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白銀あくあ、パラボリック。

 俺たちの放送から丸一日経った火曜日。

 いつもと変わらない生活を送るために、普通に学校に行った俺達をみんなが暖かく出迎えてくれた。


「あくあ君、何かあったら私たちが全力で守るからね!!」

「いやいや、あくあ君は私たちが守らなくても大丈夫でしょ」

「それはそうだけど、もしもの時だってあるかもしれないじゃん」


 みんな……本当にありがとうな。

 俺はクラスメイトのみんなに笑顔を向けると、両手を広げてみんなに感謝のハグをしようとする。

 流石に全員は無理なので、俺は近くにいた3人の肩を抱き寄せてギュッと抱きしめた。


「大丈夫、もしも何かあった時は、俺が全力でみんなを守るから」

「「「「「は、はひ……」」」」」


 ん? アヤナ、そんな目をしてどうした? ハグなら昨日も今朝もしただろ?

 それとも、もう一回か? 俺は全然構わないぞ!! さぁ、俺の胸に飛び込んで来い!!

 俺が両手を広げて待ち構えていると、アヤナは顔を赤くして両手を振る。


「えっと、そうじゃなくって、3人だけじゃ不公平だから、せっかくなら全員とした方がいいんじゃない?」

「なるほど……確かにそれは一理ある」


 そういう事ならこの俺に任せろ!! 

 俺はクラスメイトの子達を次々と抱きしめていく。


「ちょっと、あくあ! 僕たちは別にハグしなくてもいいって!」

「ああ、僕もそう思うぞ」

「まぁ、いいだろ。ついでだって」


 俺はその流れで慎太郎やとあともハグをする。

 しかしこれも俺にとっては計算のうちだ。

 俺はその流れの勢いで、教室に入ってきた杉田先生の体も抱きしめる。


「ま、待て。白銀! ここは学校だぞ!? そ、そういうのは、学校以外でだな……」

「えっ? じゃあ、学校の授業が終わったらハグしていいんですか?」


 俺の言葉に杉田先生は顔を真っ赤にする。

 否定しないって事は、良いって事ですよね?

 杉田先生、ちゃんと言質は取りましたよ!!

 帰りのホームルームのチャイムが終わった瞬間に、もう一回ハグするから覚悟しておいてくださいね!!


「乙女咲の叡智と呼ばれた白銀あくあにかかれば、ざっとこんなもんよ」

「あくあの場合、叡智というよりただえっちなだけじゃん……」


 とあのツッコミに俺は視線を逸らす。

 男っていうのは、戦いの前や存亡の危機などに直面した時に、生物としての生存本能が作用して、子孫繁栄のために性欲が高まるという話を聞いた事がある。

 きっと、そのせいだ!! という事にしておこう。


「ねぇ、そんなしょうもない事よりさ、今日のパラボリック訓練どうするのさ?」

「あー……」


 止むを得ない事情からライブツアーは中断してしまったが、俺たちはワールドツアーと並行して、その先にある宇宙ステーションでのライブを目指して、昨年から宇宙飛行の訓練も積んでいた。

