第八十一話(アスラン)
リリアが生まれた日の朝、アスランとリリアの兄は王妃に呼ばれ、王妃の部屋へ向かった。
王妃はベッドに寝たまま、隣に眠るリリアをアスランとリリアの兄に見せた。
「可愛いでしょう。妹のリリアよ。
リリアは女の子だから、いつかこの国を離れ、他の国へ嫁いで行ってしまうけれど、それまでは二人がリリア守ってあげて」
アスランもリリアの兄も、その時はまだ五歳だったが、生まれたばかりのリリアの小ささに驚き、リリアをいとおしく思った。
数日後、もともと体の弱かった王妃の容態が悪化し、間もなく王妃は亡くなった。
葬儀の日は、雨が降っていた。
悲しみに打ちひしがれる王の涙のように。
それからこの国に雨は降らなくなった。
城の中で、ただ悲しみに暮れる日々を送る王に対する国民の不満が募っていくのが、幼い二人にも感じられた。
「アスラン。
僕は母上と、リリアが結婚するまで守り続けると約束をした。
だけど僕はまだ、一人でリリアを守る力がない。
だから一緒にリリアを守ってくれないか?」
「当たり前だ。
僕もリリアの事を大事な妹だと思っている。
僕たちがリリアを守っていこう」
リリアの兄もアスランも、国を治めるための勉強や武術の練習に励んだ。
そんな二人の姿を見た王は再び気力を戻し、希望を抱いた。
リリアの兄やアスランに王としての教えを説き、二人を可愛がった。
しかし、赤ん坊のリリアの事は抱くことも、見ることすらないまま時は過ぎていった。
リリアは兄やアスランの後を追うようになった。
アスラン達が勉強をしている間は隣の席に座って本を読み、武術を習っている時は、近くでじっと見ていた。
「邪魔をするな! 向こうへ行っていろ」
王に怒鳴られると、リリアは逃げるように自分の部屋へ戻った。
リリアの兄とアスランは勉強を終えると真っ先にリリアの部屋へリリアの様子を見に行った。
リリアの兄は、ベッドの上で泣き疲れて眠っている小さなリリアの頭を撫でながら、
「僕は弱いな……。
父上に逆らえたら、リリアを泣かさずに済むのに。
それに比べてリリアは強いよ。
こんなに小さいのに決して人前で涙を見せない」
と、いつも溜め息まじりに言っていた。
数年後、そんなリリアの兄にも病が襲いかかり、王は失意に落とされた。
「アスラン、済まない。
僕はリリアが大きくなるまでリリアの事を守ってやれそうにない」
「何を言っている。一緒に守ると約束しただろう」
「……ああ。そうだな。
でも、もし僕が死んでしまったら、リリアの事を頼む」
「馬鹿な事を言うな。
お前が死んだら、リリアが不幸になるのは分かっているだろう?」
「お願いだ。約束を……」
「ああ。約束だ。リリアは必ず俺が守る。
だからお前も早く病気を治して、リリアが幸せになる姿を見ろ」
「ああ……」
リリアの兄が安心したように大きく深呼吸をして目を閉じると、アスランは部屋から出て裏庭で泣いた。
「くそぅ! 俺一人の力でリリアを……、この国を……!
どうやって守れば良いんだ! どうすればリリアを幸せにできる!」
アスランの背中に、目に見えない大きなものがのし掛かってくる。
「ああッ!」
アスランは乾ききった地面を殴り、大声で叫んだ。




