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「魔法才能ゼロの俺、身代わりに女装して王女になったら、国一番の聖女(ヤンデレ)に溺愛されて逃げられないんだが!?」  作者: 黒澤カール


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第11章 波乱の親睦会、ドレスの中の秘密

「鴉」の襲撃と、セラとの魂を削るような月下の共闘から数日。


聖ロザリオ魔法学院は、前期の締めくくりを祝う恒例行事『光華の親睦会』の準備に沸き立っていた。

これは大陸中の貴族や有力者が集い、生徒たちの交流(という名の政治的お見合い)を目的とした盛大な舞踏会である。

しかし、アルスにとっては、これまでのどんな暗殺者よりも恐ろしい「公開処刑場」に他ならなかった。


第一の試練:聖女のプロデュース


「アル様、見てください! 貴女のために、隣国の最高級仕立屋を呼び寄せ、三日三晩かけて作らせた至高の一着ですわ!」

『聖女の塔』の広間で、セラが勝ち誇ったように巨大な衣装箱を開いた。

中から現れたのは、淡い月光の色を模した、絹のように滑らかなシルクのドレス。胸元には大粒の魔宝石が散りばめられ、学院の象徴である白百合の刺繍が施されている。

一見すれば、これ以上ないほど高貴で美しいドレスだ。

だが、アルスはそれを見た瞬間、心臓が口から飛び出しそうになった。

「……セラ様。あの、このドレス……なんだか、布の面積が、その、致命的に足りないような気がするのですが?」

「あら、お分かりになりますか? これぞ最新の流行、『月詠みの女神様ルナ・ミスティカ』スタイルですわ!」

セラが広げたドレスは、背中が腰のあたりまで大胆に開いており、さらに肩回りは華奢なストラップのみ。極めつけは胸元のカットだ。女性のデコルテを最も美しく見せるための深いVラインが刻まれている。

「アル様はいつも『男装の麗人』として自分を厳しく律していらっしゃいます。でも、この夜だけは、その隠された美しさを全世界に知らしめるべきです。……そして、何より」

セラがアルスの耳元で、蕩けるような声で囁いた。

「貴女のその、鍛え上げられた美しいお身体を、私だけが知っているのは勿体ない……。半分だけ、皆にも見せびらかしてやりたいのです。私の騎士様が、これほどまでに気高く、色鮮やかであることを」

(独占欲と過剰な自慢癖が混ざり合って、とんでもない劇薬になってる……!)

アルスは冷や汗を流しながら、ドレスを凝視した。

背中が開いているということは、肩甲骨周りの「男らしい筋肉」が丸見えになる。

胸元が開いているということは、パットの境界線や、最悪の場合、心臓の鼓動で揺れる「偽物の胸」の不自然さが露呈する。

そして何より、この薄い生地では、アルスが必死に隠している「男としての骨格」を誤魔化しきれない。


第二の試練:禁断のフィッティング


「さあ、アル様。試着いたしましょう。私が責任を持って、そのお身体に魔法の指先でフィットさせて差し上げます」

「ま、待ってください! セラ様! 私は……その、あまりに露出が高いと、暗殺者時代に受けた『古傷』が疼くといいますか、その、精神的に不安定に――」

「大丈夫ですわ。その傷跡すら、私は愛おしい。私が口づけで癒して差し上げますから」

セラが有無を言わせぬ笑顔でアルスの服に手を掛ける。

アルスは反射的に彼女の手を払いそうになったが、ここで拒絶すれば「秘密を持つ影武者」という設定が崩れ、「正体を隠す不審者」へと格下げされてしまう。

「……分かりました。ですが、着替えは一人でやらせてください。セラ様の清浄な魔力を浴びすぎると、私の闇の気が反発して、ドレスを破いてしまうかもしれません(デタラメ)」

「まあ……。アル様の闇は、それほどまでに深いのですか。……分かりました。愛する人のプライバシーを尊重するのも、伴侶の務め。入り口で待っておりますわ」

セラが渋々退出し、扉が閉まった。

アルスは即座に鍵をかけ、鏡の前で崩れ落ちた。

「(どうする……!? このドレス、背中の筋肉を隠す余地がゼロだぞ。それにこの胸元の開き、どう考えても『谷間』がないとおかしい!)」

アルスは、自分が持ち込んでいたサバイバルキットを取り出した。

まずは、背中の筋肉を目立たなくさせるために、肌色の特殊な減光粉末を塗りたくり、陰影を消す。次に、肩甲骨が浮き出ないよう、広背筋を極限まで弛緩させる特殊な呼吸法(暗殺術の応用)を駆使する。

