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飛び出せ、アイドル達よ!!

 隕石落下の報道から数日が経った。

 ただの一般企業で働く私は、ゆっくりとベッドから上半身を起こすと、携帯にセットしてあるアラームを止める。

 ああ……会社に、仕事に行かなきゃ……。

 私は洗面台に向かうと、鏡に映った自分の顔を見つめる。


「はは……ひどい顔」


 ここ数日、寝たような、寝れなかったような日が続いた。

 私は顔を洗うと化粧水を顔に塗りたくる。


 あと、数ヶ月もしたら隕石が落ちてくるのに、もう働く必要なんてあるのかな?


 私は頭に浮かんできた疑問に首を左右に振る。

 今だってみんなパニックにならずに頑張ってるのに、こんな事を考えちゃダメだ。

 羽生総理もテレビで冷静にって呼びかけていたし、今は苦しくてもいつもと変わらない日々を過ごさないと。


「はぁ……」


 私は小さくないため息をつくと、洗濯機を回してリビングに向かう。

 いつもならリモコンのボタンを押してニュース番組を見るところだけど、ここ数日は隕石の報道ばかりで気が滅入るような放送が多くて見ていない。

 私は手に持ったリモコンを操作せずにそのままテーブルの上に戻すと、キッチンに向かう。


「あー……朝ごはん作るの面倒くさいからパス」


 私はキッチンの前に立たずに、隣にある冷蔵庫を開ける。

 えーと、確かここに買い置きしていたサラダのパックがあったはず……。

 私は冷蔵庫の中を掻き分け、サラダのパックを取り出した。


「あ、やば……これ腐ってるかも」


 そういえば、買い物なんてここしばらく行ってないっけ。

 私はサラダを食べるのを諦めると、残っていたバナナを手に取る。


「今日の朝食はこれでいいや」


 そういえば、私……昨日の朝は何を食べたんだっけ?

 はは、自分でも何を食べたか覚えてないなんてかなりの重症だ。

 でも……どうせ死ぬんだったら、そんなの別にどうだっていいよね。

 私は携帯を手に取ると、お母さんから送られてきたメッセージを開く。


【ちゃんと、ご飯を食べてますか?】


 ああ、お母さんって、どんな時もお母さんなんだな。

 私は少しだけほっこりとした気持ちになる。

 今日は久しぶりに何か食べれるものを買って帰ろう。

 私はバナナを食べ終わると、服を着替えてメイクをして髪をブラシで整える。


「あとは空いてる時間で少し掃除して、洗濯物を干して……っと」


 掃除……は、別にいっか。毎日、綺麗に掃除したって、これから先に意味があるかどうかなんてわからないしね。

 私は洗濯物を干すと、家を出て駅へと向かう。


「うう、まだ朝は寒いなぁ」


 6時20分過ぎに家を出た私は、6時30分過ぎの電車に乗って会社のある最寄り駅に向かう。

 周りを見ると、みんな心なしか元気のない様子で項垂れていた。

 ああ……なんだろう、このかんじ。まるで、あくあ君が出てくる少し前の頃を思い出すようだ。

 私の脳裏に、幸せだったついこの前までの光景が思い浮かぶ。


『ねぇ、昨日のヘブンズソード見た!?』

『見たみた! やっぱり剣崎だよね』

『ねぇねぇ、この前のライブだけどさ〜』

『あ、そのアクスタ。もしかして新作?』

『そういえば、この前、初めてワンダーランドに行ったんだけど……』


 あくあ君や、あくあ君に影響を受けた男の子達の話で、朝の通勤、通学電車の中がすごく盛り上がっていたっけ。そう……ほんの数日まで、友人同士じゃなくてもみんなが共通の話題で顔を見合わせて笑っていたんだよね。