 パラボリック訓練はその中でも最も実践的な訓練で、実際に飛行機に乗って無重力を体感する訓練である。

 俺たちはパラボリック訓練のフェーズ1、無重力の体感、フェーズ2、無重力での動作と姿勢制御をクリアし、今日からはフェーズ3、無重力でのライブを特訓する予定だった。


「阿古さんから特に連絡もないし、多分やるんじゃないかな?」


 隕石の危機が終わってワールドツアーが再開した時に、いつでもツアーが再開できるように、俺たちはその期間もずっと合わせの特訓をするつもりだ。

 だから、宇宙ライブに向けての訓練も続けるべきだろうと思う。


「一度、確認のために聞いておいた方がいいかもしれないな。僕から連絡しておこう」

「それじゃあ僕は、天我先輩に連絡しておくね」


 2人とも、ありがとうな。

 俺なんか天我先輩の事を完全に忘れてたもん。

 そんな事を俺が考えていると、ポケットの中に入れいている携帯が振動する。


【小雛ゆかり:今日のパラボリック訓練ってあるの?】


 あっ……俺は宇宙飛行訓練に参加していたもう1人の先輩の事を思い出す。

 本人曰く、お目付役として宇宙ライブについてくるつもりで参加しているらしいけど、俺は暇潰しで参加している線が1番濃厚だと思っている。

 俺は小雛先輩に、慎太郎が確認してくれている事を連絡すると、携帯の電源を切ってポケットの中に戻した。

 それから数時間後、俺たちは午前中の授業が終わると揃って学校から訓練が行われる茨城の空港へと向かう。

 午後の授業は移動中にオンラインで受けるつもりだ。


「BERYLの皆様、ようこそ、おいでくださいました!!」


 俺たちが空港に隣接する自衛隊の基地に入ると、自衛官の皆さんが揃って敬礼してお出迎えしてくれた。

 パラボリック訓練では実際のジェット機が使用されるが、俺達が乗るジェット機の操縦をしてくれるのは、政府専用機を操縦している特別航空輸送隊の自衛官達だと聞いている。

 普段は皆さん政府専用機と共に北海道の千歳基地にいるが、今回の訓練のために特別にここまで来てもらった。


「今日はお世話になります!」


 元気よく挨拶をした俺は、自衛官の皆さんの案内で基地の奥地へと行く。

 するとそこには迷彩服を着た見覚えのある人達が待っていた。


「やあ、よく来たな。みんな!」

「羽生総理!? って、それに椛さんも!?」


 えっ? なんで2人が迷彩服を着て待ってるんですか?

 あっけに取られた俺は隣にいる慎太郎と顔を見合わせる。


「今日は私達がジェット機の操縦をする。私が機長で、椛さんが副操縦士だ」

「「「「ええっ!?」」」」


 それって大丈夫なのかな?

 俺は少しだけ不安な気持ちになる。

 羽生総理はそんな俺たちの感情を察したのか、自らの胸をドンと叩く。


「こう見えて私は元戦闘機乗りだ。それに政府専用機もたまに自分で操縦してるから、安心してくれていいぞ!」

「何かあったときは私もいるし、もしもの時は自動操縦があるから、ね?」


 まぁ、そういう事なら大丈夫なのかな……?

 2人と分かれ、更衣室で訓練用の服に着替えた俺たちは、集合場所である滑走路へと向かう。

 するとジェット機の前で訓練用の服に着替えた小雛先輩が待っていた。


「ほら、さっさと行くわよ!!」


 なんで歌ったり踊ったりしない小雛先輩が1番元気なんですか。

 小雛先輩の体をよくみると、定点カメラとは別に俺たちを撮影するカメラを胸の部分に装着していた。


「いーい、みんな。ここがカメラだからね。その辺ちゃんと意識してダンスするように!」


 つまりずっと小雛先輩のおっぱいを見とけって事ですか?

 そういう事なら俺に任せてください!!

 キリッとした顔をする俺の顔を見て、なぜか小雛先輩がため息をつく。

 俺達はジェット機の中に入ると席に座ってシートベルトを装着する。

 すると、スピーカーから操縦席にいる羽生総理の声が聞こえてきた。


『みんな、知っての通りスペースシャトルは最大で7人乗りだ。つまり、今日の人数と全く同じという事になる。今回の訓練はそこも想定した上での訓練だ。各自、気を引き締めていこう』


