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白銀カノン、天岩戸ノ菊理媛神。

「おーい、くくり! 頼む〜、ここを開けてくれ〜! ほら、ちゃんと謝るからさ」

「くくり様ぁ! 新作の3回転ローリング捻り土下座を披露するから何卒ぉ! 何卒お願いしますぅ!!」

「くくり様、私も嬉しくてちょっとだけハッスルしすぎました! だからせめてお顔だけでも!!」


 私はくくりちゃんの部屋の前で騒がしくするえみり先輩、羽生総理、藤蘭子さん達を見てなんとも言えない顔をする。

 みんな……嬉しかったのはわかるけど、流石にやりすぎだったよ。うん。

 私はみんなの姿を見ながら今朝から今までの流れを回想する。


 くくりちゃんとあくあが結ばれた後。

 2人が泊まっていたホテルを報道陣が取り囲みました。

 各種テレビ局は朝のニュースを休止し、現場からの生中継を垂れ流します。

 そして2人がホテルの入り口から姿を現した瞬間、一斉にシャッターが切られました。


『くくり様ぁ! 藤テレビです。おめでとうございます!!』

『国営放送です。何か一言お願いしまーす!!』


 詰めかけた報道陣達からの突撃に、くくりちゃんは顔を真っ赤にする。

 普段、テレビの前では楚々としているくくりちゃんにしては珍しいシーンです。

 2人を取り囲んだ報道陣の中から、1人の記者が勢いよくマイクを突き出した。


『どーもどーも、皆さんの聖白新聞です!!』


 声を変えていてもそれをテレビで見ている私や、突撃取材をされたくくりちゃんはその記者がすぐに誰か分かりました。

 そう、えみり先輩です。

 前のめりになりすぎたえみり先輩は、あくあのほっぺたにマイクをぐりぐりと押しつける。

 あくあだから笑ってるけど、多分、他の男性芸能人にやったら一発で炎上して身元を特定されるでしょう。

 私は心の底から、なんなら一回くらい炎上すればいいのにと思いました。


『あくあ様、何か一言お願いします! この国の未来は明るいですか!?』

『えっ? それ、どういう意味の質問!? まぁ、その、明るいんじゃないんですか?』


 あくあの言葉に周囲から「おぉ〜!」と、どよめきの声が巻き起こる。

 うん、この時点でもうアウトだろうね。

 嬉しいのはわかるけどさ、流石に調子に乗りすぎだよ。

 でも、隕石落下という暗いニュースの反動もあって、明るいニュースにハイテンションになってしまったんだと思います。

 私達のえみり先輩は止まりません。


『くくり様、昨晩は何パコ街しましたか!?』

『はあ!? 言うわけないでしょ!!』


 えみり先輩のストレートな質問に私は飲んでいたお茶を噴き出しそうになりました。

 せめて、昨晩はどうでしたか? なら分かります。

 でも、その質問は普通にアウトでしょ! ほら、アヤナちゃんが顔を真っ赤にしてるじゃないですか!!

 そのせいでくくりちゃんのお口まで悪くなっています。

 えっと……えみり先輩はデリカシーをどこかに捨ててきたんですか?

 さっき、えみり先輩を助けてあげようと思った気持ちが秒で引っ込みました。


『朝までの詳細な流れだけでも、お願いしゃっす!!』

『おんなじじゃないのよ、ばか〜っ!』


 くくりちゃんは真っ赤にした顔を隠す。

 それを見たあくあは苦笑しながら、くくりちゃんの顔を隠すように自分の胸に抱き寄せた。


『みんながくくりちゃんを祝いたい気持ちはわかるけどさ。流石にもうちょっと考えてよ。ほら、ここで騒いだら周りの人たちの迷惑にもなるでしょ?』


 うんうん、やっぱりあくあなんだよね。

 私はみんなの後方から腕を組みながら何度も頷いた。


『あと、これ以上、俺のくくりを虐めるなら、流石に俺も怒っちゃうけど、それでもいいの?』


 俺のくくりというワードにくくりちゃんは顔を真っ赤にする。

 はぁ、やっぱりあくあは、ううん、あくあ様は世界一かっこいいスーパーダーリンなんだよね。

 報道を見ていた私が鼻を高くしていると、えみり先輩が再び前に出る。


『白銀あくあプロデューサー! 自身がプロデュースするアイドルグループ、ミルクディッパーのメンバーに手を出したのはこれで3人目ですが、ネット上では白銀あくあプロデューサー自らが手篭めにするために、自分好みの女の子たちを集めたんじゃないのかと噂されています。その噂は本当なのでしょうか!?』

