竜人化ギギラ・クレシア
ギギラ・クレシアの体が取り込んだ3つの禁術によって変性する。
背中には骨の羽、尻には骨の尻尾。
腰には骨で出来たフックが多数浮かび上がり、そこに杖と弓を収納しており、両手には大きな爪が露見していた。
「さぁ、第二ラウンドだよ」
ニヤリと彼女の口角が上がる。
ギギラはその爪を武器として見立て、その場で振りさげた。
「竜骨爪!!!」
その爪は空を切り、飛ぶ斬撃となって対戦相手であるジェーエルを襲う。
しかし、ジェーエルには傷一つ付かなかった。
彼女の周囲に張り廻らされた赤い糸が攻撃を防いだからだ。
「やはり【禁術殺しの禁術】の対策はしていましたか」
「涼しそうな顔したって無駄だよ。次はその防御を突破するから」
「そうですか。では少し戦術を変えましょう」
ジェーエルの周囲に漂っていた赤い糸が突如荒ぶる。
荒ぶる糸は周囲の空間をガリガリとえぐり取る勢いで回転しながら彼女の両手に巻き付いた。
ただ巻き付くだけではない。
それは次第に小さな渦の球体へと変貌する。
「何より、今の貴方をこの上なく叩き潰して欲しいというのが民意らしいので」
「どこまで行っても誰かの為ね。そんな人生虚しくないの」
「私には感情がありませんから。ただ自分の使命を果たすだけです」
「あっそ」
二人の会話が終わった瞬間、空気がガラリと変わる。
「竜骨爪!!!」
「民意断罪【ヘイトグレーター】」
骨の剣と赤い渦が激しい音を立てて何度も衝突する。
ギギラとジェーエルの攻防は速く、常人ではその全容を把握できない程だった。
精密機械の様に攻撃を繰り出すジェーエルと、竜人となって得たパワーで強引に押し返すギギラ。
ジェーエルの拳にまとった渦はギギラの爪をほんの一瞬で削り取ってしまう。
それに対抗するようにギギラは体中から骨を生み出し、それを新たな武器とする。
「一発当たったらアウトだねぇ。まぁ当たらなきゃどうって事ないけど」
ギギラはそう煽りながらジェーエルを観察する。
彼女の両手、渦を発生させている部分が異様に赤い。
おそらく血だ。
手の甲の皮膚が削れている。
あれだけの威力が出せる渦だ……自傷ダメージが出るデメリットがあったっておかしくない。
そんな技を迷いなく序盤に使うものだろうか?
ジェーエルの性格上、『民意の結果です』と言うだけの理由で火力の一番高い技を使ってもおかしくはない。
しかし、ギギラの出した答えは違う。
「なるほどね。ちゃーんと自分の敗北条件には気づいてる訳だ」
ジェーエルの体にはもう一つ、異常が発生している。
それは左目の充血だ。
【禁術殺しの禁術】を発動している彼女の左目には現在大きな負荷がかかっている。
それはギギラが体に取り込んだ3つの禁術を力づくで封じ込めているからだ。
所詮、ジェーエルが使っているのは借り物。
3つの禁術を完全に防ぐことは出来ない。
今もこうやって竜人となったギギラが暴れるだけで充血は悪化し、【禁術殺しの禁術】の限界が近づく。
「ギギラの禁術が完全復活すればギギラの勝ち。その前に仕留めれば君の勝ち」
「えぇ。分かりやすい勝利条件です」
ジェーエルの猛攻は止まらない。
後隙を見せない連続攻撃を繰り返す。
ギギラの眼前になんど赤い渦が遮ったか分からない。
グルンと体を一回転させて、地面を転がり渦を避ける。
その勢いを使って空へ飛びあがり、人体程の大きさのハンマーを生み出した。
「竜骨槌!!」
力いっぱいにその一撃を叩き込むが、ジェーエルは両手の渦でそのハンマーさえも削り取った。
「どうやら殴り倒すのは得策ではないみたいですね」
ジェーエルがつぶやいたその瞬間、ギギラにゾワリと悪寒が走った。
回避をせねばと体をひねった次の瞬間。
「炸裂」
全身を切り刻まれる様な痛みに襲われる。
何が起こったかと周囲を見渡すして、ギギラは理解する。
「その渦、爆発までするとか盛りすぎじゃない?」
ジェーエルは左手にまとわせていた渦をその場で爆発させたのだ。
その影響で赤い糸が飛び交い、周囲にある物質を切り刻んでいる。
もちろん、そんな技を放ったジェーエルも無事ではない。
囚人服がはだけ、至る所に切り傷が出来上がっている。
しかし、感情の無い彼女にとってそんな痛みは無いも同然だったらしい。
怯むこともなく、彼女の右腕はギギラをとらえる。
「しまっー」
赤い渦がギギラの体を切り刻もうとしていた。
その一瞬でギギラが出来るのはせいぜい背中の羽でガードする程度。
その羽もほんの一瞬で渦に溶かされてしまう。
「これで終わりです」
瞬間、コロシアムに居る民衆は歓喜の声を上げただろう。
あのギギラ・クレシアがついに死ぬぞと。
ジェーエルもその事を確信していた。
ギギラ本人ですらも、負ける気はないのは前提として不味ったと心で叫んでいた。
しかしー
「それが終わらねぇよ!!ギリギリ間に合ったからな!!」
ただ一人だけ……ギギラにとっての希望を唱える者が居た。
「足掻きの混沌魔弾 !!」
それは、ギギラの足掻きによって【禁術殺しの禁術】が極限まで弱まった証だった。
ギギラがずっと腰に差し込んでいたバランが空を飛び、魔弾でジェーエルの攻撃の軌道をそらしたのである。
「おや」
ジェーエルがそう呟くのと同時、彼女の左目が鈍い音を立てて破裂する。
それをもって【禁術殺しの禁術】は完全に無力化された。
「ありがとバラン君。ナイスタイミングだったね」
「言ってる場合かよ!!!お前死にかけだったじゃねーか!!」
その隙を見越して、満身創痍だったギギラはジェーエルとの距離を取った。
ギギラは一瞬で竜化を解き、いつもの姿に戻りながら息を吸う。
「さてさて、【禁術殺し】だの【役割神託】だの散々やってくれたわけだけど」
先ほどまでの戦闘中、ずっと腰に携えていた弓を構えた。
「ここからはギギラ達のターンだから」




