第七十九話(ラルフ)
ビンセントはラルフがこの世界に人間の少女を連れて来ることに強く反対した。
ラルフは、何故ビンセントが反対するのか分からなかった。
ラルフはこの世界に新しい悪魔を連れて来るたび、ラルフの主催で夜会を開いた。
人間だった頃、同じ境遇にいた物たちが多く、悪魔達はすぐに仲良くなった。
ハイドも少女を気に入り、夜会の準備で忙しいラルフの代わりに少女の相手をしている。
夜会で少女を紹介すれば、皆少女を受け入れてくれるだろう。
それでもビンセントは少女が夜会へ参加することも反対した。
結果はビンセントが言った通り、少女を可哀想な目に合わせてしまった。
何故、全てを手に入れた悪魔が、何も持たない人間に嫉妬するのか。
ラルフには理解できなかった。
ラルフはしばらくの間、少女を屋敷の外へ出さないようにした。
それは、王やアスランがしてきた事と変わらなかった。
少女を幸せにしてやるつもりが、結局自分のせいで少女を不幸にしてしまう。
ローザも少女に嫉妬をし、少女を殺そうとした。
そしてローザは折角手に入れた永遠の若さと命を捨てた。
少女は、全て自分のせいだと言った。
自分がこの世界にいる事で、ラルフにまで災いを運んで来ると。
『違う……。災いを運んでいるのは俺だ。
俺は人間に一瞬の幸福感しか与えられない。
人間は自分の力で困難を乗り越えない限り、永遠に幸せを感じる事はない』
ラルフは少女を目の前にして初めて気が付いた。
自分が愚かな事をし続けていた事を。
目の前にいる少女を本当に愛しく思っている事を。
冬になった。
ラルフと少女が木の下で本を読みながらくつろいでいると、少女が澄んだ空を見上げた。
「ラルフ、天使の羽が落ちてきた」
「これは雪の結晶だ」
ラルフはこの雪が嫌いだった。
自分の背中に生えていた、もがれてしまった両翼を思い出す。
ラルフの羽をむしり取り、天からこの世界へ落としているようだ。
ビンセントも雪を見ると人間だった頃の嫌な過去を思い出してしまうのだろう。
ラルフもビンセントも、この雪が降る限り、永遠に過去を忘れることが出来ない。
「ラルフ、まるで天使みたい」
少女がラルフの横顔を見つめ、微笑みながら言った。
ラルフは天使などではない。
罪を犯し、翼をもがれ、この世界に落とされた悪魔だ。
「俺には、よっぽどお前の方が天使に見える」
ラルフは耳まで真っ赤になった少女を見て、静かに笑った。
ラルフは少女の笑顔にいつも救われていた。
ラルフは一度、少女と一緒に人間の世界へ行こうと提案した。
少女を屋敷の中に閉じ込めておくばかりの自分に対し、少女の態度に変化が表れたような気がして不安になったからだ。
少女は返事をしなかったが、その態度で一緒に行きたいと思っていないことが分かった。
今は少し距離を置いた方が良いのかも知れない。
ラルフは一人、人間の世界へ旅立った。