 それなのに、今日はみんな、俯いていたり、ぼんやりとした顔で外を眺めたりしているだけで、電車の中がすごく静かだった。

 ああ……そういえば今日は掲示板を見るのも忘れちゃったな。

 この前までの楽しかった日々が嘘みたいに、虚無が私の心を蝕んで全てを無気力にさせる。


『次は渋谷〜、渋谷。降車の際のお出口は右側になります。渋谷駅でのお乗り換えは東横線、田園都市線、井の頭線、地下鉄銀座線、地下鉄半蔵門線、地下鉄副都心線の6路線です。降車の際には、電車とホームの間が空いているところがありますので、足元には十分に気をつけてください。みんな、朝からお疲れ様。でも、無理をしちゃダメだぞ! 俺との約束な!!』


 あくあ君のアナウンスで私はハッとする。

 そういえば、このアナウンスのおかげで、朝の通勤が毎日楽しかったんだっけ。

 同じようにあくあ君の声で覚醒した人たちが、電車からゾロゾロとホームに降りていく。


「おい、大丈夫か!?」


 男の子の声……? 何かあったのかな?

 私は声がした方へと視線を向ける。

 すると駅のホームでへたり込んだ女の子の体を男の子が必死に抱きしめていた。

 何……? これってどういうシチュエーション?

 私は周囲の話し声に耳を傾ける。


「なんか、あの子、飛び込み自殺しようとしてたらしいよ」

「それに気がついた男の子が咄嗟に抱きついて止めたの」

「びっくりして、一気に目が覚めたわ」


 地べたにへたり込んだ女の子は、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた。

 男の子はそれを見て、どうしようかと悩む素振りを見せる。

 私はゆっくりとその人のところへと駆けつけると、バッグの中から取り出したハンカチを女の子に差し出す。


「涙、これで拭いてください。それと、怪我はない? ちょっとそこのベンチで休もうか。立てるかな? 手、かすよ」


 私は女の子に手を貸すと、彼女の自殺を食い止めた男の子と一緒に駅から出る。

 その理由の一つは、心神喪失状態で自暴自棄になった彼女をこれ以上、周囲の好奇な目に晒されていて欲しくないと思ったからだ。もしかしたら、私が彼女の立場になっていたのかもしれない。そう思うと心が苦しかった。

 そして理由のもう一つは、できるだけ彼女を駅のホームから遠ざけたかったからだ。

 私は女の子を連れて駅の外にある広場の石垣に座らせる。


「おい、水だ。……飲めるか?」


 男の子はぶっきらぼうに自販機で買ってきたペットボトルの水を女の子に手渡す。

 決してあくあ君のようにスマートではないけど、その優しさに私の心が少しだけ温かくなる。


「すみません。私……皆さんにご迷惑をかけて。本当にごめんなさい……!」


 膝の上で握った握り拳を震わせた女の子は、地面に大粒の涙をポロポロとこぼす


「ううん。大丈夫……。貴女も不安よね。私も同じ気持ちだからわかるよ」

「お姉さん……も?」


 ふふっ、やっとこっちを見たわね。

 私は女の子の手に自分の手を重ねると、ゆっくりと首を縦に振る。

 少しでもこの女の子を安心させてあげたい。そう思ったからだ。


「私もね。さっきまで今日……出社する意味あるのかなって思ってたの。貴女も同じでしょ?」


 女の子は私の言葉に首を何度も縦に振る。

 私は女の子から視線を外すと、目の前を行き交う人達の方へと視線を向けた。


「ほら、見て。みんな同じだよ」


 私に釣られて前を向いた女の子がみんなの顔を見る。

 そして、全員が今と未来を不安に思っている事を知った。


「すみません……。私、自分の事ばかりで、お二人にも、ううん、もっとたくさんの人に迷惑をかけようとして」


 私は女の子の体をギュッと抱きしめる。

 自殺をするな。っていうのは、簡単かもしれない。

 でも、誰しもが正常にそれを判断できない状態に陥る時だってあるはずだ。

 だから私は責めたりしないし、この男の子も無言でこの子を見守っている。


「……本当、嫌になっちゃうよね。この前まで、あんなに楽しかったのに、どうしてこうなちゃったんだろう」

「はい……」


 私は女の子から体を離すと、彼女の手を握りしめて、近くにある電光掲示板へと視線を向ける。

 そこには隕石落下について報道するニュース番組が流れていた。

 その時である。一斉にスクランブル交差点に設置された大型ビジョンの映像が見覚えのあるニコニコマークに切り替わった。


 ピピピピピ!