『おっとぉ……』


 急に風向きが変わったあくあは、すぐに顔を横に背けると急に口笛を吹き出した。

 ねぇ、あくあ……さっきのかっこよかった私のあくあ様を返してくれないかな?

 えみり先輩の追求に周囲がざわつく。


『ちょっと待って、3人!? らぴすちゃんとくくり様だけじゃないの!?』

『つまり、ハーちゃん、フィーちゃん、スバルたん、みやこちゃんのうち誰か1人が幸せになったと!?』

『めでてぇニュースじゃねぇか! そっちも一面記事だろ!!』

『くっ! さすがは聖白だ! 私達の掴んでない情報まで掴んでる!』

『ああ、今日のニュースだって聖白が教えてくれなきゃわからなかったからな』

『聖白にはほんま感謝やで。めでたいニュースはうちらかてちゃんと共有してくれるもん』


 ああ、そっか。

 ハーがあくあに抱かれたのはまだニュースになってないんだっけ。

 私は、また、スターズ本国とお母様が騒ぎそうだなと思った。

 えみり先輩にマイクをぐりぐりされたあくあは、観念したのかボソボソと喋り出す。


『えっと、ですね……。ミルクディッパーに関しては、プロデューサーとしてちゃんと選んだんです。そこはちゃんと自信を持って言えるので、ファンの皆さんは安心してください! ただ……ですね。まぁ、そういう事もあるというか……。仕方ないでしょ! みんな、可愛いんだから!!』


 あ……完全に開き直った。

 あくあはカメラの前でミルクディッパーの魅力について語り出す。


『いいぞ!』

『それでこそ私達のあくあ様だ!!』

『そうだ。手を出せ。全部出せ!』

『あくあ様、止まるんじゃねぇぞ!!』


 ほら〜、そうやってみんながまたあくあを甘やかす〜。

 でも、迫られた女の子達からしたら本望だよね。

 普通の男の子達は、テレビに出てるってだけで敬遠しちゃうから、アイドルなんて彼氏のいない子しかいないもん。

 それどころか、男の子と会話もした事が無ければ、手を繋いだこともない女の子がほとんどです。

 そんな女性アイドル達にとって、トップアイドルのeau de Cologneの3人を1人でコンプリートしたあくあの存在は、女性アイドル界隈の救世主と言っても過言ではありません。

 あくあのほっぺたにマイクをぐりぐりしたえみり先輩は、さらに追い打ちをかける。


『そういえば、他社のアイドルグループであるeau de Cologneのふらんちゃんともお付き合いしているとお聞きしておりますが!?』

『株式会社Make Up Cosmetics RECORD様、本当に申し訳ありませんでしたぁっ!!』


 株式会社M.U.Cレコードは、eau de Cologneが所属している事務所です。

 あくあは前に向かってダイブすると、全身を地面に擦り付けるうつ伏せ土下座を披露する。

 その見事な技と判断の速さに、私は思わず拍手をしていました。

 さすがはあの羽生総理から土下座の免許皆伝をされただけの事はあります。完璧なタイミングでした。


『待ってください。あくあ様。私たちは何もあくあ様を責めてるわけじゃないんです。あくあ様のおかげで救われた多くの女性達がいる。その事に対して、私たちは喜んでいるんです。そして私たちは、幸せになった女性達をみんなで祝福したいんですよ』

