3-11
投稿間隔が空き、誠に申し訳ございません。
書き直ししまくっていて、気づいたらNetflixでピーキーブラインダーズ一気見してました_
シーズン2まで見て、髪型2ブロックにしてきました。
「――で、あの矢! ビカっと光ったら、あの化け物が地面に倒れててよぉ」
ツグリがジョッキを叩きつけるように置いて身を乗り出した。
「真っ暗闇で、あの口ん中に全部叩き込んだんすよね!?」
「マリオス、それさっきも聞いた」
「何度でも聞くっすよ! いや、自分だけ寝てて見てなかったっすもん!」
冒険者の酒場は夜が深まるほどうるさくなる。ボクらのテーブルはその中でもたぶん一番うるさかった。
カタクラに戻ってすぐ、二人は治療院、ボクはギルドへ回った。魔狼退治の正規報酬に、村がかき集めたヤーヴァン分の上乗せ。まとめて受け取って宿を押さえ、夕暮れ時に酒場で落ち合った。
「……あれ? 二人とも、怪我してたのにお酒なんて飲んで平気なの?」
「もうばっちりっすよ!」
マリオスが服の裾をぐいとまくって、脇腹をぽんぽんと叩いてみせた。勢いがよすぎて、裾の奥で下乳がちらりと覗く。本人はまるで気にしていない。折れていたはずの肋に、包帯の一巻きも残っていない。治療して数刻で元通りだというんだから、マナというやつは色々チートだな。
で、全員五体満足になったところで打ち上げである。
「まぁ、認めるよ……男だけど、確かに腕は立つ」
ツグリがジョッキの縁越しにこっちを見てぼそりと言った。彼女なりの最大級の賛辞だ。素直に「ありがとう」と受け取っておく。そうすると彼女は決まって「べ、別に褒めてねぇ」みたいな顔をする。面白いので毎回やっている。
「ジブンは肋やっちまって、途中から足手まといっすからねぇ……」
マリオスがしみじみとジョッキを傾けた。
「気にしないで。あの盾がなきゃ、そもそも森から戻れてないよ」
「うっ……せ、先輩、ユーニさんが優しいっす……!」
「泣くなぁ鬱陶しい!」
◇
酒が二巡、三巡すると、話は自然と昔話になった。
二人は同郷だった。山二つ向こうの、地図に名前が載るかどうかという村の出で、先に飛び出したのはツグリの方らしい。
「で、アタシが出てって半年したら、こいつが追っかけてきた」
「先輩が手紙くれないからっすよ」
「字ぃ習う暇があったら剣振ってからよ」
マリオスは家の三女で、婿を探すより盾を持つほうが性に合っていたらしい。追いかけてきた後輩をツグリは追い返しもせず、なし崩しにコンビを組んで今に至る、と。あの連携の噛み合い方は依頼で組んだ間柄のそれじゃないと思っていたけど、納得だ。
「ま、依頼も終わったしな」
ツグリがジョッキの底を眺めながら言った。
「あんたとも、今夜でお別れかぁ」
マリオスが黙ってボクの杯に注ぎ足した。
「……なぁ、アタシらと組まねぇ? あんたが後ろにいてくれりゃ、アタシらは周りを気にしねぇで踏み込める」
「うれしいけど、固定では組まないんだ。次はどこの依頼で街を空けるか分からないしね」
「稼ぎは山分けだぜ。悪い話じゃねぇだろ」
「気ままなのが性に合っててさ」
ツグリはジョッキをあおって、音を立てて置いた。
「……ちぇっ」
「そっすか……ざんねんっす」
しんみりした空気がテーブルに降りた。ボクとしても悪くない仕事だった。――おっと。
「ごめん、ちょっとお手洗い」
酒が回るより先に水が回った。ボクは席を立った。
◇
お手洗いから戻る途中だった。
笑い声、ジョッキのぶつかる音、酔っ払いの歌。
柱の陰のボクらのテーブルから、ひそひそ声が漏れてくる。
「……本当にやるんっすか……命の恩人なのに」
マリオスの声だった。
「……組もうって誘ったのは本気だけどよぉ」
「……知ってるっす」
「断られたんだからしょうがねぇじゃねぇか。今日を逃したら、次はいつこんな機会あるか分からねぇんだぞ」
生唾を呑む音がした。
「なぁに、危害加える訳じゃねぇって。介抱ついでに先っちょだけ、な。寝てる間に」
「……酒に酔わせて、っすか……でも」
「考えてもみろよ。ここで決めなきゃ、アタシら一生処女のままだぞ」
「……うっす」
え”っ。
「また、ナンパの日々に逆戻りなんてできっかよ……何日も粘ってよぉ……! 声かけてよぉ……!」
「無視されるの地味に辛いっす」
「ギルドの連中に、処女ってバレてみろ……! これまで築き上げたアタシらのイメージ、ガタ崩れだぜ」
