白銀あくあ、素直になあれ。
ファンのみんなに、生きる希望を持ってもらいたい。
そう思った俺は、結にファンのみんなに俺の生殖細胞を配れないかと相談した。
流石に国外への輸出規制はあるものの、国内でばら撒く分は量さえあればどうにかなる。
そう……だから俺は頑張った。本当に頑張った。
その道のスペシャリストでもある結、無尽蔵のスタミナを誇る楓、何度もゾンビのように復活してくるクレアさん、全てを超越したまろんさん……。
四天王との激しいバトルを思い出すだけで、俺の背筋が何故か武者震いする。
もちろんできる限りの生殖細胞を集めるために、4人以外のみんなにもたくさん助けてもらった。
本当にみんなには、感謝してもし足りないくらい感謝している。
そして、全てが終わった後に見せたえみりの綺麗な涙を俺は絶対に忘れない。
「あくあ様……私も協力したかったです!!」
俺はえみりの身体を強く抱きしめた。
えみり、全てが終わったその時は……いや、これ以上の言葉はフラグになるからやめておこう。
「今日はホワイトデーか……」
きっと今頃は、みんなが郵便ポストに入っている俺からのホワイトデープレゼントを受け取ってびっくりしている頃だろう。
流石に人工授精ができるほどの量はないが、お守りがわりにこれからを生きる希望として持っていて欲しい。
俺は机の上で振動する携帯を手に取ると、アプリで送られてきたメッセージを確認する。
【黛慎太郎:なぜか僕の家にこんなものが送られてきたんだが……】
俺は慎太郎から送られてきた画像を見て、ベッドからずり落ちる。
ちょ、待てよ! なんで慎太郎の家に俺のホワイトデープレゼントが送られているんだ!?
あれか? 貴代子さんの分か!? いや、そんなはずはない。慎太郎が手に持った封筒には貴代子さんではなく、しっかりと慎太郎の名前が入っていた。
俺は慎太郎に、何かの手違いだと思う事を伝える。
そうこうしていると、アプリが新しいメッセージを受信した。
【天我アキラ:後輩……一応、その、なんだ……。ありがとな】
ホワイトデープレゼントを手に持った天我先輩は照れくさそうな顔でサムズアップする。
天我先輩、変に顔を赤らめなくださいよ!! 俺だって恥ずかしいんですから!!
ていうか、天我先輩が持ってても意味ないでしょ!! まず、そこでおかしいなって事に気がついてください!!
俺が天我先輩に突っ込んでいると、アプリがさらなるメッセージを受信した。
【猫山とあ:あくあってば、もしかして僕が女の子だって、まだ勘違いしてる? まぁ、一応、男の子同士でも人工授精ならできなくはないけど……】
2度あることは3度ある。もちろん、とあの家にも俺のホワイトデープレゼントが届いていた。
なるほど……女性同士で子供ができる技術があるんだから、理論的にはできるのか……。
すげぇな。この世界のテクノロジーには驚くばかりだ。
俺はホゲラー波が真正面から直撃したような顔になる。
くっ! この様子だと、確実に手違いで他の男子達にも配られていそうだ。
現に俺のところに次々と他の男子から似たようなメッセージが送られてくる。
【山田丸男:あくあさん、よくわからないけど、ありがとうございます!!】
【黒蝶孔雀:一応聞いてみるが、これには一体どういう意味があるんだ?】
【赤海はじめ:あ、あくあ先輩!? さっきホワイトデーが届いたんですけど、これって……】
【玖珂理人:あくあ君。これは、お守り代わりに持たせてもらうよ。何かの縁がありそうだしね】
俺は慌てて結の紹介で配送を頼んだセイジョー運輸の24時間対応お問い合わせ窓口に電話する。
安心・安全、光よりも早く届く超光速便がキャッチフレーズのセイジョー運輸は政府も使ってる運送会社だが、配送の際に何か不手際があったのかもしれない。
『はい、セイジョー運輸、お客様対応相談室です!』
ん? 若干、えみりの声に似ているような……ま、俺の気のせいか。
「あのー、すみません。実はちょっと聞きたい事があって……」
『あ、あくあ様ぁ!?』
電話対応のお姉さんが咽せる。
お姉さん、大丈夫ですか?
