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おっさんの処世術は異世界でも有効だった。  作者: 畑酪 砂竹
おっさん大地で立つ
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ある日ー森の中ー

「……今日の報酬、どうなるんだろう」


 俺の頭の中には、そんなことしか浮かばなかった。


「いやいやいやいや!」


 少女が突然叫んだ。


「何でそんな冷静なの!?」


「いや、冷静じゃないよ」


「じゃあ何で竜に話しかけてるの!?」


「俺だって怖いよ」


 怖い。


 めちゃくちゃ怖い。


 近くで見ると、でかい。


 想像していたよりも、ずっとでかい。


 映画やゲームで見る竜なら「うわ、すげぇ」と思えるところだが、実際に目の前にいると感想は一つしかない。


 ――逃げたい。


 ただ、背中には少女がいる。


 俺一人なら、とっくに逃げていた。


 たぶん人生で一番速く走っていたと思う。


 だが、今はそうもいかない。


 それに、この竜。


 俺たちを襲う様子がない。


 ただひたすらに、籠を見ている。


「……もしかして、これ食べる?」


 恐る恐る籠を前に出す。


 竜の鼻が近づく。


 ――すん。


 もう一度。


 ――すんすん。


 鼻息だけで俺の髪が揺れた。


「近い近い近い」


 思わず後ずさる。よく見ると口には鋭い牙が…恐怖が強くなってくる


 竜は気にする様子もなく、籠の中を覗き込む。


「これ、薬草なんだけど……」


 竜の金色の目が、俺を見る。


「……食べる?」


 竜はゆっくりと頷いた。


「マジか、言葉通じるのかよ。」


 ファンタジーの定番である竜、薬草食べるんだ。それともコイツが草食なの?


