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このエピソードは残酷描写があります。
また、かっこつけて漢字多用しているため、読みにくく、ルビを多く振っています
文字稼ぎではありません… ( ..)φ
低いうなり声を漏らしながら牙をむき出しにしたゴブリンの集団が、武器を抜き、獣欲をまるだしにして一斉に襲いかかってくる。
ボクは先頭の一匹に狙いをつけ、矢を放とうとした。先手必勝。この一矢によって戦いの火蓋が切って落とされると思われた。
しかし次の瞬間、馬車から弾丸のように黒い影が飛び出した。影は息もつかせずゴブリンの集団に迫る。あまりの素早さに一瞬何が起きたのか分からなかった。黒い影の正体は、大剣を担いだティリスだ。
「――!」
ボクは思わず息を飲んだ。
彼女は目にも留まらぬ速度で近くのゴブリンに肉薄すると、両手剣を横に薙ぐように振り抜いた。風を切る音、そして『ボン』という凡そ剣撃の音とは思えない音が鼓膜を叩く。ゴブリンの体は一瞬にして両断された。下半身は臓物をこぼしながら立ち竦み、上半身は剣の勢いで回転しながら宙を舞い、鼠花火のように青い血と臓物を地面に飛び散らせた。
ほどなく、『ぼちゃっ』という水音と共にゴブリンの上半身が地面に墜落する。
この場の誰もが、彼女と、その剣とが生んだ惨状――から、目を逸らせなかった。
ティリスの勢いは止まらず、剣先を下げると二の太刀を繰り出し、近くに佇んでいたゴブリンを股下から首元まで深く切り上げた。この世のものとは思えない断末魔の声が響き、股の切断面から内臓が滝のようにこぼれ落ちる。胴の中身をすべて地面に吐き出すと、ゴブリンはその場に頽れた。
悲鳴が上がった。その出所はむしろ襲撃したゴブリン達の方だ。
ティリスの大剣は、たった二太刀でゴブリン達に思い知らせたのだ。恐れるべきは、どちらなのかを。
「――マジか」
連中のうち何匹かは恐慌状態に陥って逃げ出した。ティリスはその逃げる背中に追撃をしかけ、まるで草刈りするかのごとくゴブリンの命を狩っていった。悲鳴が次々と響き、血飛沫とともに断末魔が宙に消えていく。まだ戦意があるのは装備が整っている2匹のホブ級のみだ。
人間から奪ったものだろう、鉄製の盾を構えたホブゴブリンは、一回り大きな体躯と鋭い眼光でティリスを睨みつけていた。盾の持ち手には力強く指が食い込み、槍を持つ反対の手は戦闘態勢を崩さない。
ホブゴブリン。ゴブリンの群れの中でも歴戦の個体。その視線はティリスの一撃を待ち受けている。盾で一撃を防いだ後、隙あらば槍で串刺しにしてやろうと意思を固めているようだった。
銀光一閃。
ティリスの一太刀は魔物の浅はかな覚悟をあざ笑うかの如く、盾ごと両断した。反撃の余地などそこには微塵もなかった。両断された盾と、盾を握っていた上肢、それからゴブリンの頭部とそこから零れ出る脳味噌が美しく宙を舞う。
――なんて剣だ。
彼女の剣に見とれてしまっていたが、ゴブリンの悲鳴で我に返る。指をくわえて見ているわけにはいかない。息をつき、冷静になると、再び弓を構えて、逃げ惑うゴブリンの背中に狙いをつけると、ミスリルの弦を引き絞り矢を放った。
狙い澄ました矢が放物線を描き、ゴブリンの首筋に吸い込まれる。よし。頸椎直撃コース。狙い通りだ。
一匹でも逃がせば、また旅人や家畜が襲撃の餌食になる可能性がある。ここは冒険者として、一匹でも多く減らす必要がある。
ボクの放つ矢が一本、また一本とゴブリンの急所を貫き、短い悲鳴を上げたかと思えば地面に崩れ落ちていく。その間にもティリスの剣が閃き、次々と敵を薙ぎ払っていった。
「ギギャアアッ!」
リーダー格と思われるホブは鉄の鎧を身にまとい、周囲のゴブリンたちに怒号を飛ばしていた。弓を持った一匹が震えながらもティリスに向けて矢を引き絞る。しかし、放たれるより早くボクの矢が喉笛に突き刺さる。矢を引き抜こうと試みるが、手が血で滑って空しく藻掻くだけだ。そのまま血の泡を吹きながら倒れ込む。
ティリスの前進を止めるものは何も無い。目の前には、リーダー格のホブゴブリンが立ちはだかっていた。緑色の肌は粘ついた光沢を帯び、盛り上がった筋肉が不気味にうねる。ホブは狂ったようによだれを垂らして吠え、走り寄るティリスに向かって武器を振り上げた。
再び一閃――。
彼女の剣技には何度驚かされるのだろう。ティリスの刃は金属鎧を牛脂か何かのように切り裂いた。ホブゴブリンは苦悶の表情を一瞬だけ浮かべ、無残に崩れ落ちた。
「……すごいな」
思わずボクは呟いた。あれが、この世界の女性しか得ることのできない力か。
ティリスは想像以上の凄腕だった。自信なさげで弱々しい普段の彼女の姿からは考えられない。
しかし、剣を扱う以上、すべての敵を相手取れるわけではない。ティリスの剣の間合いの外にいた三匹が、ボクと御者のいるこちらの方へ突っ込んでくる。ティリスが振り返り、焦った表情を浮かべて叫び声を上げる。
「ユーニさん!」
ボクの後ろでは、御者のコボルトが棒を振り回しながら叫んでいた。それで立ち向かうつもりか? ボクは御者を制するように一歩前に出ると、ナイフを抜いた。
最初の一匹が叫びながら武器を振りかぶる。ボクはゴブリンの矮小な体躯よりも低く身を屈めて一撃を避け、同時に強烈な足払いを見舞う。ゴブリンはもんどりうって地面に倒れ込む。その勢いのままボクは体を回転させながら二匹目の懐に入り、頸動脈をナイフで掻き切った。ゴブリンは噴水のように血が噴き出す首元を押さえながら倒れ込む。それを傍目で確認しながら、ナイフの握りを替え、三匹目の胸めがけてナイフを投げつける。ナイフは上手い具合に肋を貫いて心臓に刺さった。ナイス・ナイフ。
あとは……一匹か。最初に転ばしたゴブリンが起き上がろうとしているので、頭を踏みつけて這いつくばらせ、頸椎を踏み抜いてとどめを刺す。何かが外れるような、折れるような小気味よい音とゴブリンの呻き声が辺りに響く。
息絶えたゴブリンたちの青い血が地面にしみ込んでいくのを確認してから、ボクは顔を上げる。ゴブリン程度ならこんなもんだ。ボクにも少しくらい見せ場があったっていいだろう。
「……はぁっ、はぁっ……!」
目の前には、息を切らして心配そうにボクを見つめるティリスの姿があった。駆けつけてくれたのか。あれだけの戦闘を繰り広げ、彼女の全身はゴブリンの青い血で汚れていた。
「……ケガは…ないですか?」
「うん、大丈夫」
ボクがそう答えると、彼女は安堵の表情を浮かべて顔を赤らめる。
「……ユーニさん、戦うこともできるんですね、見事なナイフ捌きでした」
「何言ってるのさ、ティリスの方こそ凄かったよ。あんな剣技初めて見たよ」
そう言うと彼女は照れたようにはにかんだ。先ほどまでの狂戦士のような雰囲気は影を潜め、普段通りの彼女がそこにいた。
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