そして最大の問題――胸だ。

アルスは予備のシリコンパットを二重に重ね、さらに魔法的な「視覚阻害」を付与した薄いフィルムを肌に貼り付けた。これにより、他人の目には「柔らかな曲線」が見えるが、実体はないという、視覚的ペテンを完成させた。

「(……いける。いや、いかせるしかない。俺の命と、男爵家の存亡がかかってるんだ!)」


第三の試練:親睦会のレッドカーペット


親睦会の夜。大講堂は魔法のシャンデリアで照らされ、着飾った貴族たちで埋め尽くされていた。

その中央階段の頂上に、二人の少女が現れた。

一人は、まばゆいばかりの金髪と純白の法衣を纏った「光の聖女」セラ。

そしてもう一人は、背中を大胆に晒し、月光を纏ったかのように神秘的な美しさを放つ「エルフレデ王女」こと、アルスだ。

「……っ!!」

会場が一瞬で静まり返った。

あまりの美しさに、誰もが息を呑んだ。

アルスは、セラの腕を借りて、一歩ずつ慎重に階段を降りる。広背筋を緩め、内股で歩き、肩をすぼめる。一歩間違えれば「ガタイの良い男の女装」だとバレる極限状態。

「見て……あのエルフレデ様を。あんなに艶やかで、それでいて凛々しいお姿……」

「あの背中のライン、まるで彫刻のようだわ……」

(頼むから、あんまり凝視しないでくれ……!)

アルスは心の中で悲鳴を上げていた。

そこへ、案の定「彼」がやってきた。赤い髪を撫で付け、正装に身を包んだカイエンだ。

「……エルフレデ。貴様、その格好はなんだ。目のやり場に困るだろう」

カイエンは顔を真っ赤にしながらも、鋭い視線でアルスを射抜いた。

「だが……貴様のその体。やはりおかしい。以前、剣を交えた時のあの『圧』が、その華奢なドレスの中に凝縮されているように感じる。貴様、本当にただの王女か?」

(こいつの野性的勘、本当に勘弁してくれ……!)

「カイエン様、淑女のドレス姿を品評するのは、騎士の礼儀に反しますわ」

アルスが扇子で口元を隠しながら、冷たく言い放つ。その時、予期せぬ事故が起きた。

給仕の持っていた盆が、酔った貴族の足にぶつかり、中に入っていた冷たいシャンパンがアルスの背中に向かって飛んできたのだ。

「――アル様! 危ない!」

セラが叫ぶ。アルスは反射的に、自分でも制御できないほどの速度で、そのシャンパンの飛沫を「回避」してしまった。

ドレスの裾が円を描いて舞い、アルスの身体は瞬時に半回転。

その瞬間、ドレスのストラップが、急激な運動に耐えきれず――プツリ、と音を立てて千切れた。

「「「…………あっ」」」


絶体絶命、そして「奇跡」の抱擁


ドレスの片方の肩がずり落ち、アルスの「偽装された胸元」と、隠しきれない「鍛えられた大胸筋の輪郭」が露わになりかける。

シリコンパットが重力に従って滑り落ちようとした、その刹那。

「――させませんわ!!」

セラの魔力が爆発した。

彼女は瞬時にアルスの正面へ回り込むと、自分の広大なマントをアルスの体に巻き付け、そのまま彼女を(彼を)強く抱きしめたのだ。

「誰にも、見せません……! アル様の尊いお姿は、私だけのものです!!」

セラの放った「拒絶の波動」が会場中に吹き荒れ、全てのシャンデリアが割れんばかりに明滅した。

周囲の人間には、セラの独占欲が爆発したようにしか見えなかったが、アルスにとっては、それは文字通りの「命の盾」だった。

「……セラ、様……」

「大丈夫です、アル様。……今、貴女の服の隙間から、信じられないほど硬くて逞しい『何か』が触れましたが……。それは、貴女がその身に宿している『騎士の鋼』なのですね? そうなのでしょう!?」

(……もう、それでいいです。助けてくれてありがとう……)

アルスは、セラの腕の中で、極度の緊張から解放されて意識を失いかけた。

結局、親睦会は「聖女の嫉妬による大混乱」として語り継がれることになり、アルスの正体は、セラの「盲目的な愛」の膜によって、またしても間一髪で守られたのであった。

しかし、この騒動の中で。

一人だけ、落ちていた「シリコンパット」を拾い上げ、不可解そうに見つめる男がいた。

「……これ、魔法の具現化素材ではないな。なんだ、このプニプニした物体は……?」

カイエンの手の中に残された「不審物」。

疑惑の火種は、より具体的な形を伴って、アルスに迫ろうとしていた。


つづく

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