第二話
その後すぐさま女子バスケ部の部室まで行った円は、ユニフォームに着替え、点呼まであと数分というタイミングで体育館へと駆け込んだ。
「どうしたん? 円。いつも一番のりで部活に来て自主練してるあんたにしては珍しいね」
女子バスケットボール部部長の早瀬雅は、普段より若干遅れて体育館までやって来た円に問いかけた。
「ごめんね、ミヤちゃん。ちょっと職員室に用事があって」
まさか、脅迫状が届いたから調査の依頼をしてきたなんて言えるわけもなく、適当な返事をする円。そして、その後ろには――
「? 円、その人たちは?」
円の後ろには、自称探偵の二人組がいた。
「この方々は……その――」
どう答えようか悩んでいると、慎がおもむろに一歩前に出て、笑顔で口を開いた。
「僕は二年の夜岬慎、で、こっちが同じく二年の琴羽文です。実は僕たち、先日テレビでやっていた試合を見てからバスケットボールに興味を持ったんです。それで、友人の天音さんに試合が見たいと相談したら、今日女子バスケットボール部で他校との練習試合があることを聞きました。よろしければ二階から見学させていただきたいのですが、よろしいですか?」
随分と器用な嘘をついたものだ。それに、先程教室で話したときと比べて、喋り方そのものまで変わっている。
明るい声で大きめに話し、発音もハキハキとわかりやすくしている。雅から見たら相当好印象だろう。
「別にいいよ。じゃあ、もうすぐ部活始まるから二階に行って。相手の高校が来て、お互いウォーミングアップと基礎練やったら練習試合になるから」
雅はボールを手に取り、慎たちから離れていった。入れ替わりに、短髪の少女が円の元へ笑顔で近づいてきて、陽気な声で円に話しかけた。
「ま~どか~」
「あ、タマちゃん」
タマちゃんと呼ばれた少女は、円の前まで来て足を止めた。
「どうしたの? 遅刻ギリギリじゃん」
雅と同じ質問をしてくる。
「ごめん、ちょっと職員室行ってたの」
円も、芸もなく同じ言葉で返した。
「なになに~? 円なんかやらかしたの?」
「そんなんじゃないよ~! ちょっと提出物があったの」
もちろん嘘だけど、本当の理由を話すわけにもいかないから仕方ない。
――と、そのとき、
「――あれ? 夜岬さんどうしたんですか?」
円が慎に尋ねる。慎は、円と話している少女を見て、どこか怪訝そうな顔をしていた。
「――ん? いや、なんでもないですよ」
例の偽りの口調で、笑いながら首を横に振る慎。『なんでもない』と言っているが、どこか違和感があった。しかし慎はその違和感について何も教えてくれそうにはない。
円は詮索をやめた。
「円、そこのお二人さんは誰?」
『タマちゃん』が、再び問う。
「えーっと、二人は今日練習試合を見にきた二年の――」
「夜岬慎です。こっちが琴羽文。よろしくお願いします」
円の台詞を、慎が取り次ぎ、自己紹介する。すると少女もそれに応じた。
「あたしは神葉環。円とは小学校からの友達よ。よろしく」
環は明るい声で言った。
「タマちゃん、そろそろ点呼の時間だよ。行こう」
「あ、ちょっと待ってて。あたし飲みもの買ってくるから」
そう言い残して、環は体育館から出ていった。
「じゃあ、俺達は上に行ってるよ」
今度は慎が円に声をかけた。口調は戻っていた。どうやらさっきの喋り方が出るのは、依頼に関係のない人間の前だけのようだ。
「――あ、はい」
わかりました。頷いてから、
「調査お願いしますね」
「任せとけって~」
慎は手をヒラヒラと振りながら階段の方へ歩いて行き、文もそれに黙々とついて行く。
あまりにも軽いノリだったので、円の頭には再度、当初の不安が蘇った。