『そうだ!』

『いいぞ、聖白! その通りだ!』


 うんうん、みんなの言うとおりです。

 さっき、なんであくあが土下座したのかはわからないけど、誰も責めてないし謝罪しろだなんて思ってもないんだよね。

 でも、あくあのこういうズレたところがみんなには受けているから、誰も教えたりなんてしません。

 私の隣でサンドウィッチを食べていた小雛ゆかりさんがジト目になる。


「あーあ、また、えみりちゃんとあくあの謎の自作自演コントが始まった。あいつら、いつもこのパターンなんだから。ていうか、あくあも聖白の記者がえみりちゃんだって気がつきなさいよ。こいつ本当に肝心なところで究極にポンコツなんだから」


 小雛ゆかりさんは顔を真っ赤にしたアヤナちゃんを慰める。

 えっと、小雛ゆかりさん? その隣で顔を真っ赤にしてるまろんさんにも気を遣ってあげた方がいいのでは?

 あ、そっちは自業自得からどうでもいいって。なるほどね……。


『皆さん……くっ! ありがとうございます!!』


 あくあは泣きながらくくりちゃんの体をもう一度抱き寄せた。


『皇くくりは必ず俺が、白銀あくあが絶対に幸せにします!! いや、くくりちゃんだけじゃない。俺は俺が手を出した全ての女の子達を幸せにします!!』

『『『『『うおおおおおおおおお!』』』』』


 あくあの言葉に周りから大きな拍手が起こる。

 報道陣だけじゃなく、偶然その場に居合わせた一般市民、ホテルで勤務していた人達、ホテルに泊まっていた人達まで出てきて2人を祝福しました。

 それを見た小雛ゆかりさんはドヤ顔で私の方へと視線を向ける。


「ね、言った通りでしょ? これが、あいつらの常套手段なんだから、カノンさんもあの2人の小狡い手に騙されちゃダメよ」

「あ、はい……」


 すみません。普通にいい話だなと思って聞いてました……。

 そっか、これがあくあとえみり先輩のやり方なんですね。

 当事者になると、後から考えて、いつも誤魔化されているような気がしていましたが、やっぱりその違和感は正しかったようです。


 とまぁ、ここまではまだ大丈夫だったと思うんだよね。

 えみり先輩ってラインがわかってるから、くくりちゃんを辱めはしてもうまく調整してくるから。

 ただ、今回は盛り上がり過ぎた大人達がいけませんでした。


『えー、今日を国民の休日にします!!』


 羽生総理……100歩譲って、国民の休日にするのはいいと思うんですよ。

 でも、顔くらいある赤飯のおにぎりを頬張りながら出てくるのは完全にアウトです。


『羽生総理、それは一体、どういう事ですか!?』

『詳しく説明してくれないとわかりません!!』


 質問を投げかける記者達が、白い歯を見せてニヤニヤしている姿が映し出される。

 私は、みんな、わかってるくせに! と思った。


『それは私の口からはとても……』


 羽生総理はニヤニヤしながら、赤飯を食べる。

 外野から「総理! お行儀が悪いですよ!」という声が飛んできました。

 揚羽さん、それは正しいけど、突っ込むところが違います。


『まぁ、国民の皆さん察してください。この私が食べているお赤飯で!!』


 総理はカメラに向かってドヤ顔を見せる。

 うん、流石に調子に乗り過ぎたよね。

 お昼ご飯を食べていたくくりちゃんのお箸を持つ手がぷるぷると震えてたもん。

 そして調子に乗った大人は羽生総理だけではありませんでした。


【臨時特別放送 皇くくり様 〜御生誕から今日までの麗しき日々〜】


 藤テレビは、藤蘭子会長などを特別ゲストに招き、これまでのくくりちゃんを振り返る映像を延々と流し続けました。

 それを見たくくりちゃんが自分のお部屋に引きこもってしまうのは当然の事です。

 私は手に持ったビラへと視線を落とした。


【くくりちゃん様、ご懐妊!? 出産するなら予定日はいつ!?】


 聖あくあ教の信徒が配っていたサイテーのビラです。

 きっとくくりちゃんの下についている子達が暴走してしまったのでしょう。

 えみり先輩は当然の如く何も知らないとして、クレアさんが止められなかったと言っていました。


「ほら、くくり。お前の好きなえみりお姉ちゃんお手製のプリンを作ってきたぞ! な、な!?」


 あっ、えみり先輩のプリンだ。美味しそ〜。

 えっ? 人数分作ってるから、余ったのは食べていいって?

