第44話 ギギラはそういうやつだよ / 完全武装ギギラ
「ここは?」
物凄い勢いでゲートの中に戻されたバラン。
いつもであれば、心地の良い精神世界なんかに意識が接続される。
だというのにー
「何も見えねぇ」
何故だか彼は暗黒の世界にポツンと漂っていたのだ。
「ギギラの奴、どんなつもりだよ」
状況把握に苦戦するストレスを吐きながら、バランはふと気づいた。
自分はこの暗闇を知っている気がする。
いや、何なら最近体験したばかりだ。
「これあの時の再現かよ?!あんまり良い思い出じゃないんだけどなぁ」
それは一日前。
闇の魔力を纏う死刑囚、アイネとの戦いでバラン一人が囚われてしまったシーンの再現。
『これを一人で耐えていたのか。ギギラと【声無し】様が貴様を重視するのも納得だ』
「えぇ、知らない声。誰??」
『俺はミノト、お前と同じギギラの彼氏だ。俺の話はこんなもので良いだろう』
ミノトって、あの神様を下ろす武器になってる人か、とバランは思い返す。
なんか凛とした感じの男にしては高い声だな。
絶対決まりとかにうるさいタイプだろ。
なんて邪推も添えながら。
『この空間は、【声無し】様がお前の精神精神世界を少しいじって作った空間だ』
「いや、いきなりそんな事言われてもだな?!俺は何でいきなりそんな所にぶち込まれてる訳?!しかも戦闘中に!!」
『この戦いに勝つ為に必要だと判断されたからだ』
一体どうやって?!
バランの頭はそんな疑問で一杯だ。
そもそも、なぜこのシーンを再現したのかすらもバランは理解していない。
『良いか後輩。よく思い返せ。この時お前は何をしたのか。どんな戦いだったのか。戦いが終わったと、自分自身が何を思い描いたのか」
「何をってー」
そう言われてバランはあの時の戦いを思い返した。
この暗闇は、全て相手が作った闇の魔力。
普通の人間や武器であれば瞬時に飲み込まれてしまうほど濃度の高い力。
それに対抗できたのは、光の魔力だけ。
「だから俺は必死に光の魔力を捻り出した」
自由に喋れる、自由に動ける、そんなバランの特権を犠牲にする覚悟で魔力を放った。
ほんの一時ではあるにしろ、全てを飲み込む高出力の闇に抗った。
そう、抗ったのだ。
ほんの僅かな威力の魔弾しか出せないバランが、あの闇に抗えるほどの力を出したのだ。
「そうだ。だから俺はあの後独房で……ギギラが寝た後で」
今回の出来事は応用できるんじゃないかと考えた訳だ。
自分のリソースを全て魔力ないし攻撃力に回すなんて事が出来る……なんて夢を見たのだ。
『その考えを【声無し】様は読み取り、そこからギギラがこの作戦を練ったわけだ』
「あの一瞬で俺の考え読み取ったのか?神様ってとんでもねぇな」
神様の技量にややドン引きしつつも、なるほどなるほどとバランはこの空間について理解する。
要は、暗闇を再現された空間はバランが起こしたまぐれを形にするための舞台装置。
バランと言う武器を成長させるための切っ掛けにして修練上な訳だ。
『俺達の体は武器だ。でも、魂は人間の時から変わらない。きっかけが有れば成長することだってあるだろう』
「簡単に言う……普通に考えて無理があるだろ」
『何故そう思う?』
「だってあの時はただ無我夢中だっだけだし。この状況を起こせたのだって、ただのまぐれだし」
土壇場で成長して覚醒するなんて無理がある。
バランの頭にあるのはそんな考えを見据えたように、先輩を語るミノトは声を掛けた。
『お前がそう考えるのも分からなないがな、あいつはそう思ってないみたいだぞ』
「…………そのアイツってもちろんギギラだよな?」
『あぁ。それがどうした?』
「だよなぁぁぁぁ!!ギギラはそう言うよなぁぁぁ!!良いよ!!やれば良いんだろやれば!!」
今のバランが人間の姿であれば、きっと頭を抱えながら絶叫している事だろう。
それはもう猛威に、髪の毛をガサガサかきむしりながら。
「出来なきゃどうせ死ぬんだろ!!じゃあやるしかない!!てかやるしかねぇじゃねーか!!ギギラの無茶ぶりは今に始まった事じゃねぇ、やってやるよ」
そんな絶叫を奏でる後輩の姿を見て、先輩彼氏であるミノトはフフと笑みをこぼしていた。
『彼女に振り回されているのはどの彼氏も同じだな』
「呑気にそんな事言ってる場合か?!言っておくが俺一人じゃ今から覚醒なんて絶対無理だからな!!アンタにも手伝ってもらうからな!!」
バランは文句を言いながらあの時を思い返して魔力を回す。
言葉を交わすことも、宙に浮くことも忘れ、すべての力を魔力の放出に集中させる。
『お前の修練は【声無し】様の神託でもあるのだ。手伝うのは当たり前だろうよ、後輩』
◇
「ハハハ!!防御だけは立派だねぇ」
「うるっさいわね!!」
