1年後の日常/記念すべき100人目
「一年ぐらい前かな、この辺りにコロシアムって建物があったんだよ」
「死刑囚を戦わせてた所?」
「そう。今はもう崩壊しているけどね」
僕の名前はコード・アルマイン。
一年前に失われた『禁術』という魔術現象を専攻に研究をしている者だ。
「コロシアムには凶悪な死刑囚を閉じ込める結界があったんだよ。ちょっとやそっとの衝撃では壊れないレベルの強いのがね」
とはいっても、現状『禁術』について記録されている資料は少ない。
禁術使いは一年前に起こったある事件を境に全滅している。
「それがどうしてこの有様に?」
「ギギラ・クレシアって死刑囚がぶっ壊したんだよ」
だけど、『禁術』に関する手掛かりは一つだけあるんだ。
コロシアムから唯一脱獄した死刑囚、ギギラ・クレシア。
彼女は元禁術使いであり、またこの世界のどこかに生きている。
彼女と接触する機会があれば、僕の研究も大きく進むことだろう。
「それにしても珍しいね。ルルラが僕の仕事を手伝ってくれるなんて」
「コロシアムに行くって言ってたからさ。気になっちゃったんだよね」
そうそう、僕の隣に居る彼女についても説明しよう。
彼女はルルラ・レクレシア。
僕に出来た初めての彼女だ。
◇
「ルルラあんまり詳しくないんだけどさ、そのギギラ・クレシアって死刑囚が脱獄した後コロシアムはどうなったの?」
お昼時。
ルルラと一緒に定食屋のテーブルを囲う。
彼女は眼鏡をクイッと光らせながらそんな質問を投げかけた。
「ギギラ・クレシアが結界を壊した影響で、死刑囚達の反乱がおこったんだ」
「ほうほう」
「だけど、それをコロシアムの管理していた監獄長のジャンネ・ダルケーが沈めたんだよ」
学者の中では結構有名な話だ。
コロシアムを管理していた連中は神様から【役割神託】と呼ばれる力を授かっていると言われている。
あるものは不死身の体を得たり。
あるものは民衆の思いを力に変え、最後には神に至っているらしい。
「監獄長には『神の死体を複製、操る能力』が神様に与えられていたそうだ」
「……じゃぁ、その複製された神様の軍隊で死刑囚達はやられちゃったんだ」
「ギギラ・クレシアを除いてね」
「……なるほどねぇ。あそこでジェーエルが神になったのも規定路線って訳ね」
「ん?ルルラ、何か言ったか?」
「ううん。なんでもない。独り言」
そんな会話をしていると、食事が届いた。
簡素なご飯とスープ。
しかし、値段はびっくりするほど安い。
僕みたいな貧乏研究者がどれだけこの定食に助けられたことか。
「悪いなルルラ。こんな簡素な昼食で」
「全然いいよ。ルルラ、ちょっと前まで残飯ばっかり食べてたからさ。普通のご飯が食べれるだけで幸せって感じ」
そうして二人で昼食を食べる。
僕はそんな静かな時間が好きだった。
「ねぇコード君。もう一つ質問して良い?」
「ん?良いよ」
「どうして『禁術』の研究を始めたの?」
一瞬静寂が流れる。
「ちょっと興味があったんだよ。今は失われた力って考えるとロマンがあるだろ」
そう言葉を濁した。
本当はもっと別の目的がある。
でも、こんな危険な目的に彼女を巻き込みたくなかった。
◇
「今日もそれほど情報は集まらなかったか」
ルルラと別れた後、裏路地を歩きながらトボトボと歩く。
「僕はいつになったらアンタの仇を取れるんだろうな……兄貴」
コロシアムの崩壊とそれにまつわる事件、それには実は続きがある。
大量の神を従える事に成功した監獄長ジャンネはその後、この世界を裏で支配しているのだ。
そして、犯罪を犯しそうな人間。
一度犯罪に手を染めた人間。
この社会に不都合な思想を持つ人間。
そう言った人々を神を使って殺している。
その理由は曰く、『平和な世界を作る為』
僕の兄もその神に殺された。
だから僕は、神への対抗策として『禁術』を研究し始めたのだ。
「上手く行かない。本当に上手く行かないよ全く」
そうぼやいてトボトボと歩く。
その瞬間の事だった。
「コード・アルマインさんですね」
心臓を突き刺す様なプレッシャーが背後から襲いかかった。
僕はおそるおそる振り返る。
「あ……お、お前は」
そこに立っていたのは、赤い軍服を纏ったゾンビ。
無表情の顔を貼り付け、赤い糸を操る化け物。
僕の兄を殺した……複製された神。
「私は【赤き軍服の戦神】。この世界の治安を維持するため、危険な人物を間引いている存在です」
「僕を……殺しに来たのか?」
「貴方の研究に関する警告は何度も行われているはずです。しかしながら、貴方は研究を辞めなかった。ゆえに、貴方を危険因子だと世界は断定しました」
赤い糸が僕を囲んでいる?
