第一話 約束と赤い毛糸
高校二年の俺、七宮湊はとある約束をした。いや、させられたと言った方がいいのかもしれない。
八年前──
「ねぇ、湊君何してるの?」
そう問いかけるのは幼馴染みの雨川結希だ。
「水を見てたんだ! なんで水って冷たいんだろう……?」
俺は蛇口から出る水に手をあててそう呟いた。まだ8歳だったから色々なことに疑問が湧く。
「んー、なんでだと思う?」
結希は笑顔で俺に聞いてくる。
「か、川が冷たいからとか……?」
俺は自信なさげに答える。
「それは理由になってないよ!」
結希は俺の答えを笑うように言った。
「じゃあなんでなの? 結希が答えてよ!」
「まずね、湊君の疑問自体がおかしいんだよ」
「それって、どういうこと……?」
俺は首を傾げる。
「湊君は水が冷たいって言ったでしょ。そもそもそれが間違ってるんだよ。例えば、お風呂の水は冷たい?」
「冷たくない……ね」
「そう。水は冷たい時もあるし、温かい時もあるからね。」
結希はとても自信満々な様子で俺に言った。
結希はとても賢い女の子だった。口喧嘩をすれば負けるし、何かと俺を言いくるめようとする。でも、結希といるとたくさんのことを知れたし、何より一緒に居て楽しかった。
しかし、不運なことにもそんな時間は長く続かなかった。結希が引っ越すことになったのだ。
そこで俺は結希にプレゼントを渡すことにした。そうすれば俺のことを覚えていてくれるだろうし、結希にも喜んでもらえると思った。
「そうだ! ペンをプレゼントしよう!」
結希は賢い。だからよく使うであろうペンをプレゼントとしようと考えた。
俺は頑張って貯めた小遣いでできるだけ頑丈できれいなペンを買った。そしてすぐに、結希の家にそれを渡しに行く。
「こんにちは、結希いますか?」
インターホンを押してそう言うと結希が出てきた。いつもは結希のお母さんが出てくるので少し驚く。
「湊君どうしたの?」
結希が首を傾げる。
「その……これあげる!」
俺は丁寧に包装されたペンを渡した。
「えっ? もらっていいの?!」
結希の表情がパッと明るくなる。それを見た俺はとても嬉しくなった。
「うん! そ、その、開けてみて!」
結希は包装を慎重にあけ、ペンを取り出す。
「ありがとう! すごくきれい!」
そして結希は紅葉のような鮮やかな色で輝く金属製のペンを嬉しそうに眺めた。
「そうだ!」
結希はそう言うと家の奥に入って行き、赤い毛糸を持ってきた。結希は俺の小指にその毛糸を結ぶ。
「何してるの?」
俺は首を傾げる。
「また会えるようになるおまじない……」
結希は何かを隠すように言った。
「ほんと?」
あまりに結希が怪しかったので本当かどうか聞く。
「ほ、本当だって! それより私の小指にも結んで」
言われるがままに結希の小指に毛糸を結んだ。
「これでいいの?」
「うん、そ、それでね……」
結希は何かをしようとしている。結希が何をしようとしているのか分からなかった。でもなんとなく、本当に感覚で、目を閉じるべきだと思った。
そして───
結希はそっと俺から離れる───
「湊君、大好きだよ!」
俺にそう伝え、毛糸をほどく。そしてそのほどいた糸を俺に渡す。
「この毛糸はペンのお返しにあげるよ……! 今度会う時までに無くしたら許さないから!」
そう言うとすぐに玄関のドアを閉じ、家に入ってしまった。
「ほんとにありがとう! 絶対に無くさないから!」
俺はドアに向かってそう誓った。
あれからもう八年も経ったのか……
当時は意味を理解していなかったが、俺は結希と結婚の約束をした。結希は今もこのことを覚えているだろうか?
俺は今も結希のこと───
「起きろ……起きろってば!」
視界には見慣れた人影が映っていた。
「おい! 次体育だぞ、いつまで寝てるんだよ」
俺は入谷啓介に体を揺すられてやっと起きる。
「ああ、すまん、ありがとうな」
眠い目を擦りながら啓介に礼を言う。
「別にいいぜ。あと1分しかないけどな。じゃあもう俺行くわ」
「あと……1分?!」
そして無事遅刻したのであった。
初投稿ですので至らない点も多いと思いますが、どうかよろしくお願いします。




