛んでくる。
死に戻りを経験していなければここでエミリーに魔法をぶつけてその手に持っているティーカップをかち割ってドレスを台無しにしてやるところだ。ついでにケーキスタンドを顔にぶつけてやるまでがセットかもしれない。
思考を飛ばすことでエミリーからの悪口を聞き流す。
そこへ各テーブルに交流を持とうと王太子が巡回しているのが見えた。どうやらこのテーブルが最後のようだった。
「楽しんでいただけているだろうか」
凛とした声が掛かる。
「はい、とっても素敵なお時間をありがとうございます。」
エミリーは先ほどより数段高い声を出しながら目にハートを浮かべ王太子を見つめている。
変わり身の早いことだ。明らかに擦り寄る態度のエミリーをかわしながら各個人へと丁寧に声掛けをし、最後に私のところへやってきた。
「君は、ルドヴァン家の御令嬢クラリス殿か」
そっと立ち上がりカーテーシーにてご挨拶をする。なんせ声が出ませんので。
さっさとここから離れてご自分のテーブルに戻られてはいかがですか、と瞳に力を込めて見つめ返す。
すると王太子は少しだけ目を見開いた。そしてすぐに平静を取り戻すとなんとも迷惑な提案をしてくる。
「君は僕の婚約者だろう、どうかあちらの席で一緒にお茶しないか?」
いやですが?
という気持ちを一切顔に出すことなく優雅に微笑んでまた喉元に手を当てる。
”声を出せません。申し訳ございません”
そしてそっと目を伏せて首を緩く左右に振る。これでお断りの意思は伝わっただろう。
チラリと王太子を見れば少し残念そうな顔をして「分かった」と引き下がってくれた。
「お茶会もあと少しだ、どうか最後まで楽しんでくれ。」
皆に聞こえるようによく通る声で話す姿は7歳にしては立派だなと思いながら目の前の美味しいケーキを口にするのだった。
つつがなくお茶会は進行し、エミリーの戯言を耳にしながらようやくお開きとなった。
「よくもまあ上手くルドヴァン家に取り入ったものね」
お義母様を探すために通路を歩いていたら品のない声が聞こえてきた。咄嗟に柱に身を隠しその声の元を辿る。
「前の奥様って確か殺されたのでしょう?あのアンネご夫人が手引きしたのではなくて?」
「やだわ、恐ろしいお方だこと」
あまりの驚きに喉の奥がひりつく。
お母様が殺された?病に臥せってお亡くなりになったのではなくて?
正直その頃の記憶は曖昧なのだ、自分のことを含めお母様の死の前後の記憶が朧げで。急にお母様がお亡くなりになりそしていつの間にか自分の声も無くなっていた。
一体どういうことだろうか、この人たちの話は単なる噂話なのか?
初めて耳にする情報に思考がまとまらない。
そんな中でも噂話が止まないご婦人たち。
「そもそもどうして話せもしない子が婚約者として居座っているのかしら」
どうやらここで品のない会話をしている方々はルドヴァン家がお気に召さないらしい。次から次へと出てくるルドヴァン家への不満。そんなに不満なら功を立てて爵位を上げるだけの努力をしてはどうか。全くもって不愉快極まりない。
そんな会話に聞き耳を立てていた時、お義母様が通路の向こう側からやってくるのが見えた。
陰口を叩いていた奴らはお義母様を見つけてあからさまに嘲笑している。
柱に隠れていた私はスッと姿を現しお義母様の方へと歩み寄る。
「あら、クラリスお茶会は楽しかった?」
優しいその表情はやはり母親のそれで、血の繋がらない私に対しての愛情がちゃんと伝わる。
コクリと頷き、少し離れた場所にいるあのご婦人たちの方をじっと見つめる。
なんの感情も表さないようにただ一人一人の顔を覚えるために目に力を込め視線をやると、気まずさに耐えられなくなったのか一人また一人と顔を背けその場から離れていった。




