第57話 彼女を信じる
「なんで今の攻撃を受けて死んでねぇんだよ!!」
「想定を上回る威力ではありましたが、作戦に支障はありません」
大弓を構えた青年が怒号を上げる。
その少年はギギラ・クレシアの44番目の彼氏であるベイリルその人であった。
「俺がギギラの彼氏の中じゃ一番の火力なんだ。それを易々と受け止められちゃかませにされてるみたいじゃね~か!!ムカつくぜぇぇぇ」
もちろん、彼の攻撃を受けたジェーエルにとっては易々と受け止めたつもりはない。
攻撃を中断して防御し、それでもなお体にかすり傷が出来ているのだ。
ジェーエルが神になって初めて受けた傷。
それを刻む栄光をつかんだのは間違いなくベイリルなのだ。
「ギギラが戻ってきたときに、全部俺が終わらせたって言うプランが台無しだ!!どう責任取ってくれる!!」
まぁ、70人いる彼氏の中で一番嫉妬深いベイリルには関係のない話ではあるのだが。
『ベイリル君には悪いけど、ここで畳みかけるよ』
そんな彼をよそに、ギギラの体に憑依しているラウズが能力を発動。
ジェーエルの頭上に二つの扉が現れる。
刻まれた数字は『14』と『51』。
『彼氏No14、【亡国の王斧ゼノ】及び、彼氏No51、【嫉壊れた天秤アンプル】その身体を我が権能で再構成する』
扉から屈強な男が二人、落下する。
片方が持つのは余りにも巨大な斧。
もう片方が持つのは片方の皿におびただしい量の剣が刺さった天秤。
「あの女が苦戦するほどの戦士……いや、神と来たものだ!!興味が尽きぬ、我が斧もうずいている。手合わせ願おうか!!」
「やはり戦争はシーソーゲームで無いと面白くない。未来の暗い少女の彼氏になった甲斐があったというもの」
二人の男が合わせて攻撃を振り下ろす。
ジェーエルは両手でその攻撃を受け止めるが、勢いを殺し切れず。
その身体を後方へずらされてしまう。
「おいてぇめら!!手柄取ろうとすんじゃねぇ!!ギギラからMVPをもらうのはこの俺!!ベイリル様なんだよ!!」
「自分も加勢するッスかね。凍らせて隙を作るぐらいなら出来るッスから」
他の彼氏達も続々とジェーエル攻略に加勢する。
決してダメージを与えているとは言えない。
でも、確実にあの神を押している。
「すげぇ!!流石あのギギラの彼氏になった連中だ」
『それ、君も同じだよ。バラン君』
そんな彼氏達の奮闘を見ながらバランは興奮していた。
ジェーエルが神になってから、ずっと劣等だった戦況がついに動き始めたのだから。
「これ、このままジェーエルに勝っちまうんじゃねぇのか?!」
『いや……それは難しいだろうね』
「何でだよ?!こんなにいい感じなのに??」
『相手の息が切れていないんだ。神になっている影響か、彼女のスタミナが全く減っていない』
要はじり貧だ。
ジェーエルの防御力とスタミナがあれば、ラウズのスタミナが切れるまで粘ることが可能だろう。
一方で、こちら側はジェーエルを一撃で削り取る攻撃力を有していない。
ギギラが彼氏達の特性を理解しつくして放った最大限の攻撃を受けてもコロシアムに立つジェーエルを打ち倒す方法を『彼氏の体を再構築』するだけのラウズでは持ち合わせていない。
「じゃぁどうするんだよ?!」
『僕たちに出来ることは時間稼ぎだよ。ギギラを信じてね』
「あいつを?」
『あの子は自分の問題を彼氏に投げっぱなしにするような女の子じゃない。きっと、この状況を打開する手段を持って戻ってくる』
そう言い放ってラウズはまた能力を発動した。
今度現れた扉は4つだ。
『だから死ぬ気で時間稼ぎしないとね。ギギラが戻ってくるその時まで』
「ま、確かに女に負けたまま尻尾巻いて逃げるやつじゃないよな……ギギラは。よし、俺もやってやる!!」
『君のサポート力の高さには期待してるよ』
「そりゃどうも。所で俺には人間の体貰えないのか」
バランがそんな問いを投げかけた時、ギギラの体を借りているラウズがすっと視線を逸らす。
『君は武器の状態で意思疎通が出来るよね……その特性が僕の能力とどうもかみ合わないみたいで』
「マジ……かよ?!」
『まぁ、頑張って!!』
「全力で話しそらしやがったなこの野郎!!」
文句を言いつつ、バランも戦場へ加勢。
神と対峙した男たちは愛する彼女であるギギラ・クレシアを信じ、決死の時間稼ぎに挑むのだった。
◇
「ここは……」
『おはようギギラ・クレシア。良い目覚めだね』
自分は何をしていたんだっけか。
そうだ、ジェーエルと戦って……カウンターで赤い弾丸を打ち込まれてー
「ッ、そうだ!!」
そこまで思い返した所でギギラ・クレシアの意識は覚醒した。
ジェーエルに一発やられて気を失っていた事を思い出し、すぐさま周囲を確認する。
しかし、彼女の視界に潜り込んできたのはコロシアムの光景では無かった。
真っ赤に染まった一つの独房だ。
「ここは?」
『君の精神世界だよ。私と話すなら適任の場所じゃない??』
からかうような女の声。
それを聞くだけでギギラの神経は逆立ってしまう。
バッと声がした方向を振り向き、戦闘態勢に入る。
そこで待っていたのはー
「他人の真似なんて悪趣味だね」
『嫌だなぁ悪趣味なんて。ずっと君の体に居たんだからこうなっても仕方なくない?』
自分と瓜二つの人間。
もう一人のギギラ・クレシアがそこに立っている。
「ここはギギラの精神世界って言ってたよね。そこにギギラ以外の女が居るのはおかしいんじゃない??」
『そんな事ないよ。だって私はある意味であなたの体と精神に染みついているんだから』
「何急に??気持ち悪いんだけど??」
『察し悪いなぁ。私はね、君が持ってる禁術だよ。【武器化の禁術】』
「……態々女の姿になってまで何の用?」
『良いお知らせと悪いお知らせがあるから教えてあげようと思ってさ。どっちから聞きたい?』
「悪いけどギギラは女とそういう事したくないの」
『じゃぁ悪い方からいうね』
【武器化の禁術】を名乗ったそれはスーハーとわざとらしい呼吸を始める。
ギギラの苛立ちが頂点を迎えそうになったその時に、彼女はその悪い知らせを口にした。
『今の君じゃあの子に勝てない……所詮『目無しの女』から貰った力でしかない【武器化の禁術】じゃ神に叶わない』
「……じゃぁ、良い知らせって言うのは」
『君が神に勝てるかもしれない方法を私は知ってる』
「どうするのさ」
『貰った力じゃなくて君自身の力にすればいい。ギギラ・クレシアという人間に直接【武器化の禁術】をかけてね』




