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第一話

 私立光来(こうらい)高校には昨年度から、生徒間の問題を解決するための特殊な部が存在していた。

 とはいえ部員は二名で、顧問の座は空席。その上生徒会の許可を得ていないため、正式な部活動ではない。しかし、特に大きな問題行動を起こしているわけではないので、教師や生徒会からはお咎めなし。もちろん部費もない。

 すなわち、完璧なボランティアサークル。それが八百万探偵部である。


「――で、俺が八百万探偵部部長、二年の夜岬慎(よみさきしん)だ。よろしく」


 部の活動の概容を伝えた後に自己紹介をして、ワイシャツを少し着崩した黒髪癖毛の少年――慎は依頼人へと軽く頭を下げる。


「二年の天音円(あまねまどか)です。よろしくお願いします」


 依頼人の円も、慎に会釈する。


「へー、同学年か。それにしては会ったことないよな」

「クラスが離れていればそういうこともありますよね。……ところで、そちらの方は……?」


 円は、慎の隣で椅子に座り黙々と読書をしている少女の方へと、目を向ける。

 少女の眼鏡の奥にある黒い瞳は薄く開かれていて、質の良さそうな黒髪は肩の辺りで切りそろえられている。真面目で大人しそうな雰囲気であった。


「……副部長……琴羽文(ことはねあや)。……二年……」


 文は一旦円を見すえ、端的に、無表情で応じる。そして再び、読んでいた本へと視線を戻した。

 ――あれ? なんだか嫌われてる?

 円が考えていると、


「こいつはな、人と話すのがちょっと苦手なんだ。別に嫌われてるってわけじゃねーから気にすんな」

「……え? あ、はい」


 自分の心を読まれたようで、びっくりした。


「まあ、とりあえず天音さんも座って」


 慎に言われるがままに、円は近場にあった、木と鉄パイプでできた椅子に座る。

 慎も手近な椅子を取り、机を間に挟む形で円の前に腰を下ろすと、質問に移った。


「で、今日はどんな依頼で?」

「はい、そのことなんですけど――」


 要件はこうだった。

 二学期になって、円の所属するバスケットボール部は、主導権が本格的に二年生へと渡った。そして二学期になって少し経った今、代替わりして最初の大会を間近に控えている。新たな世代の真価が問われる、極めて重要な大会だ。

 大会のスターティングメンバーには円も選ばれている。しかしそんな円に数日前から、『大会に出場するな』という内容の奇妙な手紙が届き始めた。


「『手紙が届いた』ってのはどんなふうに? 宛先の書かれた手紙がご丁寧に家まで送られてきたわけじゃねーだろ?」

「部活の後、鞄の中に入ってました」

「その手紙、今持ってるか?」

「ここに」


 あります、と円は鞄から三通の封筒を取り出し、慎に差し出した。慎は封筒を受け取り、中身を確認する。白紙の上から殴り書きされた文面が現れた。


「なになに、まず一通目が――」


 一通目、『お前は大会に出てはならない。出場は不幸へと繋がる』

 二通目、『これは忠告ではない。警告だ。早期に出場を辞退しろ』

 そしてラスト、三通目、『警告を無視するお前には、大いなる災いがその身に訪れるこ

ととなる。覚悟をしておけ』


「――この手紙、他の誰かに見せたのか?」

「いいえ。私も本気にしてませんから、相談の必要もないかと……。ですけど、三通も送られてくるとさすがに不安で……。そんなときに八百万探偵部のチラシを見つけたので、相談してみようかなと」


 チラシとは、灯が依頼人獲得のために作ったものだ。カラフルなデザインの上に『お悩み相談、なんでも承ります』と書かれている。なお、部自体は生徒会非公認だが、チラシはきちんと掲示の許可をもらっている。


「それじゃあ依頼の方は、脅迫状を送ってきた人物を調べるってことでいいのか?」

「はい」

「わかった。じゃあまず、天音さん自身、送り主について思い当たる節はあるか?」

「……えっと……一つ、あるにはあります」


 円はそこで、言葉を濁した。


「……実は私、大会のスタメンになれるかどうか、微妙なところだったんです」

「というと?」

「単に実力不足です。大会の主力メンバー五人の内、四人は早い段階から決まっていたんですけど、最後の一人については候補が何人かいたんです。私もその中の一人でした。そんなとき――選手選抜の少し前に他校との練習試合があったんです。そのとき私は補欠で出場したんですけど、試合で偶然いいプレイができました。それが先生の目に留まって、大会出場が叶ったんです」

「つまり、そんな天音さんのことを気に入らない奴がいるってことか?」

「……はい、あくまで仮説ですけど……」


 仮説と言うが、円には他の心当たりがなかった。……もっとも、そんな仮説は自分でも信じたくはないのだが。

 事実、自分が選手になったことでメンバー落ちした人もいるし、そうでなくとも先生の目の前で偶然いいところを見せ、それでメンバーに選ばれた自分のような存在は、誰が見ても腹が立つ。


「まあ、今のところその線で調べるのが無難かもな……。文はこの手紙、どう思う?」


 慎は、文に全ての手紙を手渡す。文は、軽く流すように読んでから、一言、


「……おかしい……」

「え? 手紙見ただけで何かわかったんですか?」


 と、円が不思議そうに訊いてくるが、


「…………」


 しかし文はそれ以上の反応は見せなかった。


「とりあえず、これで大体の概要はわかった。天音さん、バスケ部って今日部活あるよな」

「はい、これから他校との練習試合です」

「見学はオーケーか?」

「えーっと……二階からフロアを見渡す分には問題はないはずです」


「そうか」慎は眉間に人差し指を当て、何やら考え始める。

 そして数秒その状態で固まっていたかと思うと、唐突に「よし」と、得心がいったと言わんばかりに柏手を打ち、言った。


「調査開始だ!」

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