 私の携帯? いや、私だけじゃない。

 隣に居る女の子や男の子、そして目の前を行き交う女の子達が持っている携帯が一斉に鳴り出す。

 私が携帯の画面を開くと、大型ビジョンのモニターに映ったニコニコマークと同じニコニコマークがメッセージと共に映し出されていた。


【この携帯電話はAI3510がジャックしました! 携帯を解放して欲しければ、この映像を見てください!!】


 3510ちゃん!? それってただのランサムウェアじゃない!?

 私の掲示板民としての性が、即座にツッコミを入れる。

 みんなが手に持った携帯に視線を落としたり、目の前にある大型ビジョンへと視線を向けた。

 すると、すぐにニコニコマークが切り替わって、あくあ君の顔が映し出される。


『今、この映像を見ている、みんな。俺の話を聞いてくれ!』


 テレビにテロップが流れる。

 そこには全ての国の配信者と放送局に向かって、この放送をミラーリングするように呼びかけていた。


「ああ……そうだよな。お前はこういう時にこそ、立ち上がるんだ。そういうお前だから、俺みたいなやつだって……」


 男の子はあくあ君の顔を見て、ふっと笑みをこぼす。


『今、みんなはきっと不安だと思う。それでも心を強く持って、普通の日々を過ごして欲しい……なんてお願いするのは、いくらなんでも傲慢すぎるよな。だから俺は、みんなに伝えたいんだ。みんなに知っていてほしい。いつだって俺たちがそばに居る事を』


 大型ビジョンに映し出された映像が切り替わっていく。

 とあちゃん、黛君、それに天我先輩も……。


『今、世界中のえらい人やすごい人、頭のいい人達、いいや、普通の人たちだってみんなが手を取り合って、この星を守るために、どうにかしようと戦っている。だから俺たちも戦うんだ! 自分の心を覆い尽くそうとする闇に負けるな!! 俺たちの戦いはもう始まっている!!』


 あくあ君は手に持ったマイクを強く握りしめる。


『この戦いは君たち1人の戦いじゃない。俺が、俺たちがいる!! もし、立ち止まっている人がいたら声をかけてあげてくれ。へたり込んだ人が居たら、手を差し伸べてあげてほしい。1人じゃ無理でも、2人ならどうにかなるかもしれない。2人じゃダメなら3人、3人でダメなら4人だ! いいか、俺たちは決して1人じゃない!! だから、みんなで戦おう! みんなで明日を掴み取るために!!』


