最終話
「ラルフ。やっぱりラルフは神様だったのね」
リリアはラルフの背中の傷痕に触れながら言った。
「違う……。
俺は今まで神の掟を破り、多くの人間を不幸にしてきた。
俺は神にふさわしくなかったから両翼をもがれ、悪魔の世界に落とされた」
「それでも今の私には、ラルフが神なのか悪魔なのかなんて関係無い」
「リリア……。俺はリリアが怖い。
いつかリリアを自分の手で汚してしまいそうで……。
今の俺には、リリアが悪魔を罰しに来た神にしか見えない」
リリアはしばらく黙ったまま、暖炉の炎に浮かび上がるラルフの背中を見ていたが、後ろからそっとラルフ抱き締めた。
「ラルフ。もし私が神様に見えるのなら、私がラルフの願い事を叶えてあげる。
ラルフの願い事は何?
ラルフの目の前から消えて欲しいのなら、私は……」
ラルフは振り向き、リリアをベッドの上にそっと押し倒した。
リリアの目の前にいるラルフから雫のように流れ落ちる涙が、リリアの頬を濡らしていった。
「リリア。お前にはずっと幸せでいて欲しい。
アスランが言っていた。
人間は、泣いたり笑ったり悩んだり苦しみながら生きていくのが幸せだと。
俺はリリアの側で、そんなリリアの姿をずっと見ていたい」
「ラルフ。私は今、幸せよ。
ラルフやハイド、ビンセントの事を思って、泣いたり笑ったり悩んだりしているわ。
今度はラルフの願いを叶えるために、ずっとラルフの傍にいたい」
「フッ……」
ラルフはリリアの頬に落とした自分の涙を手で拭いながら微笑んだ。
それから……。
ラルフはリリアと一緒に、自分が落とされ、自分の手で作り上げてきた世界を旅した。
旅先では、ラルフがこの世界へ連れて来た元人間達、一人一人と向き合った。
もう一度人間に戻って『永遠の命』を手放したい者、懐かしい故郷で人生をやり直したい者は、人間として元の世界へ戻してやった。
過去に戻ることは出来ないので、既に故郷が消滅している者、知人全てが他界している者が殆どだったが、それでも限りある時間の中で新しくやり直したいと言う者には、希望通り、人間の世界へ戻してやった。
もちろん悪魔として永遠に生きていきたい者は、この世界で今まで通り生きていく。
数年後、ラルフとリリアはハイドやビンセントの待つ屋敷へ戻った。
「リリア、おかえり! お前、随分大きくなったな……」
屋敷に戻ったリリアを、首を長くして待っていたハイドが抱き上げた。
「ただいま、ハイド。ハイドは全く変わらないね」
リリアが笑う。
「終わったのか?」
ハイドの後ろにいたビンセントがラルフに言った。
「ああ。終わった。
……後はハイドとビンセント。お前達だけだ」
ラルフが静かに返事をした。
「当然、俺はこの世界に残る。
残って、リリアと一緒にいる! ……な? リリア」
ハイドが更に強くリリアを抱き締めた。
「痛いよ。ハイド」
「ごめん。
でも、リリアがいない間、ずっと退屈だったんだからな!」
「ビンセント。お前はどうする?」
ラルフの問いにビンセントはフッと笑い、
「今更、新しい人生を始めるのは面倒だ。俺もこの世界に残る」
と、答えた。
「リリア。早く悪魔になって、永遠にこの姿でいてくれ。
これ以上お前が成長したら、俺の方が年下になってしまうじゃないか」
「……そうね。それも良いかもね。
ハイドのお姉さんになるのも悪くないかも」
リリアはクスクスと笑った。
その後……。
リリアはラルフとの間に子どもを産んだ。
驚いたことに、子どもの背中には小さな白い羽根が生えていた。
「やはりリリアは神だったのか?」
「違うわ。きっと神様たちがラルフを許してくれたのよ」
それから先の事は分からない。
リリアは 永遠の若さと命を手に入れたのか。
リリア達はずっと幸せに暮らしているのか。
生まれたばかりの背中に白い羽根を持つ子が、この先どんな人生を歩んでいくのか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




