076_うまい飯の描写がある物語は跳ねる。
シーン:冒険をしていたら、腹が減った、という言葉と共に特徴的な打鍵楽器音が3回響き、登場人物なのか妙に間延びした口を開けた妙齢の男性を拍子に合わせせて3段階に引いた絵を見せる。そうして店を探し出すというのが定番ではあるものの迷宮内に魂を駆動させるようないい店があるのであろうか、いや諦めるんじゃない、今日の俺が、俺の腹が求めている料理が食材が、この空きっ腹をどんじりと満たす穂満な飽食が必ずあるに違いない、なぜならばここは全ての者の欲望を満たす、迷宮であるのであるから。よし、店を探そう。
「いやないよね?!」見た目は幼女そのじつ中身は色々と大人な探索者にして武芸者、斧野小町二十歳。
『しれっと出てきそうではあるのが怖いような楽しみのような出鱈目感覚な疾走感が芸術を爆発させそうで胸が躍りますね』見た目はむふふな大人の女性、そのじつ就学児童でいつ出現しても面白いニンジャ、小町の妹の斧野向日葵11歳、ニンポウ小型戦車の術で遠方より音声で参加中、細かい仕草はこれまた小型ニンジャ戦車で表現中。
「マイナスに飛び込んでいるんじゃないんですよ!」
『逆境に飛び込んでこその冒険者では?』
「冒険をしないから探索者なんですよ!」
「へいらっしゃい」
間の抜けた管楽器の笛音、木製の屋台と、同じく木製の長椅子、
へんぽんと翻る騰、赤地に白抜きの文字、書かれているのは、らうめん、
屋台の奥には調理をする前掛け頭巾姿の親父、ちょっと高齢。
「『あるんだ!』」
「ありましたな、大体今の時分にこの辺りで店を出しております」らうめん屋の親父が笑いつつ。
「いやおかしいだろう、ここ紛いなりにも危険地帯ですよ、迷宮ですよ、結構な深部ですよ、岩国迷宮33層と言えば、それなりの実力者でも遭難する可能性が出てくる辺りですよ、なんでらうめんの屋台があるのよ?というか私こんなの知らないですよ?何度か通り過ぎてますけども!?」小町困惑。
「それはご縁がなかったのでしょうな。この店は探そうと思わなければ見つからないようにできている、のかもしれませんが、たまたまの可能性も十分ございますので」のんびり親父。
「嘘っぽいなぁ、いやまあ、百歩譲って今まで偶然見かけなかったとしても、こんなところでなぜにらうめん屋台を?」疑惑の小町。
「これはここだけの話なのですけれどもね?」こっしょり親父
「ふんふん」合いの手小町。
「ここでなら、競合する他店がございませんから、お客様を独占し放題なのです」どやーがおーな親父。
『どっかの火浦功も使ってたなあそのネタ』好みの小説家、そのネタを思い出すニンジャ向日葵。
「あの発想には目から鱗が落ちましたね」腕組み頷きらうめん屋の親父。
「何枚も重なってついたんじゃないかなぁ、目に鱗」呆れる小町。
「いや、そもそも客そのものが来ないやろー!」突っ込み小町。
「だっはっは!いやそれが意外と客足は途切れないものでして、常連さんとかもいるのですよ」腕ぐみ親父。
「常連さん?こんなところに?」
「親父さん、豚骨、にんにくマシマシ、他は普通で一つ」暖簾をくぐって注文するのは淫魔のイチロー。背広、筋肉質、長身、色黒、美青年。
「お前か!」すぱこんと後頭部をはたく斧野小町。
「おお、頭がはたかれたように痛い」長椅子に座りつつ、頭をさするイチロー。
「あー、ということはこの屋台、淫魔種関係なの?あ、醤油ください」結局美味しそうな香りに負けて注文する小町。
「いや、この親父は正真正銘人間ですね、ただ、あり方が怪異に近いのは確かですけれども」ことっと置かれた丼を左手で支えて、ずいっと箸立てに綺麗に詰め込まれた割り箸を右手で引き抜き、器用に口とその手で持ってして割る淫魔のイチロー。会話の合間に音を立てて啜り込んでいく。乳白色の汁がまっすぐな麺に絡みついて豪快に口へと侵攻中。
「『怪異的?』」異口同音姉妹。
「気がついたらここで店を開いるのですよね、閉まる時もいつの間にかいなくなっているし、全く移動が追えないのですよ、不思議ですね?」麺を啜る音と共に怪異を語る淫魔イチロー。
「迷宮怪異に悟られないように出入りしている屋台?そりゃ怪異ですわね、あ、美味しい」醤油味が上品でそれでいてこくがあり、後を引く。
「まあ、気軽に迷宮怪異がらうめんを食べられるということで、その辺りは詮索しないようになりました、ここはそういう場所である、という認識ですかね?、あご飯と、生卵ください」麺を片付けた後に、追加注文の淫魔イチロー。
「炭水化物祭りですわね、太りますよ?」
「腐っても迷宮怪異なのでその辺りは大丈夫です、体型は維持されます」
「羨ましい」
「そういえば、戦車の燃料補給とかは大丈夫なのですか?」
『あ、こっちは大丈夫、怪異が落とす、迷宮水晶を取り込んでいるのと、そもそも迷宮内にいるので最低限魔力は自動補給されてますんで。あと、美味しそうなので、こっちも即席麺を作って食べてます』
「なるほど」
『これ、すぐできてすごく美味しいのですよね』
「「ちょっとギリギリな発言のような気がしますね」」二人つっこみ。