 ああ……ああ、やっぱり、あくあ君はかっこいいな。

 さっきまでハイライトの消えたような目で街を行き交っていた人達の瞳の奥に光が灯っていく。

 あくあ君は手に持ったマイクを振り上げた。


『俺達には歌う事しかできない。だから俺たちは、最後まで歌い続ける!! みんなが明日への希望を掴み取るその瞬間まで!!』


 大型ビジョンと携帯、タブレット、いたるところからモジャさんの叩くドラムの音が聞こえてくる。

 その力強い音に、今まで静まり返っていた私たちの心の鼓動が呼び覚まされていく。


『心の奥底から込み上げてくるこの熱い想いが、明日への一歩を踏み出す勇気になる』


 あくあ君は胸に手を置いて、歌に勇気を込めた。

 そう、最初はあくあ君だったんだよね。あくあ君が、私たちを変えてくれた。


『みんなで手を取り合って、昨日までと変わらない明日を掴み取る事を誓い合おう』


 あくあ君からバトンタッチを受けた黛君は天を見上げて、勇気に希望を込める。

 いつだって、あくあ君の隣には黛君がいた。黛君があくあ君と一緒に歩いてくれたから、BERYLができたんだよ。


『共に明日の朝を迎えるために、我らはこの歌を世界中に届ける』


 黛君から受け取った想いに、天我先輩は強い決意を込める。

 そう、天我先輩はいつだってみんなを引っ張っていってくれるよね。BERYLの頼れる兄貴分として。


『みんな、この星には僕達が居る事を忘れちゃいないよね?』


 天我先輩から受け取った灯火を、とあちゃんが愛で優しく包み込む。

 うん、わかってるよ、とあちゃん。いつだって私達の心にはBERYLが居るって事を。


『悲しみに暮れるのは今日で終わりだ!』

『涙はここに置いていく!!』

『みんなで明日を掴むんだ!』

『心の鼓動を叩き起こせ!!』


 4人のリレー歌唱から4人の声が重なる。


『『『『さぁ、みんなで行こう。俺たちは共に戦う仲間だ。心の熱で暗闇を焼き払え。ほんの少しの勇気で安らぎを取り戻せ。みんなの日常を取り戻すために。今こそ立ち上がるんだ!!』』』』


 熱い……熱すぎるよ。

 でも、これがBERYLなんだ。

 私はテレビの画面を見て自然と涙をこぼす。


「お前、朝の7時から歌うような曲じゃねぇだろ……はは、最高かよ」


 ふふっ。

 私は男の子の言葉に頷く。


『みんなが疲れた時は、僕達の顔を見て』


 とあちゃんはカメラに向かってウインクする。

 はい、かわいい。でも……今日は可愛いだけじゃなくて、すごくかっこいいよ。


『大丈夫、そばに居るから。君は1人じゃない』


 黛君はカメラに向かって優しく微笑む。

 本当に黛君は、どこまで成長して行くんだろう。黛君、あくあ君の隣にいてくれてありがとう。


『恐怖に負けるな。自分の心を強く持て』


 天我先輩は頼り甲斐のある男らしい顔を見せる。

 大丈夫だよ、天我先輩。天我先輩のその熱い想いは後輩にも、私達にもちゃんと伝わってるから。


『さぁ、共に戦おう。心の鼓動を掻き鳴らせ!!』


 あくあ君の熱いシャウトで、さっきまで眠っていた私の心臓の鼓動が力強くはねた。

 どうしてかな。あくあ君の声を聞くと、なんでこんなにも元気になるんだろう?


『『『『全速力で突き抜けろ。共に戦う仲間達よ。その勇気で目の前の闇を切り裂け。俺たちならそれができるだろ? 心に蝕む後ろ向きな自分を、君の中に灯ったこの炎で燃やし尽くせ!!』』』』


 隣に居た女の子は、大型ビジョンをじっと見つめて涙をポロポロとこぼしていた。

 私は手に持ったティッシュでその涙を拭いてあげる。

 ほら、涙はここに置いていかなきゃ。せっかくの美人さんが台無しだよ。


『『『『燃やせ、燃やせ、燃やせ、心臓に血液を送って鼓動を呼び覚ませろ!』』』』


 周りを見ると、全ての人たちが立ち止まっていた。

 あの世界共同宣言を聞いた時のように。

 でも、その時とは確実に違う。なぜなら今のみんなの目の奥が輝いているから。


『『『『明日に向かって共に行こう、みんなと一緒に! 疲れている仲間が居たら肩を貸して。その愛で立ち止まった人の心を包み込もう。みんな一人一人が救世主だ!! さぁ、行こう。明日に向かって!!』』』』


 私は自然と立ち上がっていた。

 ううん、私だけじゃない。

 隣に居た女の子も、周りで座っていた人たちもみんなが立ち上がっていた。


『みんなー! 朝はこれからだよ!!』

『行くぞ、2曲目だ!!』


 えっ? 朝からメドレー!?