 そのアナウンスの後、しばらくしてから俺達を乗せたジェット機が空へと飛び立つ。


『当機は後少しで訓練実施空域に到達する。各自、サブオービタルフライトでの実践訓練に備えてシートベルトを外し、訓練用モジュールであるセクターに移動しろ』


 俺たちは言われた通りにシートベルトを外すと、客席も何もない場所に移動する。

 宇宙ステーションはここより広いとはいえ、この中で動くのは相当狭いな。


『訓練実施空域に到達した。只今より当機はパラボリック訓練を行う。各自、訓練に備えろ』


 俺たちは床にうつ伏せになって寝そべると機体が少しだけ下降する。

 ここからジェット機は35秒で高度6500mまで下がった後に、45度の角度で8500mまで25秒で加速する予定だ。

 実際に無重力で訓練ができるのは、その後にくる20〜30秒の時間しかない。

 それを何十回と繰り返すのが今回のパラボリック訓練だ。


『30……20……10……5、4、3、2、1、Injection!』


 俺達の体がふわりと空中に浮く。

 さぁ、ここからだ。

 空中に飛んだ俺たちは天井を利用して体を前に向けると、カメラに向かってポーズを取る。

 無重力下では、地上と同じようなキレのある激しいダンスはできない。

 だからこそ俺たちは、みんなの動きを綺麗に揃えて、4人の動きに統率感を出す事を重視した。


「小雛先輩、そっちから見てどうですか!?」

「素人の私が見たら十分揃ってるように見えたけど、ちゃんと撮ってるから後で確認してみて」


 それでも念の為に、同じシーンの練習をもう2、3回やっておくか。

 ライブの最初に、全員が一緒にゾーンに入れるかどうかは後のパフォーマンスにも関わってくるからな。


「みんな、動きにばかり気を取られちゃダメだぞ。ちゃんと表情も作ろう!」

「了解!」

「うん!」

「ああ!」


 同じ訓練を3回ほど繰り返した俺達は、次のステップへと向かう。


「次は入れ替わりのシーンだな。頼んだぞ慎太郎!」

「ああ、任せろ。あくあ!!」


 無重力の下でポジションを入れ替わるのは大変だ。

 最初は怪我をしないために、お互いに声で合図を送り合って体を入れ替わる。


「あくあ!」

「おう!」


 壁に左手をつけた慎太郎は俺の体を右手で掴むと、自分の方へと手繰り寄せる。

 そして壁につけた左手で壁を押して俺の位置へと出てきた。

 問題はここからだ。


「とあ!」

「うん、任せて!」


 とあは右手に壁をつけると、左手を伸ばして慎太郎の体を止めようとする。

 でも、その際にとあの右手が壁から離れて慎太郎の体を受け止めることができなかった。

 慎太郎は即座に手を出して壁に接地すると、俺はこっちに飛んできたとあの体を全身で受け止める。


「ごめん、手が離れちゃった。悔しい!!」

「大丈夫大丈夫、次、頑張ろう!!」


 残念ながら最初は失敗したけど、これも経験だ。

 宇宙でライブをしたアイドルなんていないんだから、俺たちが手探りで色々とやっていくしかない。

 俺たちは次の無重力下でも同じ訓練をする。


「よしっ! 次は成功だ!! 続けていくぞ!!」


 俺たちはポジションを変え、入れ替わりの訓練を続ける。


『みんな、時間だ。次を最後にして、その後に無重力下での心臓マッサージの訓練を行う』


 俺は窓から外を見る。

 もう夕暮れ時か。俺達が無重力訓練ができる時間は暗くなるまでだ。

 それ以上は危機管理上の問題からできない事になっている。


「最後、1番難しいのやっておこう!」

「あの抱き合ってくるりと回転して、反対側の壁に着地するやつね」


 俺と慎太郎は左側の壁に、とあと天我先輩は右側の壁に手をつける。

 練習相手は俺がとあ、慎太郎が天我先輩とだ。


「とあ、いくぞ!」

「うん!」


 俺はカウントダウンに合わせて、とあと同時に壁を押して反対側へと飛ぶ。

 両手を合わせてくるりと回転しようとしたところで全員にミスが起きた。


「うおっ!?」

「すまん、後輩!」


 俺は入れ替わる時に天我先輩と背中をぶつける。

 そのせいで軌道が変わった俺は小雛先輩の方へと飛んでいってしまった。

 小雛先輩は両手を広げると、俺の体をギュッと抱きしめるように受け止めてくれた。


「ナイスキャッチ、小雛先輩。ありがとうございあひゃす。」

「まぁ、任せておきなさいよ。こう見えて、私も暇つぶしであんた達と同じ訓練受けてるんだから」


 ほら、やっぱり暇つぶしじゃないですか!!

