シュークリームと栄養ドリンク≪予約≫
早朝の高速道。
県境の山越え。
雪がちらついていたから、慎重に走って現場に向かった。
現地に雪は無かったが、ただただ寒い。
同行した若い子はこの寒さからか、いつも以上に動きが鈍い。
この子の分の手も、動かさなきゃ。
手はかじかんだけど、何とか予定通り作業を終えた。
せめて手だけでも温めようと、自販機で温かいペットボトルのコーヒーを買い、高速道の入り口に向かった。
インターの手前には高速の交通情報が表示されている。
[ユキ 走行注意]
県境あたりは降ってるのか。
ここの高速道はトンネルを抜けたら、積雪、
なんてことはよくある。
朝晩は山からの吹きおろしの風で凍結も。
山間部の手前から慎重に走っていた。
抜かれてもいい、時間がかかってもいい。
トラブルがあれば、元も子もない。
遠くに見える、県境の山々には雪。
そして、視線の先にはハザードランプの点滅が目に入った。
(あー、渋滞か。雪で低速走行のトラックでもいるのかな。)
カズもハザードランプのボタンを押し、後続車に注意を促す。
ノロノロと車列は進み、最初のトンネルに差し掛かった。
手前の案内表示には…
[事故渋滞 10Km 40分]
「なぁ、会社に連絡しといて。1時間くらいは帰社が遅れそうって。」
「はーい、了解っス。SNSで送っときまーす。」
今時の若い子。
まあ、会社に伝われば、それでいい。
車列はちょっと進んでは止まり。
それを繰り返している。
ブレーキランプが光る回数が増えていくと、疲労感も増していく。
社用車にはラジオしかない。
トンネルに入るたびノイズだけになり、さらに疲労を増す。
横の若い子は助手席で幸せそうに夢の中。
「はぁ…」
もう何時になっても良いか。
どうやっても急ぎようも無いし、遅ければ残業代も貰えるし。
渋滞を受け入れたとたん、気持ちが楽になった。
これまでより停止する時間が長くなってきたところで、事故現場が見えてきた。
乗車していただろう人はガードレールの外に居るように見える。
悲惨な事故ではなさそう。
事故現場を過ぎれば、少しずつ速度が上がっていく。
山間部が終わった後にあるサービスエリアまで来た頃には、いつもの高速道に戻っていた。
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会社に着いた頃には時計が20時を回っていた。
1時間帰りが遅くなるって、ところじゃなかった。
「お疲れ様、大変だったね。片付けは明日で良いから。」
上司は仕事が片付かなかったから、と言ってはいたけど、心配で待っていてくれたみたい。
そこでも若い子は
「あー、もう大変だったッスよ。腹減ったんで帰りますわ。」
運転してないのに、さも自分だけが大変だったかのようにサラッと言う。
たまには一言言いたいが、まぁいい。
それよりも、
今日の仕事はその日のうちに片付けないと、後味が悪くなる。
若い子は帰し、片付けていくことに。
ピロリローン・ピロリローン
「いらっしゃいませー♪クリスマスケーキご予約承り中です。いかがでしょうかー♪」
いつものように迎えてくれるデイリーリーフ。
レジを見たら、ナベちゃんがいる。
「今日も遅い帰りなんですね。お疲れ様です。」
「うん、高速で渋滞に巻き込まれてさ。」
「シュークリームでゆっくりしてくんですか?」
「あぁ、そのつもり。疲れ果ててるから。」
シュークリームはギリギリ売り場に1個。
今日は何個でも入りそうなのに。
あと、桃子さんの栄養ドリンクとドリップコーヒー。
多分これで、帰るまでのチカラは取り戻せる。
イートインで先ずは栄養ドリンク。
一気に飲み干す。
身体に染み渡る。
シュークリームのホイップとカスタードをじっくりと味わう。
今日はコーヒーもゆっくり飲む。
ここまで遅くなれば時間なんて気にせずって思うけど、習慣でスマホを見てしまう。
(22時、か。そろそろ…)
「待っててくれたんだ♪」
背後から声がしたと思って顔を上げようとした時、ナベちゃんはもう横に居た。
「待ってたわけじゃないけど。」
「また照れてる♪」
一瞬でナベちゃんの世界に。
「クリスマスケーキなんだけど。」
ナベちゃん、予約入れて欲しいんだろうな。
「クリスマスケーキなら会社で斡旋があるんだよね。社割もあるし。」
「そうなんだ。会社で買うつもり?」
「いやー、まだ考えてない。」
「良かった。24日に予約入れちゃった。」
「この店にも社割あるの?」
「うん、割引もあるし、予約いっぱい取ったら、ご褒美もあるよ。」
「そっか、ごめんね。成績に協力できなくて。24日は彼氏と仲良く食べなくちゃね。」
「ハイ!もちろんそのつもりです!」
良い子だ。
明るく、愛想が良くて、一所懸命。
彼氏は幸せだろうな。
「そろそろ、帰ろうかな。明日も仕事だし。」
席を立とうとした時、ナベちゃんが不思議なことを言った。
「24日、絶対ここに来てくださいね。」




