第二話 再会と赤いペン
体育の授業が終わり、啓介と教室へ向かう。
「次の授業なんだっけ」
「次は物理だぜ。そんなことより……結希って誰なんだよ?」
「はぁ!? なんでお前がその名前知ってんだよ?」
思わぬ名前が出てきてつい大きな声をあげてしまう。この高校に俺の小学校時代を知っているやつはほとんどいないし、こいつに結希のことを話した覚えはない。
「だってお前が寝言で『結希……好きだ』とか言ってたからな!」
啓介はニタニタした表情で俺を見ている。
「嘘だろ」
啓介を疑念の目で見る。
「嘘じゃねぇよ! まぁ、好きだとは言ってなかったけどな……」
「やっぱり嘘じゃねぇか!」
「そんなことはどうでもよくてだな……わかったこうしよう!」
啓介は何か閃いたように見える。大体こういう時の啓介はろくな事をしない。
「今から俺がお前に結希ってやつについて3つ質問する。そしてお前はそれに答えろ」
「ま、待て!それじゃ俺が損するだけじゃ──」
「もし俺が体育の前にお前を起こしてなかったらどうなってただろうなぁー」
啓介が割り込んで言う。そういう手を使うなんて卑怯なやつだ。
「わかった、わかったよ……」
悔しいが啓介の要求を仕方なく呑む。
「まず一つ目、性別は?」
「女」
「続いて二つ目、かわいいか?」
「ま、まあ……」
そんなにはっきり顔思い出せないけど。
「最後に三つ目、この高校の生徒か?」
「違う」
全ての質問に答えるとしばらく沈黙が続いた。
「残念だなぁ」
啓介はがっかりとした様子でそう呟く。
「何が残念だなぁだよ! それでこんなこと聞いてどうすんだよ?」
啓介の意図の分からない質問に困惑する。一体こいつは何が知りたんだろうか?
「よし、わかった」
「今度はなんだよ」
そう聞くと再び静かになる。
「おそらく結希ってやつはお前の幼馴染みだ。そうだ、それしかない!!」
啓介は俺を指さし、得意げに言い放った。図星をつかれ少し黙ってしまう。
「どうだ? 当たりか?」
「なんで分かるんだよ……!」
さすがに分かるとは思っていなかった。
「七宮湊に幼馴染みがいたって噂も割と有名だからな。それと、お前女子とあんま関わんないじゃん。だからお前にとって夢に出てくるぐらい特別な女子ってそいつぐらいだろうなって。俺とお前、何年一緒にいるとおもってんだよ」
ニヤつきながら肩に腕を回そうとしてくる。
「まあそうだよな、中学から一緒だもんな……」
ため息をつき、啓介の腕を払う。ここまで自分のことを知られていることに若干腹が立つ。
「面白い話が聞けて良かった! それに来週から夏休みだぜ? 楽しみだなぁ」
「もうそんな時期なのか。楽しくなるといいな」
「当たり前だ! 誰よりも夏休みを楽しんでやるぜ!」
啓介は晴れやかな笑顔で宣言する。よほど夏休みが楽しみなようだ。
───
一週間が経ち、夏休みに入った。白い入道雲が立ち沸く真っ青な空に焼けつくような夏の太陽が浮かんでいる。
「暑い……」
啓介は今にも倒れそうな様子で呻いている。一体夏休み前の勢いはどこに行ってしまったのやら……
「大丈夫か? よかったら俺のハンドファン貸すぞ?」
「ありがと……マジで助かるわ……」
啓介は暑さに極端に弱く毎年この調子だ。とはいえ、今日は特別暑い。俺もそろそろ限界が来そうだ……
「一旦あそこに入るか、それで昼飯も食べていこう」
近くのレトロシックな雰囲気のカフェを指さす。
「わかった……」
ヘロヘロになった啓介を連れて中に入ろうと扉を開けた瞬間、ひんやりした風が吹き抜けた。
「うわぁ、涼しい……」
冷房の効いた部屋にさっきまで死にそうだった啓介も嬉しそうだ。
店内は暖かい色の照明とダークブラウンのテーブルで統一されており、落ち着いた雰囲気が醸し出されている。俺と啓介は一番奥の席に座った。
アルバイトらしき女の店員さんが水を持って来る。ちょうど俺たちと同じくらいの年だろう。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
そう言って彼女が帰ろうとした時、何かが『カシャ』と落ちる音がした。
「何か落としましたよ」
彼女が落としたのはどうやらネームプレート
だったらしい。それを拾い、彼女に渡そうとする。しかし、その手を止めた。
なんとそのネームプレートには『雨川』と書かれていたのだ。
「どうかしましたか?」
彼女は怪訝そうに俺を見てくる。
「いや、なんでもないです……」
結局そのネームプレートを渡し、彼女は何事もなかったように帰っていった。
「なあ湊、お前が店員さんとイチャついてる間にこの店のこと調べたんだけど、カツサンドがおいしいんだって!」
「別にそんなことしてねぇよ」
それにしてもさっきの雨川って名前……まさか、いや、そんなわけ無いか。
「冗談だよ、とりあえずお前もカツサンドでいいか?」
「そうする」
啓介に向かって頷く。
「それじゃ店員さん呼ぶぞ」
啓介はそう言ってさっきの店員さんを呼ぶ。そして、彼女はこちらに向かってくる。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「はい、カツサンドふたつお願いします」
啓介は俺の分もまとめて答える。
「かしこまりました!」
彼女は注文をメモに書き込んだ。その時、視界に赤く輝くペンが映る。
それは、俺が結希にあげたものと全く同じものだった。




