第56話 彼氏No01、原初の聖盾ラウズ
ジェーエルは慌てることなく、ジッと彼を見ていた。
ギギラ・クレシアの体に憑依している男、ラウズがどうやって彼女の体を動かしているのかを。
「なるほど。本当にただ憑依しているだけ」
切り飛ばしたはずの左腕はなぜか再生している。
だが彼の動きを見る限り、回復しているのはそこだけだ。
少し前にズダズダに切り崩したギギラ・クレシアの神経は治っていない。
彼女に憑依したあの男は、彼女の体を満足に動かす事は出来ない。
それが分かれば十分だ。
先ほどと同じ様に圧倒的な火力で押し切って倒せばいい。
神となった今のジェーエルにはそれが可能な力があるのだから。
「民意断罪【ヘイト・フル・レーゲン】」
彼女の背後で糸の弾丸が無数に作られる。
弾丸は約一秒後に一斉射撃を開始する。
◇
「おいおいおい!!」
視界を埋め尽くす赤の弾丸を見てバランは狼狽した。
疲労困憊中の彼にはこの状況を覆す方法は無いからだ。
「あんたの盾だったらこの攻撃防げるとかある?」
今のバランにとって唯一の希望は、つい先ほど現れた彼氏No01、【原初の聖盾 ラウズ】ただ一人。
ギギラに憑依している彼にバランは祈るように問いかけた。
『あれを僕の盾で防ぐのは不可能だね』
「え……じゃあ詰みじゃね~か?!」
『確かに僕一人では不可能だ。でも、そう悲観することは無いよ』
もうおしまいだ!!
と、泣いてわめくバランを慰める声を掛けながらラウズは盾を構える。
『だって僕達は一人じゃないんだから』
瞬間、盾が淡い光を帯びる。
『彼女を護る我が同胞をよ!!盾の呼び声に応えたまえ!!』
赤の弾丸がバラン達に届く直前、盾と同じ光で構成された扉が出現する。
その扉には『23』の数字が刻まれていた。
『彼氏No23、【絶対零度の魔法杖コキュート】その身体を我が権能で再構成する』
ラウズの事が響く。
すると光の扉がバっと音を立てて開きー
「いや~。恐ろしい攻撃っスね。ま、凍ってしまえば無意味ッスけど」
白く長い杖を持った青年が現れた。
瞬間、青年が杖をジェーエルに向ける。
「不肖コキュート。ギギラちゃんの危機って事で推参ッスよ」
パキっと音が鳴る。
視界を覆いつくしていた赤の弾丸は数秒とかからず全て凍り、その動きを停止したのだ。
「まぁ、ザッとこんなもんッスね」
「んな……もしかして、アンタの能力って」
『君の想像だよ。ギギラに武器にされた彼氏の肉体を再構成できるんだ』
「んなもんアリなのか……」
「まぁラウズさんってギギラちゃんの最初の彼氏ッスし。それぐらい出来ても良いんじゃないっスか?」
『にしても凄い氷だねコキュート』
「そりゃもちろんッスよ。あの神様ごと凍らせたんで」
「どんな威力だよ。ま、これで少しはゆっくりできるか」
三人の彼氏が談笑する。
そんなほっこりとした時間も束の間。
「民意断罪【ヘイト・グレーター】」
ジェーエルが氷を無理やり砕いて前進し始めた。
「えぇ……マジッスか」
バキ!!バキ!!と崩壊の音が響く。
両手の赤い渦で氷を壊したジェーエルはダン!!と地面を蹴って3人に向かって急接近。
その攻撃を迎え撃つように、ラウズは新たな扉を形成する。
扉に刻まれた数字は『44』。
『【彼氏No44、【嫉妬狂いの風穿弓ベイリル】その身体を我が権能で再構成する』
次の瞬間、扉を荒々しい竜巻で破壊しながら一人の青年が現れる。
彼は幾度となくギギラを助けた大弓を構え、怒号を上げながらジェーエルを睨む。
「ふざけんじゃねぇぞテメェ!!あそこは俺とギギラの攻撃でお前を倒して終わりって所だっただろうがぁ!!お前と言う強敵を倒し、『やっぱり一番頼りになるのはベイリル君だね』とギギラが惚れなおし、俺が70人の彼氏の頂点に立つ流れだっただろうがぁ!!」
「何を言っているのかよく分からないのですが?」
「お前が神なんかになったせいで俺の予定が台無しだって言ってんだよぉぉ!!!死ねや!!」
大弓に装填された空気の矢が轟音を立てて発射する。
その威力は彼の怒りを表すがごとく、ジェーエルの攻撃をはるかに凌駕した。