 私たちが感傷に浸る間もなく曲が切り替わる。


『呼び覚ませ! 自分の本当の気持ちを』


 あくあ君が手を振り上げると、後ろから山田君や孔雀君達、はじめ君達が出てくる。

 えっ? えっ!? あくあ君やBERYLのみんなだけじゃないの!?

 みんなは顔を見合わせて驚いた顔をする。


『冷え切った心を、熱くさせろ!』


 マイクを握った山田君はカメラに向かって指を差す。

 その山田君の持ったマイクを隣に居た孔雀君が奪う。


『このままでいいのか? 後悔はもういらない』


 まるで自分に言い聞かせるように孔雀君は歌う。

 孔雀君は手に持ったマイクを隣に居たはじめ君に渡した。


『すべてが手遅れになる前に、走り出せ!』


 はじめ君は手に持ったマイクを、隣にいる男性に手渡した。

 え、えっと、この人って羽生総理の秘書官を務めてる玖珂理人さんだよね?


『誰かが泣き叫んでいる声が聞こえていたのに、今までは目を瞑って生きてきた』


 玖珂理人さんは、手に持ったマイクを体格のいい男性へと手渡す。

 あ、森川のお父さんだ! ソムリエのお父さんだ!!


『でも、そんな日とは今日でおさらばだ』


 森川のお父さんは近くにいたおじさんへとマイクを渡す。

 えっと……この人は知らないかな。


『昨日までの自分と、今日からの自分は違う』


 知らないおじさん、ありがとう。

 すごく元気出たよ!!


『がむしゃらに前を向け。言い訳は聞きたくない!』


 石蕗さんだ……。

 はなあたファンの私は、生まれ変わったように輝く石蕗さんに涙を流しそうになる。


『お前の中にある熱いを思いを燃やせ』


 石蕗さんからマイクを受け取った賀茂橋さんは、隣にいた男性にマイクを手渡した。

 あ、この人って確か……えみり様のお父様だよね!?


『お前が見ようとしなかった事から目を逸らすな』


 雪白弾正さん、こんな激渋のおじさんだったっけ?

 なんか、いつもはのほほんとしてる感じなのに、急なギャップで私は風邪をひきそうになった。


『誰かがどこかで人知れず泣いている。その声を聞き逃すなよ』


 マイクを受け取ったノブさんは、いつもの裏声じゃなくて地声でシャウトする。

 う、うまい。裏方なのに、普通にお歌もうまいんですね。


『乾いた空気に呑まれて、自分の心を枯らすくらいなら、お前の熱で全てを燃やし尽くせ』


 ノブさんにマイクを向けられたモジャさんが歌う。

 うん、音楽プロデューサーやってるし、モジャさんが歌上手いのは知ってたよ。


『この熱く燃えたぎった俺の心は、もう誰も止められない』


 モジャさんから投げられたマイクをキャッチした天我先輩がカメラに視線を向ける。

 その瞳にこもった熱の正体が私には何なのかわからないけど、天我先輩が誰よりも熱い事だけは伝わってきた。


『憧れだけは終わらせない。俺の心がそう言っている』


 そうだよね、黛君。

 君はあくあ君に憧れるだけじゃない。あの、あくあ君の隣に立とうとしているんだから!!


『今度は俺がみんなを救う番だ。俺の熱が君の心に熱を灯す』


 とあちゃん、やば……。

 今日だけで本当に君はどれだけの顔を私たちに見せてくれるの?


