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3-6-2

いつもリアクションくれる方感謝やでぇ…

3章の投稿が終わったら、一旦書き溜めモードに入ります!


「じゃあ、耳取ってくるか。マリオス、手伝いな」

「あいよっす全部で6匹っすね」


 ツグリとマリオスが、討伐の証として倒れた魔狼の左耳を一つずつ切り落として、革紐に通していく。左と決まっているのは、右も混ぜれば一匹を二匹に水増しできてしまうからだ。ギルドはそのへんうるさい。


「毛皮は剥がないんすか?」

「やめときな。見ろよ、この毛艶。ごっそり抜け落ちてる。売り物にゃならねえよ。……病気持ちなら、なおさら持って帰れねえしな」


 マリオスが一匹を持ち上げて、すぐ顔をしかめて放り出した。


 ボクらは死骸を一箇所に寄せ、乾いた土に浅い穴を掘った。周りの枯れ草を払い、燃え移るものがないのを確かめてから、集めた亡骸を放り込む。マリオスが革袋の油をたっぷりと振りかけ、ツグリが火をつけた枯れ木で火をつける。


 次第にぼう、と炎が上がる。獣脂の焼ける、鼻を突く臭いが立ちのぼった。


 魔物は放っておけば疫病の元にもなるし、運が悪けりゃ、腐肉から屍鬼(グール)が湧いてくる。死骸は焼くに限る。


 炎が亡骸を舐め尽くし、やがて熾火(おきび)に落ちていく。煙が細くなり、火が消えたのを見届けてから、近くの岩を三人がかりで転がして、焼け跡に蓋をした。掘り返す獣避けと、念のための封じだ。


「よし、後始末も済んだ。さ、帰ってエールでも馳走になるか。この村のエールは結構評判がいいんだぜ」

「ユーニさんも一緒に飲むっす! 飲める方っすか?」


 二人はもうすっかり帰り支度だった。マリオスは戦鎚を肩に担いで、鼻歌まじりに来た道へ足を向けている。頭の中は、もう村のエールの泡でいっぱいなんだろう。


「……ねぇ、二人とも。帰り道、少し変えない?」

「あ? なんでだよ」


 答える前に、マリオスが「うえっ」と声を上げた。窪地の縁、藪の陰。そこに、先客の死骸があった。


 魔狼だ。数日前のものらしく、食い荒らされている。ただの共食いか、他の獣の仕業か――そう思って近づいて、ボクは足を止めた。


 両前足がない。


 食い荒らされたんじゃない。そこだけ、付け根から綺麗に齧(かじ)り取られている。他の部位は雑に食い散らかされているのに、前足だけがまるで『道具でも外す』みたいだ。


 ――前足だけの足跡。魔狼の体重より深い踏み込み。


 千切った足を、判子みたいに押して歩いた何かがいる。魔狼の仕業に見せかけるために。


 背筋を冷たいものが走った。


「げぇー、もう一匹いたっすかぁ。もう油使っちまったっすよ」

「別にいんじゃねーか? 一匹くらい、それにアタシらが殺ったわけじゃないし、勝手におっ死んでる分まで片づける義理ねぇよ。自然の摂理ってやつよ」

「じゃあ左耳だけ切り取るっすか?」

「馬鹿、それ後が面倒だからよ。放っとけよ」


 だが、そののんきな声は、もう耳を素通りしていた。千切られた前足。深すぎる踏み込み。魔狼に見せかけた偽装。ばらばらだった違和感が、頭の中で一つの確信につながっていく。


「おい、どうした? 顔色悪ぃぞ」

「……二人とも。この依頼、まだ終わってない」

「あぁ?」


 その確信を口にしかけたその時。


「おおーい」


 森の奥から声がした。


 人の声だ。間延びした呑気な呼び声。ツグリとマリオスが顔を見合わせる。


「あ? 誰かいるのか?」

「村の人っすかね。それとも他の冒険者……」


「おおーい……おおーい……」


 声は続いている。同じ調子で、同じ間隔で。少しずつ、森の奥へ遠ざかりながら。


「迷子か? おーい! こっちだ!」


 ツグリが声を張り上げて、藪をかき分けて歩き出す。マリオスも続く。ボクは足が動かなかった。


 同じ調子。同じ間隔。呼び声というのは、返事があれば変わるものだ。近づくか、大きくなるか、言葉が増えるか。なのにあの声は、ツグリが返事をしても、まったく同じ「おおーい」を繰り返している。壊れた蓄音機じゃあるまいし。


 声のした場所に差し掛かる。


「……待って。二人とも、止まって」

「あぁ? 人が困ってるかもしれねえだろ」

「さっきの声、返事に反応してないだろ。人じゃないよ」


 二人の足が止まった。


「はぁ?」

「怖いこと言うなっす……」


 耳を澄ます。森の音を、一枚ずつ剥がすように聞き分けていく。風や梢のざわめき。遠くの沢音。ボクらの呼吸。


 近くに居るな。


 頭上、右手前方。風が渡って森じゅうの枝葉が鳴っているのに、あの木――あの太い横枝の一角だけ、音がしない。葉が揺れていない。まるで、枝の上に何か重いものがぶら下がって、押さえつけているかのようだ。


 そこだけ静かだ。


「動くな。そこでストップだ」

「はぁ?」

「何? 何の話っすか?」

「戦闘準備だ」


 ボクは矢筒からゆっくりと、弓に番(つが)える。葉叢の陰。木漏れ日の途切れた暗がりの中で。


 何かと目が合った。


ここまで読んでくれてありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
カクヨムよりもこっちが早いんですかね? 面白い作品なのでこっちも読みますけど
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