 なんとなく肉食のイメージだった。


 俺は籠から一本取り出す。手が震える。


「ほら」


 差し出す。竜が首を伸ばす。俺の指先から、薬草だけを器用に咥えた。


腕ごと食べられるとか想像してなかったーーー あらやだ怖い。


 そして。


 ぱくっ。


 もぐもぐ。


「……」


「……」


 俺と少女は、呆然と竜を見つめる。


 竜は薬草を飲み込むと、また俺を見る。


「……もう一本?」


 頷いた。


「たーんとお食べ」


 俺は二本目を渡す。満腹になってくれりゃ自分が食べられる可能性も低かろう


 もぐもぐ。


 三本目。


 もぐもぐ。


 四本目。


「……これ、結構食うな、わんこ薬草ってか。」


「わ、わんこ??犬ではないですよね、ていうか、そんな問題じゃないと思うんですけど……」


「そう?」


「そうですよ!」


 少女の声が裏返る。


「竜ですよ!?」


「うん」


「伝説の魔物ですよ!?」


「うん」


「何で餌付けしてるんですか!?」


「いや……腹減ってたら自分が食われると思って生き残る方法を考えたんだよね」


「空腹への優しさじゃなかったの!?」


 知らんよ。


 俺だって竜なんか初めて見たんだから。食べ物の好みだってわからないわけで。


 しかし、ここで妙なことに気付いた。


 竜の身体に傷がある。


 黒い鱗の隙間から、赤い傷跡が見える。


「……怪我してる?」


 俺が呟くと、竜の動きが止まった。


「これ?」


 俺が傷を指差す。


 竜は少しだけ警戒した顔をした。


「痛いのか?」


 今度は頷いた。


「……」


 俺は籠の中を見る。


 大量の薬草。


 さっきまでただの金になる草としか思っていなかった。


 だが、もしかして。


「これ、傷に使えるんじゃないか?」


 薬草なんだから。


 薬になる草なんだろう。


 俺は一本取り出し、手の中で揉んでみる。


 すると、葉から独特の匂いが強くなった。


 竜が鼻を動かす。


「これ、塗ってみるか?」


「ちょっと待ってください!」


 少女が慌てて止める。


「何する気ですか!?」


「いや、傷に薬草を……」


「そんな簡単に!?」


「でも薬草だろ?」


「……そうですけど」


「じゃあ試してみよう」


「試すって……」


 少女が何か言う前に、竜が俺の手元へ顔を寄せてきた。


「……嫌じゃないらしい」


 俺は恐る恐る竜の傷に薬草を当てた。


 その瞬間。


 淡い光が走った。


「……え?」


 薬草から、緑色の光が漏れる。


 竜の傷がみるみるうちに塞がっていく。


「……」


「……」


「…………」


 俺は薬草を見る。


 竜を見る。


 もう一度、薬草を見る。


「これ……普通の薬草じゃないのか?」


 少女が震える声で答えた。


「……たぶん」


「たぶん?」


「それ……たぶん『聖樹草』です」


「せいじゅそう?」


「薬草の中でも最高級の……」


 少女が籠を覗き込む。


「……いや、待って」


 顔色が変わった。


「どうした?」


「これ全部……?」


「うん」


「どこで採ったんですか?」


「そこ」


 俺は森を指差す。


「そこって……」


 少女が絶句する。


「こんなに大量に……?」


「うん。いっぱい生えてたから」


「……」


「……何?」


 少女は頭を抱えた。


「知らなかったんだ……」


「何が?」


「この森の奥にしか生えない、すごく貴重な薬草なんです」


「へえ」


「一本で銀貨十枚はします」


「……」


 俺は籠を見る。


 一本。


 銀貨十枚。


 それが。


 一、二、三……。


「……」


 俺は急に籠を抱きしめた。


「絶対に渡さん」


「え?」


「これは俺の老後資金だ」


「いや、依頼品ですよね!?」


「あ」


 そうだった。


 俺はギルドから採取依頼を受けていた。


「……何本か納品すればいいか」


「依頼は普通の薬草二十本って話じゃなかったんですか?」


「そうだけど」


「それ、たぶん受付の人も知らないんじゃ……」


「……」


 妙な沈黙が流れる。


 その時。


 竜が俺の袖を咥えた。


「ん?」


 ぐい。


「ちょっと待って」


 ぐいぐい。


「引っ張るなって」


 竜は森の奥へ歩き出した。


「……どこ行くんだ?」


 少女と顔を見合わせる。


「まさか……」


「え?」


「ついてこいって言ってるんじゃ……」


「いやいや」


 俺は首を振る。


「竜についていったら、絶対ろくなことにならないだろ」


 竜が振り返る。


 そして。


 俺を見る。


 金色の瞳。


 その奥に、妙な知性を感じる。


「……」


 嫌な予感がする。


 ものすごくする。


 でも。


 なぜか、その目を見ていると。


 放っておけない気もしてきた。


「……分かったよ」


竜宮城に連れられて謎の箱開けて 老人になってやろうじゃんか


覚悟完了!!


「ちょっとだけな」


「ちょっとだけって……!」


 俺は籠を背負い直す。


「行こう」


 少女も慌ててついてくる。


 竜の後ろを歩く。


 森の奥へ。


 どんどん奥へ。


 当然ながら、俺は後悔し始めていた。


「……なあ」


「はい?」


「やっぱり帰らない?」


「私に聞かないでくださいよ!」


 その時だった。


 森の奥。


 木々が途切れた場所に、小さな泉が見えた。


 その周囲には。


 一面に薬草が生えていた。


 しかも。


 さっき俺が採ったものより、さらに大きく。


 しかし明らかに違う。どれも元気がなく、枯れる寸前かのように萎れている。


「……」


 俺は言葉を失った。


 竜が泉のそばに座る。


 そして、泉の奥を指すように首を動かした。


「……あそこに何かあるのか?」


 俺が泉を見る。


 水の底。


 何かが黒く光っている。


 金属のようなもの。金属ではない?でも光ってるから金属??


 ゆっくり近づく。


 水の中から拾い上げる。


「……杭?」


 古びているが少し光を放つ一本の。真っ黒な杭


 見たことのない紋章がビッシリ刻まれている。


 俺は何気なく、引き抜き、それを持ち上げた。


 その瞬間。


 ――ドクン。


 胸の奥が大きく鳴った。


「……なんだ?」


 杭から淡い光が漏れる。


 少女が息を呑む。


「それ……」


「ん?」


「その紋章……」


 少女の顔から血の気が引いた。


「まさか……」


 俺は杭を見る。


「知ってるの?」


「はい……」


 少女は震える声で答えた。


「それは……」


 その言葉を遮るように。


 遠くから。


 ――グオオオオオオオオッ!


 巨大な咆哮が響いた。


 竜が立ち上がる。


 森の鳥たちが一斉に飛び立つ。


「……」


 嫌な予感しかしない。早く帰りたい気持ちでいっぱいだ。


「……今日、薬草採取だけの予定だったんだけどな」


 少女が青ざめる。


「私たち、たぶん……食べられます。」


「うん」


 俺も何となく分かっていた。


「面倒なことに巻き込まれたな、竜宮城じゃなかったし。。。」


「竜宮城??」


 夢なら。


 そろそろ覚めてくれ。



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