第52話 ジェーエルとジャンネ
『ジェーエル。あなたは外で遊ばないの?』
『はい。幼少期に勉学へ励むことが、この家に生まれた私のやるべき事なで』
遥か昔の話。
ジェーエルは不気味な子供として扱われていた。
子供らしい無邪気さを一切見せず、ただただ勉学や仕事に勤しんでいる様な子供だった。
背伸びをしているわけでも、他の子供に嫉妬しているわけでもない。
ジェーエルの心の中にある、『やるべき事』をただ淡々とこなすだけの少女であった。
『そんなこと言うなよジェーエル。お前みたいなガキは遊ぶのが使命だぜ』
『ジャンネ』
ただ、そんな彼女にも友と呼べる存在が一人。
『あなたの神様がそう言ったのですか?』
『あぁ。お前さんの好きな正しい行い、世界を良くする行いだ』
『そうですか。では遊びましょう』
その青年は神の声が聞こえると豪語する異端の天才児であった。
その名をジャンネ・ダルケー。
後の世で、死刑囚をコロシアムに監修し続ける二人の出会いはここから始まっていたのだ。
◇
「今のは」
自分は夢を見ていたのか。
そう思いながらジェーエルは意識を回復させる。
「私はギギラ・クレシアに殺された。これは死後の世界でしょうか」
「いや、まだ死んじゃいねーよ。ここは生と死の間にある世界だ」
聞き覚えのある声がする。
朦朧とする意識の中で、ジェーエルが見たのは変わった服を着ているジャンネ・ダルケーの姿だった。
「あなたがここに居るという事は、私にはまだー」
「あぁ、やってもらう事がある。むしろ、俺と【耳無し】様的にはここからが本番だ」
ジャンネが両手を組み、祈る。
彼の背後からぼうっと淡い光が溢れ出し、その光はやがて女神のシルエットになった。
「お前がギギラ・クレシアに負けたのは負けたのは覚えてるか」
「はい」
「その光景をみて、外のギャラリーはブチギレだ。今日こそギギラ・クレシアが死ぬって大々的に宣伝したからな」
女神のシルエットから赤い糸がブワッと溢れ出た。
ジェーエルが能力で使っているものと同じ、民の想いが蓄積された赤い糸。
彼女はその糸の中に、どんな想いが込められ絵いるのかを一瞬で理解した。
「民衆は今まで、自分の身の回りを守ってくれる超人的な存在を欲していた」
「その想いが、今日の私の活躍をもって爆発しているのですね」
その糸に込められているのは何処までも他責思考の祈り。
『頑張れ』『負けるな』と脅迫する祈り。
この世の全てを排除しろと無茶振りをする怒り。
「私の糸は民の想いを具現化するための力」
「あぁ。でも今のこれは特別性だ。この糸を直接お前に縫い合わせて、ジェーエルという存在を人間から神に昇華させる」
「そんな大それた事、可能なのですか?」
「その為にこのシュチュエーションを作ったんだ。無双するギギラ・クレシアを使用して、お前を神にする瞬間をな」
「そうですか。ならば私は神になりましょう。この世界を良き方向に進めるために」
そう言葉を放った瞬間、無数の糸がジェーエルの体を貫いた。
数多の悪意に身を蝕まれながら、彼女は間の地で人を捨て、神へと変貌するのだった。