 って、ツッコミはいいや。

 さっき失敗したのは、俺が周りを見れてなかったせいだな。

 後でしっかり映像を見て反省しないと。

 俺はみんながいる方向へと視線を向ける。


「あー! 悔しい! 最後、僕が手を離すのが遅れたせいで、ずれちゃったせいだよね?」

「いや、我が勢いをつけすぎたせいでポジションが狂ったからだ」

「それを言うなら僕が天我先輩と手を合わせる時にもたついたのが……」


 みんなが悔しそうな顔をしているのを見て、俺は嬉しくなった。

 みんな、本当にありがとうな。ここまで、俺についてきてくれて。


「みんな、反省は後で。最後にまだ心臓マッサージの訓練が残ってるから気を抜かないように!」


 無重力下での心臓マッサージの仕方は独特だ。

 天井に足をつけて逆立ちをするようにして相手の胸を押す。

 そうじゃないと腕に力が入れられないからだ。


『みんな、お疲れ様。今日のプログラムはこれで終わりだ。モニターで椛さんと一緒に、みんなが頑張る姿を見せてもらったよ。あとは席に座ってゆっくりしてくれ』


 俺たちは席に戻るとシートベルトを閉めてゆっくりする。

 今回のパラボリック訓練で、今できる事、できない事がわかったのはよかった。

 全てが手探りでうまくいかない部分があったけど、課題が明らかになったのは良い事だと俺は思う。

 空港に到着した俺達は更衣室で服を着替えると、羽生総理に呼び出されて基地内にある応接室に入る。


「みんなに改めて問いたい。宇宙に飛ぶ気はないか?」


 羽生総理の言葉に俺たちは顔を見合わせる。

 一体、どういうことだ?

 俺は再び羽生総理に視線を戻すと、彼女の目に真意を問いかける。


「知っての通り今回の隕石破壊ミッションは死の可能性すらも伴う前人未到の困難なミッションだ。だからこそ、その危険なミッションに従事してくれる勇敢な人達に、宇宙ステーションで君達、BERYLの誰もやったことのない前人未到の宇宙ライブを見せてあげたい。これは……君達が宇宙でのライブを目指して、特訓している事を知ったステイツのメイトリクス大統領からのオファーでもある。もちろん、このミッションだって危険性が全くないわけでもない。断るか選ぶかは君達次第だ」


 俺は一瞬だけ、小雛先輩へと視線を向ける。

 すると小雛先輩は首を左右に振った。

 どうやら小雛先輩も今回の話は知らなかったみたいだ。


「羽生総理、阿古さんには……?」

「天鳥社長にはすでに連絡済みだ。彼女は君たちの判断に任せると言っている」


 俺は隣に居る慎太郎へと視線を向ける。


「あくあ……お前が行くって言うのなら僕はついていく。それがたとえ、宇宙の果てだとしてもだ」


 メガネの奥に見える慎太郎の目から覚悟が伝わってくる。

 もし、この世界に神様が居るんだっったら、俺はお前と出会えた事に感謝するよ。

 俺は反対側にいるとあへと視線を向ける。


「ふふっ、2年くらいまで引きこもってたのに、まさか、あのデートから宇宙にまで行く事になるなんてね」


 とあはついていくつもりなのか、俺の方を見て小さく頷く。

 本当、お前って最初から俺の出す答えがわかってるよな。もしかして、俺って考えている事がかなりわかりやすいんだろうか?

 俺は後ろにいる天我先輩へと視線を向けた。


「選べ後輩。これはお前が始めた物語だ。どんな選択肢であっても、我らはそれを尊重する」


 天我先輩はそう言って俺の背中をポンと押してくれた。

 たとえ何があっても進み続ける。そうだ、それこそが俺の選んだ道なのだから。

 俺は羽生総理へと視線を戻す。


「やります。俺たちは最初から、そのつもりで訓練を重ねていたのだから、それが誰かを勇気づけられる事になるというのなら、尚更ですよ」


 俺の選択に、今度は小雛先輩が無言で俺の胸をポンと叩いた。

 これは、まぁ、頑張れよって事かな。


「ありがとう、みんな。みんなはこの私が命に賭けても、ちゃんと宇宙に送り届けるから安心してくれ」


 まぁ、この話が出た時点で、そんな事だろうと思ってましたよ。

 そうじゃなきゃ、今日だって忙しい最中にわざわざ来ないだろうしね。


「もちろん、私もついていくわよ。撮影班兼保護者としてね!!」

「わかってますよ」


 どうせ断っても勝手についてくるんだろうしね。

 こうして、俺達BERYLの人類史上初、宇宙からのライブコンサートが決定した。

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https://x.com/yuuritohoney

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