シュークリームと栄養ドリンク≪積層≫
(積層)
「採点、終わった?」
咲良から声を掛けられる。
鏡のようになっている窓。
外はもう、光のほとんどを失っていて、職員室に残っている二人を写していた。
「あとは再チェックくらいかな?」
「私も。そろそろ帰ろっか。」
「うん、そうしたい。」
「帰り、家寄る?何なら泊ってく?そしたら朝ゆっくりできるでしょ?」
「そうしよっかな。」
桃子の家より咲良の家の方が、学校に近い。
少しでも朝が遅くなる。
「きーまり!あ!でも、ごめん。ごはん無いわ。どうする食べてく?コンビニンに行く?」
「どっちでもいいよ。咲良の好きな方で。」
「じゃ、デイリーリーフ、行こ!」
デイリーリーフで買い物をして、咲良の家に泊まることに決めた。
きっと、咲良は探偵団ごっこをしたいんだと思う。
冬の夜空は空気が澄んでいて、星も月も綺麗。
半月がずーっと追いかけてきてる。
歩いていくうち、少しずつ身体の冷えが和らいでいく。
「寒いねぇ。」
そう言いながら咲良が腕を組んできた。
「ちょっとー。びっくりしたじゃない。」
「ごめんごめん、桃子、温かそうだから。」
確かに歩いてるのと、デイリーリーフに行くこと、それで暖まってきてるのもある。
「ね、好きになって行く時って良いよね。」
「咲良、どうしたの?」
「最近の桃子見てるとね。好きになるときって良いな―って。なんかキラキラしてるもん。」
「別に好きとかじゃないと思うんだけど...気になってるだけだよ。」
「もう、それを好きになったって言うじゃないの。」
「違う!違うってーっ。」
でも、そうなのかな?
絶対違う。
カズさんは気になる人だけど、うんと年上の人を好きになる訳ない...と思うけど。
「どうたの?目がキョロキョロしてるよ。桃子、可愛い。」
「咲良、からかってるでしょ?」
「そんなことないよー。ほんとに可愛いって思った。」
「ふーん。」
「桃子さん、君の可愛さに惚れた。付き合ってください。」
「咲良、なに言ってんの?」
「冗談だよ。でも私が男なら桃子に告ってたかもね。」
咲良は組んでいた腕をさらに引き寄せ、肩を寄せて来た。
「咲良、くっつき過ぎ。歩きにくいよー。」
「いいじゃん。ゆっくり歩こうよ。」
そこからは二人、黙って歩いた。
桃子は彼氏と上手くいって無さそうな、咲良のことが気になっていた。
でも、あえて聞かなかった。
デイリーリーフの灯りがはっきりとしてきた。
「黙って静かに歩くのも、良いもんだね。」
咲良はそう言って組んでいた腕を解いた。
ピロリローン・ピロリローン
「いらっしゃいませ、こんばんはー。クリスマスチキンのご予約、いかがでしょうかー。」
明るく、元気な声。
ワタナベさんだ。
イートインに目を向けると…
コーヒーカップを手にスマホを見ている男性が居る。
(カズさん!?)
入り口を入ってすぐ足が止まった。
「どうしたの?桃子?」
「居るの…」
「あぁ、ワタナベさん?」
「違う、カズさん。」
「えっ、どこに?」
「横に…」
咲良の視線がイートインに向く。
「あの人?」
うん、って頷く。
「行こ!」
咲良は私を引っ張るように、イートインに入っていく。
「こんばんはー」
明るく挨拶しながら、私を前に差し出す。
クエスチョンマークがいっぱい並んでいるような顔でこっちを向くカズさん。
「あ、桃子さん、こんばんは。後ろの方はお友達?」
「同僚の咲良です。新任の時から一緒で。」
「咲良でーす。意外と早くお会いできて良かったです。」
「意外と早く?」
「桃子がね、カズさんのこと話してたから、見てみたかったんですよ。」
「見てみるも何も、見てもなにも無い、ただのオジサンでしょ?」
「そんなことないですよ。優しそうだし。」
なんか、普通に喋り出した咲良がちょっと羨ましい。
それに、背中越しに視線というか圧というか、ワタナベさんから来る何かを感じて、ますます喋れなくなっている。
「今日、咲良の家に行くんで買い物済ませますね。ね、咲良」
カズさんに会えたのは嬉しい。
だけど、今日は早くここから出たい気分。
「そうだね。」
合わせてくれた咲良。
お菓子は買わない。
この後で食べる分と明日の朝食にするパン、飲みものをカゴに入れる。
レジに向かう。
ワタナベさんしかレジに居ない。
バイトの男の子はゴミ箱の整理をしている。
「ねえ、私の分あとで払うからレジ咲良が行って。」
桃子はイートインに二人が居たことを思い出してレジには行けなかった。
ちょっとだけ、離れてレジを見る。
咲良は普通にしてる。
レジの終わり際、何か楽しそうに二人が会話している。
私のこと?
そう考えるのは自意識過剰?
咲良がエコバックを下げ近付いてくる。
「桃子、私、覚えられてたみたい。クリスマスケーキ予約したから。」
「なんだ、それで喋ってたの?」
「それ以外に何喋ってると思ったの?」
「別に…何でもない。」
咲良は笑みを浮かべてる。
二人でイートインに向かい、カズさんに帰ることを告げに行く。
「帰り、気を付けてね、じゃあ、また。」
「はい、おやすみなさい。」
ピロリローン・ピロリローン
出るときもチャイムが鳴る。
外は来た時よりも、寒さを増していた。
早く咲良の家に行きたくて、早足になる。
デイリーリーフの感触が遠ざかっていく。
「桃子、良かったの?」
「なにが?」
「カズさん、まだ店に居るみたいだったけど。」
振り返って見たデイリーリーフは小さくなっていた。
明るさはそのままに。