これは結界か?
「助けは来ませんよ。もちろん貴方の死を見届ける人間もいません」
「こんなのが世界平和に繋がると君たちは本気で思っているのか?!」
「ルールを守るものが生き延び、ルールを破ったものを間引く。この平穏を享受する者を生かし、この平穏を壊そうとするものを間引く……どこにも間違いはないでしょう?」
「ただの独裁と何も変わらないじゃないか!!」
そんな僕の訴えも、きっと無意味なんだろう。
神が一歩一歩近づいてくる。
「改めて、コード・アルマイン。貴方をこの平穏を壊そうとした大罪人と認定します。罪人には、死の裁ー」
「あのさぁ、ルルラの彼氏に酷い事しないでくれる?」
僕が死を覚悟したその瞬間だった。
この場に居ないはずの彼女の言葉が響く。
「嫌な予感がして様子を見に来たらこれだよ。やっぱり君達の正義はどこかおかしいと思うな」
「我々に意見するつもりですか?」
「もちろん。だってルルラ、君達の事嫌いだから」
神に対して動揺せず、堂々をルルラは意見を口にした。
「待っててコード君。今助けるから」
「やめろルルラ!!殺されるぞ!!」
「大丈夫だよ。ルルラ超強いから」
彼女はそう言うと、そっとかけていた眼鏡を取る。
「あと一つ、コード君に謝らないといけない事があるんだ」
「え?」
「実はね、ルルラ・レクレシアは偽名なの」
その眼鏡を取った瞬間だった。
彼女の輪郭がぼやけ始める。
「この眼鏡には現実改変能力が付与されてるんだ。その名も彼氏No94【夢限王国の色眼鏡アリュード】」
「彼氏No……それってもしかして」
僕がその答えを出す前に、目の前の神の動き始めた。
その両手に赤い糸を纏い、ルルラだと思っていた女性へと襲い掛かってくる。
「本当の名前はギギラ・クレシア!!君が追い求めていた、コロシアム唯一の脱獄者だよ」
そんな神の攻撃を軽々と彼女は受け止めた。
「のんびりと戦ってると援軍呼び出されて面倒そうだよねぇ。バラン君、手伝って」
彼女の背後に穴が開く。
その穴からは空を飛ぶ杖が飛び出した。
「全くシャーねぇな。さっさと終わらせるぞ」
「了解了解っと。99の魔法陣をバラン君に同期」
杖とギギラ・クレシアが言葉を交わすと、神を取り囲うように大量の魔法陣が現れた。
「|全力砲撃・足掻きの混沌魔弾!!」
魔法陣が一斉に虹の光を帯びる。
その一瞬で、神は跡形もなく消滅した。
「あの神を……一瞬で」
「言ったでしょ。ギギラ超強いんだよ」
彼女はそう言うとトテトテとこちらに歩いてくる。
「ねぇコード君。君の研究って、あの神への復讐の為にしてたんでしょ?」
「なんでそれを?」
「ギギラ、男を見る目には自信があるからね。なんでもお見通しなの」
自慢げな顔をする彼女を俺はジッと見つめていた。
吸い寄せられるような感覚があった。
それが恋心なのか、好奇心なのか、それは分からない。
ただ一つ確かな事が一つ。
僕の心は今、ギギラ・クレシアという女性に強く惹かれているという事だ。
「コード君。よかったらギギラ達と一緒に来ない?記念すべき100人目の彼氏として」
「僕が100人目」
「君の復讐も手伝うよ。何なら、さっきの話で出たジャンネって人を殺してあげる」
「どうしてそこまで」
「君の事が好きだから。それじゃダメ?」
にっこりと笑顔を浮かべて彼女を手を差し伸べて来た。
今の僕に、彼女の提案を断る理由はもはやなかった。
「こんな僕で良いなら、喜んで!!」
そっと僕は彼女の手をつかみ取る。
きっと、僕も彼女の今日という日を忘れることは無いだろう。




