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限界社会人は女子高生を拾ってしまった。そして溺愛される百合の話  作者: 秋羽


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需要と供給

 寝れないかもしれないと心配をしていたが、気づけば朝になっている。


 目を開けた時には隣の温もりはなくなってた。

 まるで昨日の出来事が夢だったように。


「何時…」


 日差しを見る限りおそらく昼前ぐらい。

 私は腕についてるスマートウォッチを眺めた。

 溜まっていたメッセージにも気づき、返信するためにスマホを探している。



 お腹が空いてる訳ではないが、いるはずのあやめを探しにリビングに向かう。


「なんだ…」


 リビングに向かうとテーブルの上には置き手紙があった。


『薫さんが起きるまで待っていようと思ったのですが、中々起きてくれないので塾に行きます。今日は夕方に終わるので、何もせずに待っててください。 愛おしい薫さんへ あやめより』


 なんだこの悪寒のする置き手紙は。


「律儀に昼飯かこれ」


 手紙のすぐ側にはフレンチトーストが置いてあった。

 おそらく朝ごはんのつもりで作ってくれたのだろうけど、起きるのが遅すぎたせいで昼飯になってしまう。

 少し申し訳なさも感じつつ、冷蔵庫から牛乳を取り出した。


「何もするなと言われてもなあ」


 手紙がなくてもなにかする予定はない。

 昨日あやめがいるから洗濯やご飯ぐらいは作らないといけないと思っていたが、ベランダを見ると洗濯も干されているし、目の前には完成されたご飯も用意されている。


 実家よりもいい暮らしをしている。


「廃人レベル上がったんやが」


 今までしなければならないことだけをしていた。

 生きるためにご飯を作ったり、買ったり。

 明日の着替えのために洗濯する。

 ゴミだけは毎日捨ててた。

 あとはせいぜい歩けなくなるから服はソファに放り投げる。それぐらい。


 なのにあやめがいると何もしなくていい。

 天国かここは。


 あの性格だけ少し控えてもらうと完璧なんだけど…


 少し行儀悪いが一人暮らしに慣れていた私はご飯を食べる時にスマホを見るのが習慣である。

 今もフレンチトーストを食べながらメッセージを返している。


 仕事のメッセージも来ているが、余程大事な用事以外返信するつもりはない。

 なぜなら業務外だから。

 勤務中ならいくらでも仕事はするし残業もする、仕事じゃない日は寝倒す。


 美味すぎるフレンチトーストをお腹に入れ、いつぶりかにソファの全貌を見た気がする、と思い返しながらお酒を片手に寝っ転がった。


 着替えてもいない。

 マンションの高層階であるここは誰かが覗くわけでもないから、特に気にしたことはない。

 いつもなら裸で歩き回るが、あやめがいるからと珍しいスウェットを着ている。


 背徳感がたまらないのに。



 お酒を気前良く開け、豪快に一口。


「えっぐい、やっぱ昼からアルコールでしょ」


 大学生の頃はあまりお酒を飲んでいなかったし、お酒の良さにもあまり理解してなかった。

 だけど社会人になってからお酒の素晴らしさにきづけ、様々なお酒に手を出した。


 次のお酒に行こうとしたら、チャイムがなった。


「ん…もう来たのか」


 私は時計を見て時間の流れに落ち込む。

 楽しい時間というのはあっという間だ。


 エントランスのドアを開け、家の鍵も開けておいた。

 勝手に入って構わないと連絡はしてある。

 私はお酒をもう一本テーブルに置き、髪型だけ少し整えた。


 すると家のドアが開く音が聞こえた。


「おじゃましちゃうぜ」


 この声と共に鍵をかける音も聞こえる。


 リビングまでの動線は理解してるようで、一人でもリビングに来られた。


 正直あまり会いたくは無いが、来てしまったもんは仕方ない。


「邪魔するなら帰れ」

「酷いね、せっかくいいもの持ってきたのに」


 あやめの兄で彼は人の家だと言うのに勝手に冷蔵庫を開け箱を入れた。


 テーブルに置いてあったお酒を取り、開けた。

 そのつもりだったから特に言うこともない。


「おい椿、なんだその荷物」


 そんなこともよりも私は椿の持っていたダンボールが気になっている。

 ダンボールとリュック。


 引越しでもするのかとツッコミたくなる。


「あやめの荷物に決まってるだろ、すごいだろ俺が荷造りしたんだぜ」

「え、何住む気?」

「え?違うの?」


 この兄妹は時々冗談なのか本気なのか分からないことをする。

 さすがに冗談だろと思うことを平気でしてくる。

 私はこの男に十年驚かされて来た。

 奇想天外の男。


「ちなみにどれぐらい住む気」

「死ぬまでじゃないの?」


 これも本気なのか冗談なのかも分からない。


 私も一泊と言いつつ、この休みぐらいは泊まらせる予定だった。


 一生住むとなると話は変わる。


「妹をよろしく頼むぜ」

「よろしかねぇよ」

「こんなこと言うのも妹ナイスバディーだぜ」


 んなこと知ってるし昨日みたわって言いそうになったが我慢する。

 あやめがこの場にいなくて助かった。

 悪魔が二人いると収拾がつかない。


「まあ、あやめの気が済むまで泊めてやってくれ生活費は薫の口座に振り込んどくから」

「勝手に話進めるなよ」


 入ってたアルコールはとっくに分解されたように、すごく冷静で頭が回っている。


「あやめがいる方がお前は人らしくていいぞ」


 今まで人だと思われていなかったのか?