「すみません。朝から驚かせちゃって……」
『いえいえ! それより、どうしましたか?』
俺は窓口のお姉さんに事情を説明する。
するとお姉さんはすぐに手元のパソコンで調べてくれた。
『あー……これですね。こちらでは、全国民に向けて発送するようになってます!』
「えっ?」
全国民に向けてだって!? つまり、最初の段階から発送をミスっていたのである。
ていうか、全国民に発送って、数は足りているのだろうか。
『数は問題なく足りてますね。そっちは大丈夫ですよ。ちゃんと全国民に配達済だって連絡が来ています』
「ああ、なるほど……わかりました。どうやらこっちのミスだったみたいです。ありがとうございました。あ、それと、朝早くからありがとうございました。お仕事、大変だろうけど頑張ってください」
俺は通話を切ると、自分の部屋の天井を見上げる。
そこで俺は考えた。やべぇ、もう手遅れじゃねぇか、と……。
深く考えた結果、俺には特に害もないし、みんなふざけて喜んでくれるから別にいいか。という結論に至った。
そう、俺は細かい事は気にしない男なのである。
「みんな、おはよう!!」
俺がリビングに行くと、白銀キングダムで働くメイドのお姉さん達が笑顔で出迎えてくれた。
ファンのみんなに送ったホワイトデープレゼントとは別に、ここで働いてくれているメイドさん達やスタッフの皆さんには別に俺からのプレゼントを部屋の前に配達してある。
その事について嬉しそうな顔でお礼を言ってくれるみんなを見て、俺もホワイトデープレゼントを送ってよかったなと満足した。
俺は朝食を食べて学校に行くと、慎太郎やとあ達と一緒に、俺達が作ったお菓子を同じ学校の生徒たちや先生たちに配っていく。
「ありがとう。あくあ君!」
「後で食べるね!」
「このために学校に来たまである!!」
みんなの喜ぶ顔を見て、俺はお菓子を作って良かったなと思った。
俺は袋からお菓子を取り出すと、目の前に居るナタリアさんに手渡す。
「卒業式まであと1週間か。あくあ君、みんなに最後の思い出ありがとう。元生徒会長としてお礼を言うよ」
「こちらこそ、ナタリアさんや生徒会の皆さんには学校ではたくさんお世話になりました!」
なつきんぐに続いて、ナタリアさんも卒業か。寂しくなるな。
まぁ、2人とも白銀キングダムに住んでいるから、結構な頻度で会えるんだけどね。
俺達はショートホームルームやお昼休み、授業と授業の休み時間、放課後などを使ってなんとかみんなにホワイトデーのお菓子を配り終えた。
俺は家に帰宅すると、みんなに1人ずつホワイトデーのプレゼントを手渡していく。
「カノン、いつもありがとう。これ」
「わっ、かのあやあのんとお揃いの靴下だ。あくあ、ありがとう!!」
手編みの靴下を受け取ったカノンは俺に抱きついて喜ぶ。
この前、カノンがかのあやあのんとお揃いのものが欲しいな。って、言っていたから、頑張って手作りしてみた。元々、俺は手先が器用な事もあって、編み物などは得意である。
「アヤナ、俺の作ったぬいぐるみだ。もらってくれ」
「えっと……大怪獣ゆかりゴンのぬいぐるみかな? ありがとう、あくあ」
アヤナ……それは大怪獣ゆかりゴンじゃない。
それは、俺が新たにデザインしたアヤナとニャンコを合体させたアヤニャンぬいぐるみだ。
俺がアヤナにその事を伝えると、「え? これのどこに猫要素が……」と驚いた顔をされた。解せぬ!!
「揚羽さん、これ。議会につけていけるように、落ち着いた感じの柄で作ってみたから」
「えっ? このヘアゴムって、あくあ君の手作りなの? ありがとう」
今日のプレゼントは全て俺が手作りしたものだ。
俺は揚羽さんの長い髪を自分の作ったヘアゴムで纏める。
それを鏡で見ていた揚羽さんは嬉しそうな顔をする。
「みんな、いつも本当にありがとう。後、こんな俺の事を好きになってくれて、ありがとな!」
嫁や恋人たちに手作りのプレゼントを渡し終わった後に、みんなで食事を楽しむ。
周りのみんなの嬉しそうな顔を見た俺は、この何気ない時間のためにも、頑張らなきゃいけないなと思った。
「えみり先輩、体調は大丈夫ですか?」
「だから大丈夫だって。お前は本当に心配性だなぁ」
カノンがえみりを心配して声をかけていた。
俺はえみりの身体を見て目を細める。
出産予定日を控えるえみりのお腹もだいぶ大きくなってきた。
「白龍先生、つわりは大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫! むしろ最近はお腹が減っちゃってさぁ。体重増加の方が心配だったり……」
琴乃に心配されたアイは、大丈夫と言わんばかりに目の前のステーキを頬張る。
アイも一時期はつわりで気持ち悪そうにしてたけど、最近はまた元気な姿を見せるようになってくれた。
ありがとう、アイ。こういう時に無力な俺にできる事は、ただ感謝し、出産に最適な環境を整えてあげる事だけだ。
俺は周囲を見渡すと、阿古さんと話している小雛先輩が視界に入る。
