第49話 禁術殺しを突破しろ!!
「出してきたのは44と69ですか」
ジェーエルは赤い色を纏いながら目の前の敵を睨む。
相手はこのコロシアムで未だ無敗のギギラ・クレシア。
彼女の強みは何といってもその手数の多さと情報の不透明さだ。
70人の彼氏を武器にしてストックする彼女の禁術。
詳細が判明している武器は全体の数パーセントでしかない。
いつ、自分の知らない能力を持った武器を出されてもおかしくないのだ。
で、あるにも関わらず……彼女が今握っているのは見知った二つの武器。
ジェーエルが神から授かった【役割神託:操り人形】には2つの能力がある。
自分に向けられている思いを赤い糸に変換する能力。
そして、誰かひとりから能力を借りることが出来る能力。
ジェーエルはその能力で今、【禁術殺しの禁術】を借りている。
それはすなわち、禁術だよりのギギラ・クレシアをいつでも無効化出来るという事だ。
「てっきり対策してくると思っていたのですがね」
44の弓は爆発的な攻撃力を持つが、禁術殺しを突破できない。
69の杖は多彩な攻撃が可能であるが、やはり禁術殺しを突破できない。
「まぁ良いです。仕事は早く終わらせるものですから」
ジェーエルはそう言うと、赤い糸を左目に何本か貫通させた。
それを合図に、自分の体に【禁術殺しの禁術】が宿る。
「犯罪者を断罪してほしい。出来るだけ苦しく、痛めつけてほしい。そんな皆の思いに応えるのが、私が神から授けられた役割」
「よく言うよ。その為だけに死刑囚に仕立て上げられてるんだからさ」
ギギラ・クレシアは小馬鹿にしたような声でまくしたてると、その小さな杖から魔弾を放った。
「足掻きの混沌魔弾 !!」
ジェーエルはその魔弾を見ても動かない。
その場にただじっと立ち、左目に力を籠める。
「だからこそ私は徹底的に、これ以上ないほどに貴方を封殺します」
そうして、【禁術殺しの禁術】を放つ。
ギギラが放った魔弾は即座に消え去り、手に持っていた弓と杖もその力を無くしていった。
「私の両手は断罪の拳」
ジェーエルの拳に赤い糸が絡みついていく。
その糸はグルグルと高速回転を始め、ほんの一瞬で全てを削り取る凶器と化した。
「民意断罪【ヘイトプロセッサー】」
力強くジェーエルは地面を蹴る。
赤黒く渦巻く彼女の拳が今、ギギラ・クレシアを削らんとしていた。
「悪いけどさぁ。そんな程度で封殺出来た、なんて思ってもらっちゃ困るよ」
しかし、当のギギラ・クレシア本人は不敵な笑みを浮かべるだけだった。
◇
『禁術を殺す力は借り物。って事は限界があると思うんだよね』
バランは昨晩ギギラが考察していた事を思い返す。
ギギラの話では、ジェーエルが直接禁術を封じられるのは一つか二つが限界だと思う……と言う事らしい。
『そう仮定するなら突破出来る。問題はむしろその後かも』
『その後?』
『仮に禁術殺しを攻略したとして、その後ジェーエルを殺せるかどうかは別問題って事』
『まぁ確かに』
『一番の理想は相手の禁術殺しを無力化した後、すぐに高火力を叩き込むことだね。火力面の問題はすぐ解決出来ると思うけど、問題はタイミングだね』
『……だったら俺がタイミングを教える』
『バラン君が?』
『禁術が使えるようになったら俺の体も自由に動けるように成る。そうなったらいち早く大声で叫んでやるよ』
『良いね。戦いに集中してるギギラは見極めるより成功率高そうだし、採用』
ギギラが最初に杖と弓を出したのは禁術殺しの対策じゃない。
あくまでそれを突破した後の為の仕込みだ。
禁術殺しの対策は別にある。
「君はギギラの【武器化】だけを封じれば良いと思ってるみたいだけど……忘れて貰っちゃ困るよ」
ギギラはありったけの力を込めてゲートを開く。
本来であれば禁術を封じられた彼女にそのゲートは開けない。
そこから彼氏を取り出すことは出来ない。
だが、ギギラの彼氏達の中には二人……この状況を打破できる例外が存在する。
「ギギラの彼氏には禁術使いも居るって事をさ!!」
瞬間、ゲートから骨の竜が姿を現す。
「彼氏No3、【禁断の愛錠骸龍グレア・クレシア】」
「彼氏No56、【野生回帰の変態仮面ディール】」
竜の体はギギラを庇い、高速回転する糸を纏ったジェーエルの攻撃を受け止めた。
「なるほど。だとすると次は」
火花が散る中、ジェーエルは顔色一つ変えずに視線を動かす。
その先に、仮面を装着したギギラが居る事を予想して。
「3つ分の禁術を完全に封じる事は出来ないでしょ」
ギギラは雄たけびを上げながら爪を立て、引っかく。
【野生回帰の変態仮面ディール】を装着したことで上昇している身体能力で繰り出した原始的な一撃が空を裂く。
「左目充血してるじゃん。もう限界?」
「あなたこそ、全力は出せていないように見えますが?」
その攻撃を受け止めたのは、赤い糸で作られた壁だった。
ギギラは杖と弓を拾って距離を取る。
ジェーエルはギギラを逃さぬように糸の斬撃を飛ばすが、骨の竜はそれを防ぎながらギギラに寄り添う。
「そうだね。本当だったら今頃ギギラの理性は消し飛んでるはずだし、そもそも骨の竜だって自由に動けないはずだし」
ギギラは理解している。
彼氏二人の体を武器にしている自身の禁術も、二人が持つ禁術自身もかなり弱体化されている。
ジェーエルが3つの禁術を封じ込める事が出来ないという予想は当たっているが、三つの禁術をそれぞれ使っている様ではこの局面を突破することは出来ない。
「でも、そんな事も予想済みなんだよね」
ギギラはそう言うと、一つ呼吸を整える。
弱体化した三つの禁術であらがえないのなら、全部混ぜ合わせて一つの強い力にしてしまえば良い。
ギギラの体に竜が潜り、仮面がめり込む。
彼女の体に【竜化】【野生化】【武器化】の禁術が流れ込む。
「そんな無茶をぶっつけ本番で……きわめて非効率ですね」
「絶対成功するから余計なお世話なんだけど?」
「そこまで言い切る理由は?」
「だってギギラ達は愛でつながってるからね。君達と違ってさ」
それはぐるぐるとギギラの中で混ざり合い、一つの新たなる力へと変性した。
ギギラは少しだけ理性を無くし、その分の身体能力バフを。
体の一部が骨の竜に侵され、その見た目は竜人に。
腰には骨で出来たフックが多数浮かび上がり、そこに杖と弓を収納した。
「ほうら出来た。これで禁術殺しは怖くないね」