「……わかった、やるっす……! 覚悟決めて女になるっす……! 店員さ~ん、火酒くださいっす……これをユーニさんのエールにちょいと加えるっす」
「へへ……。わかってるじゃねぇか」
散々ボクの腰を舐めるように眺めておいて、いかにも『遊んでるぜ』って面をしていたくせに、処女だったんかい。襲う算段を本人の酒を注文しながらやるのはどうかと思う。最低だ……。
ボクは割とマジでドン引いていた。このまま帰ろうかなとも思ったが、逃げっぱなしというのはやはり癪にさわる。
何食わぬ顔で席に戻った。
「……おかえりっす!」
「おう、ほら座れ座れ! 便所で出してきたなら追加で入んだろ」
「品が無いなぁ……乾杯ー!」
「おう……乾杯!」
「乾杯っすー!」
途端にお酌攻勢が始まった。分かりやすい。
「まぁまぁ、飲むっす! ぐいっと!」
「今日はアタシらの奢りだからよぉ、遠慮すんな遠慮すんな」
マリオスが両手で捧げ持ってきた杯はエールにしては臭いがきつい。ボクは一息で干してやった。
「……っ、い、いい飲みっぷりっすね!?」
「おいしいね、これ」
「お、おう……もう一杯いっとくか」
ツグリが手ずから注ぐ。とぷとぷと注ぎながら目はボクの喉元を見ている。
三杯飲んだあたりでボクは襟の紐をほどいた。
「……なんかぁ、暑いなぁ……」
ツグリの手元が狂って、酒が卓に散った。マリオスが布巾を掴んでボクの胸元まで手を伸ばし、そこで止まる。
「……ふ、拭くっす……」
「ありがとう」
四杯目を飲み終えると、ボクはツグリの肩にことんと頭を預けた。ツグリの肩が石になった。
「……先輩、手。震えてるっす」
「う、うるせぇ……!」
ツグリの注ぐ手つきはどんどん雑になって、ジョッキから酒が跳ねる。マリオスは目が据わりはじめている。二人のボルテージはもう沸点の少し手前だ。
「……ねむい……」
ボクはテーブルにぱたりと突っ伏した。
「「…………」」
椅子が浮きかけたところで、むくりと起きる。
「……あ、まだいけるかも」
「「っ!」」
ツグリとマリオスの目が泳ぎまくっていた。
面白いのでもう一度やろうかと思ったが、そろそろ宿が閉まる。
「……すぅ……」
頭の上で二人の視線が交差する気配がした。
がたんと椅子が鳴った。
「よ、よぉし……お、お開きだなぁ? こいつ、アタシらの部屋で、か、介抱してやんねぇとなぁ?」
「そ、そうっすね!? 介抱っすね!?」
棒読みにも程がある。
◇
宿までの道中、ボクは二人に肩を担がれて、ぐでんぐでんの演技を続けた。
「うーい……もう飲めないよぉ……」
「おーおー、歩け歩け」
「か、介抱っすー! ジブンら、酔っ払いを介抱してるだけっすからねー!」
「誰に言ってんだお前は!」
しばらく歩いて、連れ込まれたのは二人が泊まっている安宿の相部屋だった。脱ぎっぱなしの服が椅子の背に山になり、窓際には洗った下着が紐で干してある。卓の上には砥石と油壺と手入れの途中らしい小手。寝台がふたつある。
ボクは寝台のひとつにころんと転がされた。
「美人のくせによぉ……警戒心なさすぎだろ、この男……」
頭の上でツグリの声がする。憐れむような響きだ。
「……えと、どうするっすか?」
「……き、決まってんだろ。脱がすんだよ」
「じゃ、じゃあ、シャツから――」
ボクの襟元に触れた指が、途中で止まる。
「……ばか。下からだろ」
「……っ、さすがっす、先輩……!」
二人が顔を見合わせる。衣擦れの音。喉の鳴る音がふたつ。
「い、いくか……?」
ボクのベルトに、そっと指がかかる。
――ひゅん。
「「な、なんだ!?」」
二人の身体ががくんとつんのめる。手首から胴まで細いワイヤーがきりきりと食い込んで――もとい、優しく巻きついて、二人をひとまとめに縛り上げていた。介抱されながら肩を借りるふりで輪を掛けておいたのだ。酔っ払い相手なら造作もない。
「――しかし、酒に酔わせて襲おうというのは、感心できないね」
「「〜〜〜〜ッッ!?」」
ボクは寝台の上で身を起こした。
二人の顔は中々の見もので、思わず笑ってしまいそうになる。ぎょっと見開かれた四つの目が、ボクの顔と自分たちを縛るワイヤーを忙しく往復する。
「よ、酔って……潰れてたじゃねぇのかよ!?」
「名演だろう? あいにく、見た目より酒に強くてね」
「〜〜ッ、こ、この……!」
