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嫌われ者の生贄ですが、愛してくれますか?  作者: トシヲ
常世の章

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優柔不断

 まほろを愛しているがゆえ、何としても龍の姿を見せたくないロウは、さらにロウという存在が龍神であることすらも隠している。

 嘘が壊滅的に下手な神であるが、余計なことを自分から言わねば良いだけであるので、今はなんとかなっている。そんな状況だ。ほとんど、まほろがロウを勘繰ったりせず、根掘り葉掘り問い詰めたりしないためであるのだが。


 愛しのまほろは、ようやく夫に挨拶ができるというので、ずっとそわそわと落ち着かない様子だ。

 もじもじと恥ずかしそうに、最初の日以来着なかった漢服の着方を聞きに来たまほろに、ロウは頭を傾げる。


「その服は、あまり好んでいなかったのではないのか」


 着たければ着せてやるのに、いつも自分で他の物を選んで着ていたので、てっきり好みでないのかと思っていた。

 ロウの言葉にまほろは困ったように眉を寄せる。


「い、いえ……着方がわからず……あ、あの、ロウは、龍神様がどのような女性を好まれるか、ご存じないですか」

「まほろならば何を着ていても、たとえ裸でいても愛さずにはいられないだろうが」

「は、はだか……」


 顔はもちろんのこと、今となってはその細い手指の先まで好んでいるので、外見が全く関係無いとは言い切れないが、それでもまほろであるのならば、例え道具やモノに宿った魂になったとしても、どんな姿でも愛せるという自信がある。


 神というは土に石ころに糞尿まで、生きているか死んでいるか関係なく愛をそそぐものだ。それは人とて同じだろうが。

 ロウにとっても、まほろであるのならば何でも愛おしい。服装などあまり関係ないのだ。

 だが裸というのは余りにも破廉恥であり、もちろん好きだが、失言であったと気が付く。


「ああ、いや……まほろは何ゆえに龍の好みを知りたいのだ?」

「その……龍神様に、少しでも、好いて頂きたくて」


 まほろの言葉に、自分が真剣に考えずに返答してしまったことを悔いる。

 何が裸だ。馬鹿なのか。あまりにも浅はかで愚かすぎる。

 まほろが龍のために着飾りたいという気持ちを表したのだから、自分はそれを全力で手伝うべきだ。


 ずっと着たいものを着れずに、それでも手元にある着物を大切に縫い繕って過ごしていた少女に、好きなものを着る喜びを教えてやらねばならない。

 幸いにも長く自我を持って存在し続けたロウは、男女問わずにあらゆる衣服を知ってる。神力で容易に叶えてやれる。


「まほろ、やはりまずは、好きな色や好きな形、好きな柄を知ることだ。好きな物を着ている時が、もっとも表情が明るくなる。龍の好みはその後だ」

「はいっ! ではもう一度、頂いた御衣を見てみます」


 意気込んで居室に戻って行ったまほろだったが、しばらくするとしょぼしょぼと落ち込んだ顔で戻って来た。

 先程は漢服を持って来ていたが、今回は何も持たずに戻って来てしまった。

 まさか、どれもまほろの好みでなかったのだろうか。まるでまほろを理解しているようなつもりで、何一つわかっておらず、自分の好きな物ばかりを押し付けてしまったのか。

 ただでさえ蒼白い顔をさらに蒼くしていくロウに、まほろは眉をハの字にしたまま、

「あのう」と小さく声を絞り出した。


「決められなくて……見れば見るほど、どれも全部が好きで……どうしたら良いのでしょうか」

「……そうか、全部好きか」


 瞬時に気持ちの切り替わったロウは笑みを浮かべて、困り顔のまほろを眺める。もしも顔を隠す紙が無かったら、彼女に表情を知られて照れくさい気持ちになりそうだ。


 人は不便な生き物で、目でしかものが見えない。だがそういうところも神からすれば弱々しくて可愛い。いいや、まほろだから可愛いと思っているのであろうが。

 ロウも生き物の形で存在をしているため、意識していないと同じように目線が動く。だが面をしても向こう側を見ることができる。

 神はいつも見たいものだけ見ている。怠惰かもしれないが、全てを見ようとすると疲れるのだ。ロウも特に用が無いものは見ない。

 長く存在し続け、まほろがこの力を得ると、そのうちこの傷だらけの顔を見てしまうのだろう。


 ――いや、龍はともかく、傷だけならばまほろは……


 ぼうっと愛しい人に見惚れているロウとは違い、まほろは深刻そうに顔へ影を落としている。


「優柔不断で、面白いお話もできないし……ロウはどうして私と仲良くしてくださるのですか?」

「それはまほろが優しいからだ。お前は俺に手当たりしだいにものを投げぬし、会話をしてくれる。言動全てを好ましく思う。好きだ、まほろ。心配性でいろいろと考え込んでしまうお前も好きだ。お前と二人で話す時間が幸せだ。お前の方こそ、俺のどこを良いと思う?」


