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「魔法才能ゼロの俺、身代わりに女装して王女になったら、国一番の聖女(ヤンデレ)に溺愛されて逃げられないんだが!?」  作者: 黒澤カール


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第12章 ライバル令嬢、アルスの正体を疑う

親睦会での「シリコンパット紛失事件」から数日。

アルスはセラの徹底的なガードにより、なんとか平穏を取り戻したかに見えた。

しかし、聖ロザリオ魔法学院という場所は、一難去ってまた一難が標準仕様である。

今回の難敵は、暴力的な魔力でも、隣国の暗殺者でもなかった。

それは、女の園において最も恐るべき武器

――「鋭すぎる観察眼」と「執拗なマウント」を兼ね備えた一人の令嬢だった。


謎の令嬢、イザベラの襲来


「あら……。お見かけしたところ、随分と『骨太』な王女殿下がいらっしゃること」


昼下がりの噴水広場。セラの結界の隙間を縫うようにして、一人の少女がアルスの前に立ちはだかった。

燃えるような赤髪を縦ロールに巻き上げ、扇子を優雅に揺らすその姿。

彼女こそ、帝国でも指折りの名家であり、代々王室の「礼法指南」を担ってきた公爵家の令嬢、イザベラ・フォン・ロートシルトである。


「イザベラ様……。ごきげんよう。何か私に御用でしょうか?」


アルスは、セラから叩き込まれた「完璧な令嬢スマイル」を繰り出した。

しかし、イザベラの蛇のような鋭い瞳は、アルスの顔から爪先までを、値踏みするように舐め回した。


「御用も何も、あたくしは我慢なりませんのよ。エリュシオンの至宝と謳われるエルフレデ様が、あのような野蛮な聖女セラとベタベタし、挙句の果てには親睦会であられもない醜態をさらすなんて。ロートシルト家の名にかけて、貴女に『真の淑女』というものを思い出させて差し上げますわ」


イザベラの背後には、彼女の取り巻きの令嬢たちがズラリと並び、クスクスと不敵な笑みを浮かべている。

(……まずい。このタイプは、魔法の強さじゃ誤魔化せない。女同士の『細部』を突いてくるタイプだ!)


第一のチェック:指先の「乙女度」


「まずは、そのお手をお見せなさいな」


イザベラは唐突にアルスの右手を掴み取った。

アルスは反射的に「裏拳」を叩き込みそうになったが、間一髪で指先を脱力させ、しなやかな(フリをした)動作で彼女に委ねた。


「……あら? 殿下。貴女、爪の形が随分と健康的……いえ、切り揃えすぎではありませんこと? 淑女たるもの、爪先には真珠の粉を練り込み、繊細な曲線を描くのが常識ですわ。これではまるで、毎日剣の柄でも握っている『職人の手』ですことよ」


「……あ、あはは。それは、その、最近『薬草の調合』に凝っておりまして。土を弄ることが多いものですから」


「ふーん。薬草ねぇ」


イザベラは疑わしげに鼻を鳴らす。


「では、その『節くれだった関節』はどう説明なさるのかしら? 指の付け根に、奇妙な硬結タコがありますわ。あたくしの知る限り、このようなタコは刺繍やピアノではつきませんわね。どちらかと言えば……棒状のものを、力任せに握りしめたような……」


(やばい! 剣ダコだ! セラ様は『騎士の勲章』だと喜んでくれたけど、こいつには通用しない!)


アルスは冷や汗を流しながら、必死に指を丸めた。


「こ、これは……最近始めた、重厚な魔導書の『ページめくり』のしすぎですわ!」


第二のチェック:禁断の「香水」尋問


「……怪しいわ。では、次はお香りを確認させていただきますわね」


イザベラは、アルスの首筋に顔を近づけ、深く息を吸い込んだ。

アルスの全身に鳥肌が立つ。

彼は毎朝、セラが「騎士様の香りです!」と言って振り撒く、花の香りの香水を浴びている。それで十分なはずだった。


「…………おかしいわ」


イザベラが眉をひそめて顔を上げた。


「花の香りの奥に、微かに混じるこの……ツンとする刺激臭。これは、薔薇の香りではありませんわね。


どちらかと言えば、金属の錆を防ぐための……『油』の匂い。それも、軍用で使われるような質の悪い丁子油の匂いですわ!」


(嘘だろ!? 朝、隠れて愛剣を磨いたのがバレた!?)