「あれ? ゆかり、どっかに行くの?」
「ちょっと、散歩。食べすぎた」
今日は静かだなと思ってたら、そういう事だったんですね……。
席を立った小雛先輩を見て、俺もそっと席を立つ。
「なに? あんたも散歩?」
「まぁ、そんなところです」
俺は前を歩く小雛先輩の3歩後ろからついていく。
これは俺が小雛先輩の前を歩くと、図体がデカすぎて小さな小雛先輩の視界を遮ってしまうからだ。
かと言って、横に並ぶのは100年早いとかって言われそうだし、ここが俺のベストポジションだと思う。
実際、俺の前を歩く小雛先輩の小さな背中を見るのは嫌いじゃないしな。
「で、なんか話したい事があるから、私についてきたんじゃないの? 早く言わないと、散歩が終わっちゃうわよ」
全く……この人は、察しがいいんだから。
少しは情緒ってものを気にしてくださいよ。
こっちは今、貴女の背中を見て浸ってるんですから。
「小雛先輩……あり」
そこまで俺が口にしたところで、振り返った小雛先輩が俺に近づいてきて人差し指で俺の唇を塞いだ。
「ストップ! それ以上は言うな。そういうのは、この面倒臭いのが全部終わった後に聞いてあげるから。だから、あんたも全力で生き残ること。いいわね?」
はは、今までの感謝の言葉すら伝えさせてくれないのかよ。
こういうタイミングでもなかったら、お互いに素直になれる時なんかないって言うのに。
本当にこの人は、いつもは簡単に甘えさせてくれる癖に、こういう時は甘えさせてくれないんだよな。
「全部、終わって……それでも、あんたが泣いてどうしてもこの私に感謝したいって言うんなら、全力で私に感謝させてあげる。特別にね」
俺は小雛先輩の言葉に少しだけ頬を緩ませる。
本当にこの人は、地球の危機だって言うのに変わらないな。
小雛先輩は俺の唇から人差し指を離すと、空を見上げる。
「ねぇ、空を見て。今日は珍しく、星が綺麗に見えるわ」
俺は空を見上げる。
雲ひとつない綺麗な夜空だ。
数ヶ月後に、隕石が落ちてくるなんて想像ができないくらい空が澄んでいる。
「小雛先輩……俺、絶対に死にたくないっす」
「当然でしょ。やっと役者として面白くなってきたのに、ここで終わらせてたまるもんですか」
俺は小雛先輩と顔を見合わせると笑い合った。
「ところで、あんたにオファーがあったドラマ。私に教官役が回ってきたんだけど」
「えっ? もしかして俺って、ドラマの中でも小雛先輩に教えられる役なんですか!?」
今からでもオファー断ろうかな。
そんな事を考えていると、小雛先輩にぎろりと睨まれた。
や、やだな〜。冗談ですよ!
って、人の考えてる事を勝手に読まないでくださいよ!!
小雛先輩は俺の反応を見て表情を崩すと、伸ばした手で俺の頭をポンポンと叩いた。
「いーい? あんたにはまだ言わなきゃいけない事が死ぬほどあるんだから、簡単に死ぬんじゃないわよ」
「へーい……」
ワンチャン、小雛先輩ならあの世でも俺にお小言を言ってる気がする。
まぁ、それは三途の川を楓と一緒にバタフライで泳いで競走しようとしたり、閻魔様を口説いたりするであろう俺が悪いんだけどな。
「わかればよし! それじゃあ、まだ冷えるし、さっさとみんなの居る所に戻るわよ」
はいはい、わかってますよ。
俺は小雛先輩の後ろについていく。すると、目の前を歩いていた小雛先輩がピタリと止まった。
小雛先輩……? どうかしましたか?
自分のお腹に手を回した小雛先輩は、少し恥ずかしそうな表情で俺の方へと振り返る。
「ああ、それと、あんたがさっきホワイトデーでくれたこの毛糸の腹巻。ありがとね」
小雛先輩は上着の裾を少しだけたくし上げると、中に穿いている大怪獣ゆかりゴンの腹巻を俺に見せる。
全く、最後の最後にそれを言うなんてずるいでしょ。
「ああ、その余り物の生地で作ったやつね」
「はいはい。わざわざそんな事を言わなくてもわかってるわよ」
俺の照れ隠しの言葉をスマートに流した小雛先輩は再び前を向いて歩き出す。
前を歩く小雛先輩の後ろ姿を見て、俺は、小雛先輩はどういう顔をしているのだろうか? と、思った。
でも、それを想像しながら小雛先輩の後ろを歩くのは悪くない気分だ。
「小雛先輩……人並みですけど、月が綺麗ですね」
「ええ、そうね。でも……この前のあんたはこのお月様より輝いて見えたわよ」
俺は永久に、この人だけには勝てないのかもしれない。
でも、それも悪くないなと思った。
だって、俺がこんなにも甘えられるのは小雛先輩と天我先輩だけなのだから。
「そういう小雛先輩は、この星空より綺麗ですよ」
「あら、あんたにもようやく美的センスってものが備わってきたんじゃない? 当然でしょ。この私は、太陽のまばゆい光すらも喰らう女なんだから!!」
そう言って小雛先輩は、この綺麗な星空が霞むほどの弾けるような笑顔で笑った。
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