 ――まあ、優しく振る舞ったからだろうな。顔はこれだし、猪や鹿を捕まえてやったわけでもなければ、勾玉や金を貢いだわけでもない。いや、最近の人というのは勾玉に興味が無いようだが。


「ロウは私が古い服を着て、納屋で寝泊まりしていても普通に話しかけてくれて、辛い時は一緒にいて慰めてくれて……で、でも、お友達として、です! お友達として……」


 想ってくれるまほろに悲しい思いをさせず、どうにか龍のことは忘れてロウと乳繰り合いながら生きてはくれないかと願うが、恐らく今のままでは今後も龍のことを気にし続けるだろう。

 だからといって龍に恐怖し、嫌いになったとして、ここにいることさえも苦痛になれば意味が無く、またそもそもまほろに怖い思いなどさせたくない。

 名を知った人を眠らせたり、またはそれに近い状態させて質問に答えさせるよう誘導することができても、心まで操ることはできない。記憶を奪うことも、書き換えることもできない。


 ロウは自分の顎を手で支えるようにし、やや上の方を仰ぎ見ながら考えを巡らせる。

 自分が龍神であり、龍の姿は恥ずかしいから見せたくないと言えば、今のままずっと共にいられるだろうか。

 これを言わない限り、いつまでも手を繋ぐこともできないだろう。




 言わねば。そう思いながら、まほろの髪を結ってやる。

 着物は結局ロウが指をさして決めたものだ。まだ一度も着ていなかったものの中から選んだ。


 髪に触る口実ができてしまったので、結った後に言おう。そう言訳を見つけて黙々と髪を編み込んでいき、まほろに付いて来てしまった花を髪に飾る。

 幾度捨てたとて、神など異界の者から一度受け取ったものは大抵追ってくる。龍の神力の影響か、常世へ入ってから元の咲いていた頃の姿に戻っているので、まほろは気付いていないかもしれないが、もしも気付けば、また悲しそうな顔をして捨てようとするかもしれないので、これも黙っておく。


 さあ、自分が龍であると言おう。鏡を見て嬉しそうにしているまほろの肩に手を乗せる。


「まほろ」


 ぽっと色付いている愛らしい頬。自分で結ってやった髪だが、よく似合っていると思う。

 淡い薄藤色の着物はかつての唐の女が着ていたもの、現世をうろつく化け狐が着ていたものを混ぜたようなものだ。

 化け狐は着飾るのが好きで、よく瀟洒な身なりをしている。西洋の透けるほど薄い白い布に、白い糸で草花を刺繍したひらひらと軽い部品はまほろによく似合う。


「綺麗だな、まほろ。翡翠も恥じらい、赤くなりそうだ」

「ロウが頑張ってくれたからです……龍神様も、その、少し……ほんの少しでも、私のことをお気に召してくださるでしょうか」

「当然だ」


 えへへ、と照れて笑うまほろに、ロウも釣られたようににっこりと笑う。


「ようやく、龍神様にお会いできるのですね」


 綺羅星の瞬く夜空のような瞳。


 ――言えぬ……会えぬとは……いや、もう会っているといえば会っているのだが……。


 夫、それも自分に愛されたいという、なんとも健気で可愛らしい願いを叶えぬわけにもいかない。これほど叶えてやりたい願いを叶えぬなど、無理な話だ。

 一体どうしたらまほろと睦み合い、べたべたと触り合えるようになるのだろう。これでは蜜月がすぎてしまう。

 焦りながらも、ロウはまほろを連れて歩き出す。いつも言葉数のすくない方であるまほろが、相当に嬉しい様子で前向きな期待の言葉を口にしている。


「龍神様に良き妻と思って頂けるよう、頑張りますね。ロウのおかげで、見てくれだけですが、少しだけ自信と勇気がつきました」


 ロウは愛おしさと不安と複雑に雑ざりあう感情に、ただ頷いたものの、何と返事をすべきかわからなかった。

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