第60話 神殺し
「もう諦めたら?」
膝をつくジェーエルにジェーエルに突き刺さる辛辣な声。
その主であるギギラ・クレシアは70の魔法陣を展開しながらじりじりと彼女に詰め寄っていた。
「もう分かったでしょ?今のギギラに勝てないんだよ、君は」
「えぇ。それは間違いないのでしょうね」
「だったらー」
「でも、貴方だって私を殺しきれていない」
ジェーエルはぐったりと立ち上がる。
そして、両手を天に掲げた。
「確かに、いまのあなたに私が打ち勝つのは不可能でしょう。しかし、それと同時に貴方は神である私の装甲を超えられない」
「へぇ、本当にそうかな?」
「先ほどの猛攻はまぎれもなく、貴方の本気です。それを直に食らっても私は死ななかった。体もこうして動くレベルのダメージで抑えられた。それが何よりの証拠です」
ジェーエルの両手から、赤い色があふれ出る。
それはいグルグルと地面をはい回り、そして徐々にドーム状へと変化する。
「貴方の魔法陣も、愛の力を束ねたという拳も、私を傷つけこそすれ殺すに至らない。貴方一人で私を殺すにはざっと千年ほどの歳月は掛かるでしょう」
その言葉に合わせるように、赤い色は一つの結界に成り代わった。
「であるのなら、私は千年あなたと戦いづつけましょう。殺せないのなら、この場所で永久に足止めをしましょう。この赤き檻の中で」
ジェーエルは構える。
体中に赤い色を張って、攻撃を受け止める事に全身の神経を集中させる。
「まぁ、確かに……ギギラ一人じゃ、君を今すぐぶっ殺す事は難しいかもね」
そんなジェーエルを見ても、ギギラの顔は余裕そのものだった。
「実はさ、神器人形になったギギラは人間だった頃と明確に違うところがあるんだよね」
ギギラがパチンと指を鳴らす。
それと同時に現れたのは青いゲートだった。
「それは、彼氏を保管している空間。より楽しく、よし過ごしやすく、より安全な場所へリフォームしたんだよね」
「一体何が言いたいのです?」
「つまり、その分彼氏の回復も早いって事」
そんなギギラの声に答えるように飛び出たのは鉄のグローブ。
「君がさっき彼氏に与えたダメージはついさっき全回復したんだよ」
グローブがギギラの両手に絡みつく。
それと同時、ギギラが飛び出した。
「彼氏No4、【悲哀懐古の殺人鉄拳グラーケ】」
「そうか……そうでしたね。貴方は常に一人ではなかった」
「暗殺拳:崩撃」
ギギラの拳がジェーエルを穿つ。
さっきまでのパンチとは明らかに格が違う一撃がジェーエルの命を狩り取る。
「そ、ギギラ一人で神を殺せないなら、皆の力を借りればいい」
次いで、ゲートから新しい武器が降ってくる。
「彼氏No18、【写し鏡の流水剣ルキーラ】」
考えれば当たり前の話。
使い手であるギギラ・クレシアがここまで強くなっているのだ。
ならば武器を使って与えるダメージも今までの比ではなくなってくる。
「70の魔法陣をおじさまに同期。魔力で作られた水の刀身を強化」
「躱すことは不可能……ならば迎えー」
神の右手さえも簡単に切り落とす事だって簡単にできる。
「私の右手があの一瞬で……」
「やっぱり、彼氏の力があれば100%勝てる」
ギギラはそう言いながら装備していた武器をゲートに戻す。
「だったら最後はやっぱり、うん。君に決めてもらおう。このコロシアムでの戦いの一番の功労者に」
そうしてゲートに手を突っ込む。
そこから取り出したのは、もはや見慣れた小さな杖。
「彼氏No69【不全能の短剣杖バラン】」
「俺で決めるって……火力どうするんだよ」
「バラン君の足りない火力はギギラが補うよ。だから遠慮なくラストアタック決めて」
ギギラがバランに魔力を込める。
それと同時、真っ白だったギギラの魔法陣が虹色に染まる。
「バラン君の魔弾を70の魔法陣に同期」
魔法陣がジェーエルを包囲する。
対抗するように、彼女は糸で出来た弾丸を無数に生成した。
「言っとくけど、そんな技じゃ止められないよ?」
「やってみたいとわかりません。それに、神として諦めるのは許されませんから」
互いの視線が飛び交う。
一瞬の静寂の後、両社の攻撃が飛び交った。
「民意断罪【ヘイト・フル・レーゲン】」
「|全力砲撃・足掻きの混沌魔弾!!」
ギギラが名張ったのは70もの虹色の砲撃。
それは赤い弾丸を飲み込み、神を穿つ。
ジェーエルの死を現すように、彼女の張った結界が徐々に崩壊していく。
「そう言えば、この結界が無くなればギギラ達を縛るものってないわけだよね」
「え、じゃぁ脱獄できるんじゃね??」
「そう言う事!!じゃぁバラン君捕まって。飛ぶよ」
「飛ぶってお前……ぐぇぇぇ?!ちょっと勢いがー」
そうしてギギラ・クレシアは地面を強く蹴り、空へ飛び出した。
青井空へ向かって姿を消し、コロシアムという檻からの脱獄を果たすのであった。




