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4-9-3

ふわぁい、4章書き終わりました_(._.)_

 翌朝、メッケはティリスを連れて不動産屋へ入った。

 壁には間取り図が並んでいた。奥の机で女が銅貨を数えている。襟の詰まった上着に細い鎖を掛け、指には大きな指輪をしていた。

 女は顔を上げた。小柄なメッケを見て、後ろのティリスへ目を移す。


「部屋探し? 二人で住むの?」

「冒険者ギルド長のメッケじゃ。川沿いの古い染物工房について聞きたい」


 女は椅子に座ったまま銅貨へ目を戻した。


「なんですって?」

「持ち主と借り手の名を知りたい」

「……ふざけてるなら帰って頂戴。顧客のことを勝手に話せるわけがないでしょう」

「昨日あそこで、うちの冒険者が襲われた。誰に使わせておった」

「ちょっと話聞いてるの? 襲われたんなら衛兵に言いなさいよ。うちは建物を紹介するだけだから」


 女は奥の扉へ向けて手を叩いた。

 椅子を引く音がした。太い腕の女が出てきた。腰に短い棍棒を吊り、戸口に立つと腕を組んだ。

 店主は銅貨を小箱へ流し込んだ。


「お出口に案内して差し上げて」


 用心棒がティリスの前へ来た。顎を店の入口へ向ける。


「聞こえたろ。こっちだ」

「あ、はい」


 ティリスは席を立った。用心棒が歩き出すと、その後ろにつく。

 メッケは机の前に残ったまま首を回した。


「おい、ティリス?」


 用心棒が扉を押し開けた。朝の光が床に差す。

 ティリスは敷居の手前で足を止め、用心棒へ頭を下げた。


「あ、ど、どうも」

「なにやっとんかー!」


 外からツッコミが飛んだ。

 扉の陰から槍の柄が覗く。壁に背を預けていたエリハルが身を起こす。


「素直に出てきてどないするん!」


 ティリスは頭を下げたまま止まった。

 ゆっくり顔を上げ、用心棒を見る。ティリスの手が腰の辺りで開き、また閉じた。


「え……あ、あの。ご案内いただいたのですが」

「追い出されとるんや!」

「で、ですが、お客さんの情報はしゃべれないと言われたので……」

「せやから相手がお話しやすいようにシバいてやるのが自分の仕事やろ!」

「えーと……」


 ティリスは店の中へ振り返った。メッケが片手で目元を押さえていた。

 用心棒が一歩詰めた。


「……出てってくれるかい?」


 物陰からエリハルが姿を晒し、ずんずんと店の方へと進む。エリハルは少し身を屈め、女の顔を覗いた。


「邪魔するでぇ」


 エリハルの顔を見て、驚いたように用心棒の口が開いた。


「お前はいったんこっち来い」


 エリハルはティリスの襟首をつまみ、敷居の内側へ引き戻した。

 店主は思わず立っていた。開いた小箱から銅貨が一枚はみ出している。


「リ、竜殺しのエリハル……。お連れ様でしたか」

「ギルド長が言うたこと、もう一遍(いっぺん)うちにも言わせるか?」

「い、いえ。どうもすいません、本当にギルド長だとは思わず……。どうぞ、お掛けください」


 チラりとメッケの顔色を見ながら、店主が壁際の椅子を運び始めた。

 メッケが外套から紙を出した。


「工房を誰に貸した。まずそこからじゃ」

「……契約の内容については、こちらにも信用がございますので……」

「商人の流儀はわかるがの。お主の紹介した物件が、人さらいに使われておる。そなたが攫ったとは言うておらんが、その借り手を庇(かば)えば、むしろ看板に傷がつくじゃろ」


 店主は小箱の蓋を閉めた。蓋の上に手を置いたまま動かない。


「……口外しないと約束していただけるなら」

「無論じゃ」

「物件の資料を取ってきます。少々お待ちを」


 メッケは筆を取った。

 女は自分の机の前へ回り込んだ。腰の鍵で引き出しを開け、革表紙の帳簿と紙の束を抱えて戻る。紙を繰る指が二度滑った。


「所有者はネラ・バスト。以前あそこで染物をしていた家の方です。今はカタクラを離れておいでで、貸し付けと家賃の受け取りはこちらへ任されております」


 メッケは差し出された頁を指で辿った。工房の所在、所有者の名、貸し付けの条件が並んでいた。


「借り手は」

「カナリヤ商会の荷の下処理に使うと。半年分の家賃を持った女が、一人で来ました」


 メッケの筆が止まった。エリハルが女の顔を見る。


「カナリヤ商会……」

「帳簿の用途欄に書いただけです。契約書に商会の名はありません。女は名乗らず、商会の荷だとだけ」


 女は急いで契約書を机に置いた。借り手の欄には荷の下処理場とあるだけで、商会の名はどこにもなかった。

 メッケは帳簿と契約書を並べ、支払いの日と額、貸し始めの日付を書き取った。


「鳥籠という名に覚えはあるか」

「鳥を扱うとは聞いておりませんね」


 メッケが筆を止めたまま見ていると、女は首を振った。


「借り手と連絡を取る時は」

「次の家賃が切れる頃に、向こうから来る約束です。急ぎなら工房へ知らせを置くことに」


 通りで売り声が上がった。

 メッケは墨が乾くのを待ち、紙を畳んだ。


「うむ。よくわかった」


 メッケは契約書を返した。


「次の受け渡しの日、決まったらわしらを呼んでくれるかの」

「……ご冗談でしょう?」


 メッケは立ち上がると、女の肩を二度叩いた。


「至って真面目じゃ。心配するでない。お主も被害者として話を合わせればよい。知らん女に騙され、店を使われた。気の毒な話じゃの」

「ですが、今後の商いが」

「商人ギルドのドルマとは、お主より長い付き合いじゃ。素性も確かめずに貸した仲介人がおると、あれの耳に入れるのと、どちらがましかの」

「……」

「頼んだぞ、の」

「……」


 女の返事を聞く間もなく、メッケはもう扉に手を掛けていた。

 三人は朝の通りへ出た。日は屋根の上にあった。


◆



「――それはそれとして、思ったより厄介なことになったの」


 ティリスは話に半歩遅れてついていった。


「……?」

「せやな。厄介やな」


 エリハルが槍を担ぎ直して頷いた。メッケが見上げる。


「何が厄介か言うてみい」

「……ほれ、あれや。あの染物屋が」

「ほう」

「……黒幕は染物屋やな。商売うまくいかんかったから人さらいに手出したんやろ。ほんまに悪いやつらや」


 メッケは前を向いた。


「アホかお主は。怪しいのはカナリヤ商会じゃろ。西門の、手広くやっている商会じゃ」

「商売がうまいんはええことやないか」

「無法者連中と手を組んでおるんじゃ。腕自慢や始末屋の類を出入りさせ、取り立てや競合への嫌がらせをさせる。それに何より――護衛に冒険者ギルド(わしら)に頼りにせん」


ここまで読んでくれてありがとうございます!


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