 やったー!!


「くっ、こうなったら辞任のカードを切るしかないのか!? 楓くん……もしもの時は頼んだぞ!!」


 羽生総理……せめて誰かに総理を託すのなら揚羽さんか玖珂理人さんにしてください。

 数ある後継者候補の選択肢の中でも楓先輩、えみり先輩、あくあの3人は悪手中の悪手です。

 楓先輩も満更じゃない顔をしてるし……。


「くくり様。私は嬉しかっただけなんです! 責任は総理が取りますから!!」


 さりげなく総理に全部押し付けようとしてる藤蘭子さんを見てさすがだなと思いました。

 えみり先輩達、雪白一族のせいで騙されそうになりますが、これが旧華族六家の強かさです。

 私は扉の前に縋り付く3人から視線を逸らすと、呑気に紅茶を飲んでいるお婆様へと視線を向ける。


「ふふっ、みんな楽しそうね」


 こんな状況で、そんな呑気な事を言っているのはお婆様くらいですよ……。

 そもそも、聖あくあ教のはお婆様が裏で手を引いていたんじゃないですか?

 ジト目になった私の視線に気がついたお婆様は、素知らぬ顔でプリンに手をつける。


「もう、仕方ないんだから」


 流石にこの状態じゃ埒があかないから、ここは私がどうにかしますか。

 私が前に出ようとすると、ちょうどあくあが家に帰ってきました。


「ただいま〜! って、あれ? みんなどうしたの?」


 私は何も知らないあくあに事情を説明する。


「そういう事か。それなら俺に任せろ!!」


 さすがは私の、ううん、みんなのあくあです。

 あくあはくくりちゃんの部屋の前に立つと、扉を優しくノックする。


「くくりちゃん、入るよ」


 そう言って、あくあは扉のノブを回す。

 って、今、バキッ! って何かが壊れる音が聞こえてきたんだけど!?

 楓先輩はそれを見て手を合わせる。


「やはりパワー……パワーは全てを解決する……」


 みんなが楓先輩の言葉に深く頷く。

 くくりちゃんの部屋の中に強引に入っていたあくあはベッドに腰掛けると、お布団にくるまったくくりちゃんに優しく話しかける。


「くくりちゃん、後で俺からみんなに怒っておくから、機嫌なおして、一緒にご飯食べよ? ほら、今日は楓が真っ黒になるまで煮詰めた特製ゴリゴリカレーだからさ。みんなで食べたら美味しいよ?」

「……うん」


 お布団の中からモゾモゾと出てきたくくりちゃんを見て、みんなが歓声をあげる。


「ごめんな。くくり」

「くくり様、すみませんでした!」

「ごめんなさい。くくり様」


 頭を下げるえみり先輩、羽生総理、藤蘭子さんを見たくくりちゃんは少し照れくさそうに笑う。


「ううん、別に怒ってないよ。みんなただ私を祝福したかっただけだってわかってるから。ただ、ちょっと私が恥ずかしかっただけ」


 うんうん、同じシチュエーションになった事があるから、私もくくりちゃんの気持ちがわかるよ。

 別に怒ってるわけじゃないんだよね。ただ、恥ずかしいだけなんだよ……。

 部屋から出てきたくくりちゃんをみんなが笑顔で出迎える。

 私たちはみんなでリビングに戻ると、機嫌を直してくれたくくりちゃんと一緒に楽しくカレーを食べた。


「やはり、カレー。カレーはみんなを笑顔にする……!」


 うん、それはそう。

 私は楓先輩の言葉に頷く。

 この後、あくあがちゃんと羽生総理と藤蘭子さんをちゃんとお説教して一件落着した。


「めでたしめでたし!」


 私はそう言って自分の部屋に帰ろうとしたえみり先輩の肩を掴むと、事情を知らないあくあのためにちゃんとえみり先輩にお説教した。

 だって、元はと言えばえみり先輩が喜び過ぎたのが最初のきっかけなんだからね!

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