シュークリームと栄養ドリンク≪打刻≫
ジジジジ・ジジ・ジジ・ジジジジジジ・・・
[タイムカードの打刻は仕事の準備ができてから]
標語のような注意書きが貼られている。
そんな注意書きはお構いなしに、みんなは店に着いてすぐに打刻をする。
真理子を除いて。
「おはようございます。お疲れ様です。」
真理子は決まり通り、制服を着たあと、髪の毛を束ね、身なりを整え、手を入念に洗ってから打刻をする。
4年間の習慣。
「おはようございます、ヤベー、間に合った。」
武士はいつもギリギリ。
慌ててタイムカードを打刻する。
「佐藤君、いつもギリギリセーフだね。」
真理子から突っ込まれる。
「早い時もありますよー。」
「私は見たことないけどねっ。」
「何でですかね?真理子さんと入るときビビっちゃうんですかね?」
「え、なに?そんなに私が怖いの?」
「怖いっす。ここでも学校でも先輩だし…あ、冗談です。ごめんなさい。全然怖くないです。」
「佐藤君は留年してるけど同い年でしょ。ずーっと真理子さんって呼ばれてるけど、それって固くない?ナベちゃんで良いよ。」
「無理っす。真理子さんで、お願いします。それと、留年、強調しないでもらえたら…」
「分かったよ、留年君。さぁ店に出よっ!」
(はぁ、今日も真理子さんに弄り倒されるんだろうな…)
武士は真理子に連れられるように、店に出た。
「おっ、ナベちゃん、今日は大変だな。佐藤君の面倒見なきゃ。」
近所のおじいちゃん。
銭湯の一番風呂の帰りにビールを買いに来る常連さん。
「ですねー。武士君、頼ってきてばっかりで。」
「今日は大丈夫です!」
武士はおじいちゃんと真理子に言い切ってみた。
「今日は、大丈夫だって。良かったな、ナベちゃん」
二人は目を合わせて笑っている。
それを見ていた武士。
愛想笑いをするしかできなかった。
夕方、早い時間は品出しやコーヒーマシンのメンテナンス。
お客様もゆったりしていて、余裕。
ドリンク、お弁当、品出しが進むにつれ、客足が増えてくる。
いつの間にか列ができている。
武士は失敗できない緊張感の元、レジをこなしていく。
その横で真理子は常連さんとの会話を楽しみながら、武士より速いスピードでレジ待ちの列を減らしていく。
武士が宅配便で困っていても、公共料金の支払いでモタモタしていても、真理子は横に居て付きっきりで見ているかのように、すぐさまフォローに現れる。
フォローが終わると真理子は一言。
「大丈夫!私が付いてるから。」
(今日も全然、大丈夫じゃなかった。この後は迷惑かけないようにしないと。)
この1時間から2時間の間、レジの列は途切れることを知らない。
武士は必死に、遅くても確実にレジを打つ。
横で真理子は楽しそうにレジを打つ。
今日は大きなトラブルなくピーク時間が終わった。
「今日は大丈夫だったね、留年君。」
「まぁなんとか。ってその留年君ていつまで続くんですか?」
「飽きるまで。」
そう言いながら真理子は笑った。
「ウォークインの補充に行ってきます。」
武士は店の奥にある、人も入れる冷蔵ショーケースへドリンクの補充に向かった。
女性アルバイトは嫌う仕事。
皆、寒くて嫌って言う。
武士は真理子と居る時間の熱さを覚ますのに、丁度いい温度に感じている。
ドリンクとドリンクの間からレジと真理子が見える。
見続けていると仕事が進まないが、見てしまう。
いつもシュークリームを買うオジサンが来た。
レジの方へ進み、真理子に声を掛けている。
真理子も楽しそうに笑っている。
武士はすぐにでもここから出たいって衝動に駆られた。
だが、補充は終わってないし、レジの列も無い。
出る理由が見当たらない。
冷気の中、心も冷やされてる感じがした。
補充が終わり、店内に戻った武士。
店の中だけは温かい。
「真理子さん、シュークリームの人、今日も来てたんですね。」
「あそこから見えてた?今、イートインに居るよ。」
いつもの真理子に見えた。
「今日は見てる余裕あったんだ。」
真理子はいつもの余裕のなさを弄ってきた。
「成長したねー。でも、今更だけどね。」
「今更って厳しめですね。」
真理子は一度、入り口に目をやった後、
「武士君にあと託そうと思ってたから。今頃、もう私がいなくても大丈夫なくらいになってて欲しかったな。」
「託すって?」
「今年度で卒業だから、ここでバイトできるのも年内か年明けまでかな?もう店長には言ってあるんだ。」
「え、マジで?春まで居ないの?」
「準備もあるしね。このこと、他の人にはまだ内緒ね。店長以外には武士君に初めて言ったから。」
(僕も準備ができていない。真理子さんがいずれ、ここから居なくなることは解っていたけど。)
「最後まで、楽しく弄らせてね、留年君。」
「だからー、弄りすぎだって。」
「ごめん、ごめん。」
真理子は悪戯顔で笑いながら、レジを打ち始めた。
武士はゴミ箱の整理。
イートインにはシュークリームさん。
コーヒーを飲みながら、外を見ていた。