『俺が本気になれば、きっと世界だって変えられるはずだ!!』


 最後にマイクを受け取ったあくあ君が最後まで歌い切る。

 周りを見ると、研究生の子達や知らない男の子達がたくさん駆けつけていた。

 すごい……すごいよ。こんなことってあるんだ。

 曲はここで最後だけど、もちろんここで終わらない。

 うん、くるよね3曲目が。


『さぁ、行くぞ。みんな、ラストスパートだ!!』


 あくあ君の熱いシャウトにみんなが応える。


『平和な世界が、今まさに侵されようとしている』

『どうして?』


 あくあ君の歌唱にとあちゃんが合いの手を入れる。

 本当にこのコンビは最強で最高だよ。


『世界の危機に、みんなの笑顔が曇る』

『許せない!』


 あくあ君の歌唱に黛君が合いの手を入れる。

 親友同士の2人は目を合わせると力強く頷き合った。


『悲しむみんなのところへ。俺達はどこにでも駆けつける』

『今を走れ!!』


 あくあ君の歌唱に天我先輩が合いの手を入れる。

 やっぱりあくあ君の先輩は天我先輩なんですよ。まぁ、もう1人の先輩も悪くはないけどね。


『『『『この熱き想いを抱えて、みんなの元へ行くぜ、BERYL!! みんなの心の中に希望の光を灯す。俺たちの、この熱い心で!!』』』』


 ああ、本当にBERYLが好きで、あくあ君を推しててよかった。

 4人の声が重なった歌声を聞いた私は嬉しくて涙と笑顔を同時に溢す。


『穏やかな夜が暗闇へと染まっていく』

『心配しないで』


 モジャさんの隣にノブさんが寄り添う。

 この2人の男性が、大人達がいたから、あくあ君やBERYLのみんなが出てきたんだ。

 ありがとう。あくあ君よりも先に、頑張っていた男性達に私は心から感謝する。


『憤る感情が自分の心すらも歪めてしまう』

『君は1人じゃない』


 山田君と孔雀君は顔を見合わせるとニカっと笑い合った。

 君たち2人がアイドルオーディションに出てきた時はびっくりしたよ。

 ありがとう。2人が出てきてくれたから、あくあ君達の後に続こうとする男の子達が増えたんだよ。


『部屋の片隅で怯えるみんなのところへ。俺たちが駆けつける』

『光よりも早く走れ!!』


 はじめ君の肩に知らない男の子達が顔を寄せる。

 みんな、みんな、本当にありがとう。

 あくあ君達だけじゃなくて、他の男の子達が立ち上がってくれた事がすごく嬉しかった。

 そうだよ。男の子達が変わってるんだから、私たちも変わらなきゃ。

 この世界は変わっていくんだ。ここで終わらせてたまるか!!


『『『『心を燃やして立ち上がる時だ。この理不尽に抗うぜ、BERYL!! みんなの平穏と日常を取り戻すために! 今を必死に生きよう。俺たちと一緒に!!』』』』


 あくあ君はマイクをより強く握りしめると、この映像を見ている全ての人に語りかける。


『さぁ、画面の前のみんなも行くぞ!!』


 そう言って、あくあ君は手に持ったマイクを私たちの方へと向けた。

 大型ビジョンはスマホの画面に、歌詞がテロップで表示される。


『『『『『『『『『『この熱き想いを抱えて、みんなの元へ行くぜ、BERYL!! みんなの心の中に希望の光を灯す。俺たちの、この熱い心で!!』』』』』』』』』』


 私は大型ビジョンに向かって叫ぶ。

 ううん、私だけじゃない。テレビを見ていたみんなが声を上げる。

 あくあ君は両手を振り上げると、もっとだと私達の熱量を要求してきた。

 それを見たさっきまで歌えてなかった子達の心に光にが灯る。

 ふふっ、本当に盛り上げ上手なんだから。

 こんなの、全員で歌ったら恥ずかしくもなんともないんだから!!