 この男は私のことをなんだと思っているのか。


 たしかにあやめが居てくれると助かる。

 一日にして、私の悩みの種である片付けをしてくれたし、ご飯を出てくる。

 彼女に欠点なんて何一つない。


 だけど、彼女をこんなに頼っていいのか、十歳も年下の高校生に頼っていいのか。


 私の悩みを見透かしたように、椿はにやけていた。


「安心しな、あやめはお前のためにじゃなくて自分のために掃除してるぜ」

「なにそれ」


 あまり理解できる話ではなかった。

 あやめが自分自身のために私の家の掃除をすることになんのメリットを感じているのか。


「理由を作ればこの家に居れる、そしたら自分のやりたいことができる」

「……そういうことか」


 私も別に感の悪い女では無い。

 ここまで言われたら話の全貌が見える。


 つまり、私の存在価値をアピールしていた。

 まんまとそれに引っかかっている。


「痺れるぜ…俺も昔は彼女のために免許を取ったぜ」

「別れたでしょ」

「とっくにな!ひでーぜ、私より生徒が大事なの?って今でも覚えてるね」

「こんなのが高校教師なんて世も末ね」

「これでも大学首席卒業なんだけど」


 頭いい人ほど変な人が多い。

 実際私も私のことをまともな人だと思っていない。

 同じ教職を取りながら私は副業ができないからと教師になることをやめて塾を選んだ。


 お陰であやめは私のいる塾に通ってるし、バーでも働けてる。


「まあ、つー訳であやめをよろしく頼んだぜ」

「振り出しに戻った気がするのだけど」

「なんだ、キスマも歯型も付けといて、捨てちゃうのか?」

「なっ…」


 私は慌てて首元に手を当てた。

 すっかり忘れていた、昨日の出来事を。


「満足してるなら安心だな、酒もう一本貰うぞ」


 椿はにやけていた。ずっと。

 この独占欲の塊を目にしていたからだ。


 私は昨日のことを思い返していた、なぜこんなことを許したのか。


 私もあやめを必要としていたからだ。

 愛おしいと思えてしまった。


「ほどほどにな」

「うるさい」

「俺の妹って案外肉食系なんだな」

「しみじみすんな」


 人の首元をまじまじと見つめる彼はやはりデリカシーがないようだ。

 ぶん殴りそうになるがあやめと出会えたのは彼のお陰であるため自重した。


 彼と話すとつい眉間に皺を寄せてしまう。

 私を困らすことばかりするから。

 だけど、やはり頭はいいからか嫌なことはしてこない。


 最近の出来事や仕事の愚痴をおつまみにしながら酒を何本か開けた。


「んじゃ、結婚式は任せてくれ」

「すんなりこの家を出ていくことはできないの」

「できねぇーな、妹の幸せを願うのが兄ってもんだ」


 素晴らしい兄弟愛ね。

 私が関わってなければ。


「あやめも帰ってくるだろうし、俺はここら辺で失礼するぜ」

「 出来ればしばらく会いたくないわね」

「全く素直じゃないね、あやめと二人の愛の巣を邪魔されたくないならそういえばいいのに」


 殴っても問題なさそうだね。

 私の拳が飛んでくる前に椿は家から離れた。


 それから十分もしないうちに家の玄関が開いた。


 この家の鍵を持っているのはあやめか親しかないので、私は玄関までお出迎えすることに。


「あ、薫さんただいま戻りました」

「…おかえりなさい」


 制服姿のあやめが自分の家にいるのはまだ違和感がある。

 しては行けないことをしてる気分になる。


「今日ちゃんとだらだらしてました?」

「どんな心配よ…」


 びっくりするほどお酒しか飲んでない。

 自分の廃人ぷりに引いてしまう。


「それ消えませんね」


 あやめは私の首元に指さした。

 玄関で変なことはしないで欲しい。


 私は着替えてきな。といいさっさと玄関から離れたかった。


 あやめが「薫さん」と呼んだせいで私はつい振り返ってしまった。


 頬に手を当てられ、唇には柔らかい感触があった。

 この一瞬の出来事に驚いてる私にあやめは見逃さない。

 私の唇の隙間に湿った物が触れている、それは気持ちよくて、思わず受け入れてしまった。

 過去を振り返っても私が戸惑ったことはなかった。


 目の前に私を好きだと言ってくれてる女の子がいるのに他の女を思い浮かぶのは罪か。


 彼女は目を閉じていた。


 反撃する気もなく、ただ受け入れる。


 口の中を舐められるのはこんなに楽しく心が踊るものだったっけ。

 一生懸命に頑張る彼女を思わず抱きしめた。


 抱きしめたのに、離れないといけない。

 私は彼女の願いを聞く訳にはいかない。


 大人になるまで我慢してもらう。

 この約束が一方通行じゃないことを願う。


「あやめ…ここ玄関」


 これ以上は私の理性が散歩に出かけてしまう。


 彼女は納得してないようだったが、我慢をしてくれた。


「ちゃんと何もしてないようなので許します」


 家主は私だが。と苦笑いしながらもこの可愛い子の頭を撫でる。

 可愛くてつい。



 彼女は部屋に向かうと思っていたがもう一度私に近づいた。


「この痕が消えたらまた名前書きますね」


 あやめは笑顔でそう言い残し部屋に入った。


 私は首元をさすり、なんともいえない表情をする。



「私はものじゃないんだけどな…」

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