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シュークリームと栄養ドリンク≪桜桃≫

「先生、さようなら〜」



今日も期末試験。

帰りを急ぐ生徒たち。

試験勉強をするのか、遊びに行くのか。


どっちにしても、全部が自分に帰ってくる。

だから、早く帰って勉強しなさいよ、とは言わない。


それより気になるのは、目も合わせない子。

何かあるから目を合わせられないのか、先生が嫌いなだけなのか。

嫌われてるだけなら、それはそれで良い(本当はよくないけど…)。

何かあるなら早く気づいてあげないと。


ひと昔前。

両親から聞いた話では杖代わりに竹刀をもって朝の通学時間や下校時間に校門に立って挨拶指導をする先生もいたとか。

一言二言の会話からグイグイと生徒の内側まで入っていく。

今、そんな先生は居ないし、そんなことしたら問題になっちゃう。



生徒たちはどこに居ても個性が尊重され、先生は生徒の前で没個性化していく。


職員室に戻ると、その没個性から解き放たれ、普段の己に戻る。

でも、咲良は生徒の前でも、ここでも変わらない。



「桃子、昨日なにかあったでしょ?」

鋭すぎる。

咲良は微妙な変化に気が付いている。

何も咲良には隠せない。


「昨日さ、上田先生と飲みに行ったんだ。」


「はぁっ、なんで?上田と?」


「断りきれなくて。一回飲みに行けば、あの人も満足するかなぁって。」


「もう…、桃子。あいつ調子に乗るだけだよ。」


「そっか…やっぱり…」



「でも安心して。後で、この咲良様が、上田にはビシッと言っとくから。大丈夫!」



「お願い。ありがと。…それとね、」

そのあとの言葉が出てこない。

桃子は昨夜のことを話すか迷っていた。



「何よ、言い出したら、行っちゃいなさいよ。何があった?」


「見ちゃったの…二人で向かい合って…」


「誰?誰が?学校の人?保護者の誰か?いけない関係?」


「コンビニで会う、オジサン。ちょっと前にレジの列でぶつかっちゃって話すようになった人。その人、イートインで店員の女の子と向かい合って座ってたの。」


「なんだ。だから、どうしたの?」



「… … …」

(私、何が言いたいんだろう?)

咲良に[だから?]って言われて、なんでこの事が気になるのか、すぐには言葉にできない自分が居た。


「突然、なに言い出すのかと思ったら、で、どうしたの?」


「見ちゃいけないところをね、見た気がして、早く通り過ぎようとしたの。」


「誰にとって?見られちゃいけないところだったと思うの?」


「カズさん…かな?」


「それってねぇ、気になってるんじゃないの?そのカズってオジサンが。」


「そうなのかな…」

そう言われて、そうじゃないって明確に否定ができない。


「もー、分かった。とにかく今日、一緒に行ってみよ?!」

咲良の興味を引いてしまったみたい。


「何時ごろに、オジサンとぶつかったの?」


「夕方…6時頃だったと思うんだけど。」


「よし!5時半にデイリーリーフに集合!」


咲良、ノリノリになっちゃった。




ーーー


ピロリローン・ピロリローン


「いらっしゃいませー♪クリスマスケーキご予約承り中です。いかがでしょうかー♪」


夕方5時半のデイリーリーフ。


「桃子?!、どうしたのバチっとメイクなんかしちゃって。」


学校では薄化粧というか、リップを引くくらい。

ほぼノーメイク。

久しぶりに咲良に出来上がった顔を見られた。

こっちの方が恥ずかしい。



「もう、バリバリ意識してんじゃん。」


「そんな事ない!絶対ない!」


「わかった、わかった。とりあえずコーヒーでも飲もうか。」



イートインに二人で座り、コーヒー。

「桃子、ほっぺ赤くなってるよ?」


「えっ!?」


「ウッソだよー」


「もーーーっ!やめてよ。」


「そんなムキになんなくても。ごめんごめん。」


からかってきたり、ちゃんと叱ってくれたり、甘やかしてくれたり。

時々、咲良が男の子で彼氏だったら、って思う事もある。



「そう言えば、その店員さんて、今いる子?」


「そう。」


「ふーん、可愛い子じゃん。明るくてさ。」



咲良は何か企んだような笑みを浮かべながら、コーヒーを飲んでいる。



窓から眺める景色はいつもの慌ただしさ。

私達だけがゆっくりとした時間。

少しづつコーヒーは冷めていく。



「もう、いっか。結構待ってみたしね。また今度の楽しみにするわ。」

咲良も興味だけでは1時間以上イートインに居れなかったみたい。



「ちょっと買い物して帰ろ。このあと家に来る?」

咲良が店内に向かったので、追いかける。


おにぎりとかお菓子、ジュース、そしてシュークリーム。

カゴいっぱい入れてレジに行く。


あの子のレジ。

ワタナベさん…って、言うのか。

テキパキ、そして明るくレジをしてる。


会計が済んだあと、

「クリスマスケーキ、予約したいんだけど。いい?」

咲良が思いもしないこと言い出した。


「予約票のご記入、お願いします。」

ワタナベさんはレジの下からパンフレットを取り出すと、素早くボールペンと一緒に咲良へ手渡した。


「桃子、どれにする?」


「えっ?」


「どれが良い?」

そんな、咲良が彼氏と食べるクリスマスケーキなんて選べない。


「とにかく、桃子の好きなやつはどれ?」


「これ」

レジがこれ以上混むのも嫌だから、仕方なくマスカットのケーキを指さす。


咲良は予約票を書き、手渡した。

「ご予約、ありがとうございます。」

ワタナベさん、終始にこやか。



「ねぇ、咲良、彼氏とのケーキ、私が選んだので良いの?」


「誰も彼氏と食べる分って言ってないよ。彼氏とは喧嘩したままだし。」


「それまでに仲直りするんでしょ?ビックリさせるための準備?」


「ううん。違う。ボッちのクリスマスになったら嫌だから。桃子、一緒に食べよ♪」





これで、私もボッちクリスマスじゃなくなる。

たぶん、ね。



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