『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『みんなの心の闇を切り裂く嵐を巻き起こせ、BERYL!! 今こそ俺の熱がみんなに感染する。この星には、俺が! 俺たちがいるんだああああああああああああああああああ!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』


 ああ、なんて気持ちがいいんだろう。

 私の隣にいる女の子も、近くに居た男の子も、老若男女、全ての人たちが今までの鬱屈したものを晴らすように声を枯らして大声で歌った。

 やっぱりBERYLは、あくあ君はすごい。

 だって、君のおかげでこれだけの人たちが元気を、明日への希望を取り戻せたんだよ。


『やべえ、お前ら。テレビ局の屋上をジャックしてたのが偉い人にバレたから、ずらかるぞ!!』

『あくあ、嘘でしょ? これって、無許可だったの!?』


 とあちゃん……私たちもみんな同じ気持ちだよ。

 えっ? 流石にこれが無許可って事はないよね? そういう演出だと思いたい。


『みんな、また、明日会おう!! 俺との約束だぞ!!』


 あくあ君の言葉に私たちは力強く頷く。

 うん、明日、また、会おう。絶対に!!


『あと、なんか苦情があったら小雛先輩のSNSまで!! 責任は小雛先輩が取ってくれるらしいので!!』


 あくあ君のその言葉を残して、モニターの映像がパッと通常の放送に切り替わる。

 あっ、3510ちゃんのランサムウェアに支配された私の携帯も元の画面に戻ってるや。

 って、まって!? 今、気がついたけど、これだけの数の携帯を一瞬でジャックできる鯖ちゃんってやばくない? ……私は数秒だけその事について考えた後に、深く考えるのを止めた。

 捗るも言ってたけど、掲示板民がこまけー事を気にしたらダメだよね。うん。


「おい、見ろよ。小雛ゆかりのSNSが秒で炎上してるぜ」

「いや、あそこはいつも炎上してるから今炎上してるのか、その前から炎上しているのかもわからんから」

「小雛ゆかりのSNSのコメント欄は、誰でも使えるフリーの掲示板って言われてるもんな」

「記念カキコ!」


 えっと……その情報はどうでもいいかな。

 私は近くにいる女の子へと視線を向ける。

 うん、顔にも生気が戻ってるし、さっきよりもかなり元気が出たみたいだ。


「2人とも、本当にすみません。ありがとうございます。あの、よかったら何かお礼させてください」

「別にいいって、私は何もしてないし……」


 私と女の子は近くにいた男の子へと視線を向ける。


「……いいよ。俺は誰かにお礼を言われるような人間じゃねぇんだ。気にするな。これも罪滅ぼしみたいなもんだから」


 そう言って、彼はその場から立ち去ろうとする。

 私は一歩前に踏み出すと、男の子に向かって声をかけた。


「それでも、あなたのおかげでこの子は救われたんだよ。それに、貴方も、さっきテレビに映ってた男の子達と同じくらいかっこよかった」

「……ああ。ありがとな」


 男の子は私たちの方をチラッと見て笑顔を見せると、手を振ってその場を後にする。

 すると彼の行く先に真っ赤なスポーツカーが停まった。


「私が来た! 自殺しかけた少女はどこだ!?」

「……ベルナールのおっさん、それならもう白銀あくあとその愉快な仲間達がどうにかしてくれたよ。ほら、俺たちはもう行こうぜ」


 男の子は赤いスポーツカーの助手席に乗ると、2人でどこかへと去っていった。

 ふふっ、あんな男の子達もいるんだよ。だから、私たちも頑張らなきゃ。

 昨日までと変わらない、ううん、昨日よりも前に進んだ明日を掴むために。

 私は女の子と顔を見合わせると、お互いのお腹の音が鳴る。


「ごめん。実は朝、バナナしか食べてなくて。どう? せっかくだから、一緒に朝食べない?」

「は、はい!」


 やっぱり何をするにも、お腹が空いてちゃダメだよね。

 私は女の子と笑い合うと、2人で近くの牛丼屋さんへと向かった。パワーをつけるために!!

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