「殿下、貴女……まさかドレスの下に『鉄屑』でも忍ばせているんじゃありませんこと? あたくしの鼻は誤魔化せませんわよ」


イザベラの追求は止まらない。彼女はアルスのドレスの肩口に手をかけ、その「厚み」を確かめようとした。


「……それに、この肩の筋肉の付き方。以前お会いした時より、随分と『バルクアップ』していらっしゃらない? 淑女の肩は、もっと撫で肩で、儚いものですわ。貴女のこれは……まるで、重い鎧を支えるための――」


「――そこまでになさい。ロートシルトの小娘」


聖女、爆臨。


大気を切り裂くような冷気と共に、背後からセラが現れた。


彼女の瞳には、かつてないほどの漆黒の怒りが宿っている。セラの背後には、物理的な影となって「半径百メートルの男子禁制結界」が、イザベラの取り巻きたちをじわじわと押し戻していた。


「あたくしのアル様に触れて良いのは、あたくしだけです。貴女、その汚らわしい指を今すぐ切り落とされたいのですか?」


「せ、セラ様……! これは、淑女同士の親睦を深めるための指導でしてよ!」


イザベラは流石にたじろいだが、彼女も公爵令嬢の意地がある。


「セラ様こそ、エルフレデ様を甘やかしすぎですわ! 彼女の最近の振る舞いには、女性としての『品格』が欠けています。あたくしは、彼女が本当に『エルフレデ王女』なのかさえ疑わしく思っておりますの!」


「なんですって……?」


セラの周囲に、パチパチと聖なる電光が走り始める。

アルスは焦った。ここでセラが暴走してイザベラを吹き飛ばせば、事態はさらに悪化する。アルスは咄嗟に二人の間に割って入った。


「落ち着いてください、二人とも! ……イザベラ様。私の『女らしさ』に疑念があるというのなら、証明してみせますわ。……来週の『淑女の園・刺繍大会』で、私と勝負なさい。もし私が貴女に負けたら、セラの塔を出て、貴女の礼法指導を大人しく受けましょう」


「……! アル様、何を仰るのですか! あたくしと離れるなんて!」


「いいでしょう! 受けて立ちますわ!」


イザベラは扇子を突きつけた。「逃げ出さないことですわね、肉体派(?)の王女殿下!」


絶望の特訓


イザベラたちが去った後、アルスは噴水の前で力なく座り込んだ。


刺繍。それは、アルスがこの世で最も苦手とする「繊細な指先の作業」である。


「アル様、心配いりませんわ。私が魔法で、貴女の針を自動操縦して差し上げます」


「ダメです、セラ様。イザベラは魔法の痕跡も見逃さないでしょう。……俺は、いや、わたくしは、自力で『完璧な花』を縫い上げなければならないんです」


アルスは、ボロボロになった自分の掌を見つめた。

剣を振るために作られたこの手が、細い絹糸を操れるのか。

だが、正体がバレるよりはマシだ。

その夜から、セラの塔では異様な光景が繰り広げられた。

最強の聖女セラが、涙ながらに針に糸を通し、それを「男装の麗人」設定のアルスが、血眼になって布に突き立てる。


「……ぐっ、また指を刺した。……セラ様、止血のヒール(回復魔法)をお願いします」


「アル様ぁ! そんなに指を傷つけてまで……! もういいですわ、あたくしが公爵家を今すぐ滅ぼして、大会を中止にさせますわ!」


「物騒なこと言わないで! これは俺の名誉の問題なんだ!」


アルスは、かつて師匠に教わった「極小の点突き」の剣技を、刺繍の運針に応用するという暴挙に出た。

一分間に三百回の刺突。正確無比な座標計算。

それはもはや刺繍ではなく、布に対する「精密攻撃」だった。


決戦の日は近い一方で、アルスの正体を疑っているのはイザベラだけではなかった。

影でシリコンパットの鑑定を進めていたカイエン。


そして、アルスの「金属油の匂い」に、かつて自分を救った「恩人の騎士」の面影を重ね始めたセラ。

誰もが、アルスの隠した「秘密」のヴェールに手をかけようとしていた。


アルスが徹夜で縫い上げた「百合の刺繍」は、あまりに精密すぎて、逆に「人間技ではない」として新たな疑惑を生むことになるのだが、それはまだ少し先の話である。


「……アル様、寝顔まで凛々しいなんて。やはり貴女は、あたくしのための騎士様……。たとえ、貴女の胸元がどれほど平坦であっても、あたくしは愛し続けますわ」


眠るアルスの耳元で、セラの愛が重く、重く降り積もっていく。


つづく



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