一方現実世界のコロシアム。
そこでは武器達を重武装したギギラが暴れまわっていた。
「酩酊首打ち・黄泉下り」
『適正攻撃急接近。オートガード起動』
左手のワイングラスからは水の刃がうねり暴れる。
そのさなか、器用に右手の弓を引き空気の矢を穿つ。
「さっさと落ちなさいよ。私の前で遅延戦法なんて許されないのよ?常識でしょうが!!」
アルチナの放つ星のごとき魔弾は背中の羽を使った高速飛行で躱し、余裕があれば口に装備した咢で砕いて食べる。
体に無茶を言わせて4つの武器をフル稼働させながらギギラはアルチナと交戦していた。
「諦めなさいよ。これだけ手札を使っても私のモーゼアロンは突破できない。このオートバリアを突破できる方法がアンタにはないのよ」
その怒号にギギラは言葉を返さなかった。
ギギラはただただ冷静に頭をフル回転させながら武器を使いまわす。
「セトラ。ギギラが見落としてる魔弾があったら撃ち落として!!」
背中の羽から光の魔力を纏った波動を放ち、魔弾を相殺する。
「ごめんねベイリル君、サポート役で使っちゃって。でも君はサポートもフィニッシュも出来るってギギラ知ってるから、甘えさせてね」
魂が嫉妬するほど威力の上がる矢を打ち、魔弾を貫通させる。
「おじ様。結構無茶な要求するけど頑張って!!手前の魔弾は全部この水流で切り落とすから」
グラスから生み出だした水流の刃が弾幕を切り裂き。
「魔弾を食べるのは久しぶりだねブロン君。胸やけするまで踊り食いだ!!」
口に装着した牙で魔弾を食べつくす。
ここまでして何とか拮抗状態だ。
ここまでギギラが苦戦しているのはやはりあの杖が厄介だからだろう。
オートバリアは並大抵の火力では突破出来ず、その間に大玉の魔弾が飛んでくる。
こちらの攻撃は当たらないのに、相手の攻撃は打ち漏らした時点で大ダメージだ。
「使い手がもっと手練れだったら危なかったかもね」
「ハッ、負け惜しみかしら?惨めね」
「知ってる??戦場で心をかき乱される人って隙だらけになるんだよ」
ギギラはそう言いながら滑空。
魔弾の隙を縫うように移動し、口に装着されている牙をアルチナに突き立てる。
『オートガード起動』
「大体さぁ。強い人間ならここまでオートガード発動しないと思うんだよねぇ」
だって普通なら死んでるって事でしょ、と一言添えてギギラは一歩後ろへ。
「ッ、黙れ!!制圧する星魔弾!!」
額に青筋を浮かべたアルチナが激高しながら魔弾を放った。
「それがどうしてって言うの??何度も言ってるけど、現状追い詰められてるのはアンタの方なんだから」
「君こそちゃんと状況理解してる??ギギラはね、今本気で君と戦ってる訳じゃないの。切り札であるバラン君の為に時間稼ぎしてるだけなんだよ」
「あいつが切り札ですって?!笑わせてくれるじゃない。あの凡才に何が出来るって言うの」
「今ね。ギギラの別の彼氏に修行付けてもらってるんだ。ミノト君はちょっと厳しい所あるけど、面倒見がいいからきっと大丈夫。バラン君とも上手くやってくれるよ」
「私との戦闘中に修行?!ふざけてるの?!そう言うのって普通戦う前に済ませとくものでしょうが」
バランと言う言葉を聞いた瞬間、目に見えてアルチナの攻撃が苛烈に、そして雑になった。
やっぱり自分の睨んだ通りだとギギラは微笑む。
アルチナが抱えるバランへの確執は大きい。
何をするにも影響が出るほどに、バランと言う存在が彼女の心の奥にある憎しみを増大させている。
その憎しみが、彼女の思考を歪ませていく。
「大体さぁ。その杖、強いのは認めてあげるけどバラン君の完全上位互換を語るには無理があるでしょ?」
「ハァ?!何を根拠に!!」
「だったらさ、バラン君みたいに全属性混ぜた混沌の魔弾打ってみなよ。今の所まだ見てないよ」
からかうように、まるで悪魔の囁きの様な声色でギギラは語った。
アルチナの額にはまた青筋が一つ、二つと増えていく。
「あれ~言い返さないの??あ、そっか。君は使えないんだもんね。バラン君の使える混沌の魔弾がさ」
わざとらしく、無知な少女を装う態度でギギラはアルチナの心を揺さぶった。
「それを気にして逆上して、取り巻きまで使ってバラン君虐めてたんだもんね」
「うるさいわね。黙りなさいよ」
「そんな君に混沌属性の魔弾を打ってみろなんて……流石に酷な事を言い過ぎたかなぁ??」
「黙れって言ってるでしょうが!!」
爆撃と斬撃が繰り返される。
見ているこっちが不安になるような暴走気味の少女と、それを煽る完全武装の少女の殺し合いはどんどんと苛烈になっていった。
「良いわよ。ぶっ殺してあげる!!のろまなバランが修行を終わらせるその前に」
「やってみなよ!!出来るもんならさぁ!!」