ツグリの声が途中で萎んだ。青ざめていく顔を眺めながら、ボクはにっこり笑ってみせた。
「男を酔わせて宿に担ぎ込んで、寝込みを襲おうだなんて――官警に駆け込んで、ギルドに報告したらどうなるかなぁ。立派な強姦罪だねぇ」
「騙したんっすか……!」
人聞きが悪いな。防衛行動だろう。
「……テ、テメェ、タダじゃおかねぇぞ……!」
「『テメェ』……? 今ボクのことテメェって言った……?」
強気にこちらを睨むツグリの尻をパシンと張ってやった。
「きゃっ!?」
……なんかかわいい声がでたな。
それでも縛られたまま睨み上げてくる。たいした度胸だ。
「……っ、ア、アンタ……」
「うん? アンタ?」
ツグリの尻に手のひらを置いた。びくりと彼女の身体がすくむ。
「……ユ、ユーニ……」
「ユーニ“さん”でしょ?」
パシッ
乾いたいい音が部屋に響いた。
「きゃんっ!」
ツグリの顔が耳まで赤い。男に尻を張られた屈辱がようやく怒りに火をつけたらしい。
「〜〜っ、こ、この男……なめた真似を……!」
ああ、そう来るんだ。
「へえ。じゃあさ――ギルドのみんなに、“処女”だってバラされたいんだ?」
二人の動きがぴたりと止まった。青を通り越して白くなっていく。官警に突き出すぞと脅すより、どうやらこっちのほうが効くらしい。
「……」
返事がないので、もう一度。ついでに隣のマリオスにも一発。おまけで二、三発ずつ。
「きゃんっ」
「ひんっ」
今度はもう言い返してこなかった。
うーん。見た目でわかってたけど、マリオスの方が大きいな。掌が沈む。盾を担ぐ足腰の上に脂肪が乗っていて、重い音がして揺れがしばらく止まらない。ツグリの尻は小ぶりで硬い。叩くと手のひらが弾き返されて、乾いた音が立つ。
ただ、反応はツグリに軍配が上がる。手のひらを置いただけで跳ねたし、叩けばいちいち声が出る。
さんざん叩いた尻を、今度は手のひらで撫でる。
「ごめんね、痛かった?」
「……っ、……」
「いいお尻だったから、つい」
依頼のあいだ中、人の腰を舐めるように眺めてくれたお返しだ。二人の顔が茹でダコになった。
ボクは縛られた二人の前に、営業用の顔で膝をついた。
「そんな二人にいい話があるんだよ」
にんまりとした笑みを向けると、
「なんと――この場に限り、通常料金でご案内。しかも今なら、和解金コミコミ!」
「「…………は?」」
きょとんと二対の目がこちらを向く。……そりゃそうか。言ってないから。
「ボク、売りもやっているんだ」
二人の口が開いたまま塞がらない。話がどこへ転がっているのか掴めていない顔だ。
懐から羊皮紙を一枚抜いて、二人の前に広げてやる。仕事を始めた頃に書いてもらった料金表だ。手の形、口を開けたような丸、♂の上に♀。文字はひとつもない代わりに、それぞれの横へ数字が几帳面に並んでいる。
「これが基本の案内一式。時間はこれくらいで、お代はこれくらい」
数字を追ったツグリの目が点になった。
「た……たけぇよ!! なんだその値段、依頼何件分だ!?」
「相場って聞いたんだけどなぁ」
「ち、ちなみにその……コースの内容というのは、具体的に……」
「マリオス!? お前、真剣に検討してんじゃねぇよ!?」
縛られたまま生真面目に質問してくる後輩と、それを睨む先輩。いいコンビだなぁ。
「まぁまぁ。――じゃあ、こうしようか」
ボクはとっておきの笑顔を作った。
「ボクはフリーだから、お代はボクの一存でね。他所で言わないなら、二人まとめて相手して、一回分でいいよ。相場が崩れると困るから内緒で」
「「!?」」
「先輩、それ半額っすよ。半額」
「わ、分かってるよ! 分かってるけど……!」
ツグリの喉がぐぬぬと鳴った。煩悩と財布が殴り合っている。
……まだ迷ってるのか。ボクは無言でシャツの合わせ目に指をかけた。
布が滑って、鎖骨から胸元までがランプの明かりの下に覗く。二人の視線が音を立てそうな勢いで吸い寄せられた。
にっこり笑って、二人の顔を覗き込む。
「ギルド中に言いふらされて、社会的に死ぬか。ここでボクのサービスを受けるか。――どっちがいい?」
ごくり。
喉の鳴る音がふたつ、綺麗に揃った。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
ブックマーク・☆を押すと作者の生存率が上がります。
面白いと思っていただければ下の☆☆☆☆☆からお願いします。<(_ _)>




