第七十七話(ラルフ)
ラルフが救った赤ん坊はすくすく育ち、やがて殺戮者となった。
何千、何万もの命を奪い、人々を恐怖に陥れた。
「何故だ……」
ラルフは助けてやるべき人間を助けたつもりだった。
結果、大勢の罪なき人間が犠牲になった。
この事は神の世界にも知れ渡り、ラルフは罪人として追放されることになった。
白く大きな両翼をもがれ、異世界へと落とされた。
ラルフが落とされた世界は果てしなく広く、ラルフ以外誰もいなかった。
ラルフはその世界でただ一人、永遠に生き続けなければならなかった。
何百年も何千年も……。
ただ一人、老いることも死ぬこともなく、罪だけを背負って永遠に生きていかなければならない。
ラルフは納得がいかなかった。
神は全ての人間を救えない。
ならば神を信じている者、善人を先に救えば良いのに。
悪人を優先して善人を見捨てているようにしか思えなかった。
それで本当に平等と言えるのだろうか。
両翼がもがれたラルフは、術を使う能力だけは残されていた。
ラルフは思った。
今いるこの世界を自分が思う理想郷にすれば良いと。
神が見捨てた人間達は自分が救えば良いと。
その日からラルフは自らを『悪魔』と称し、人間の願いを叶えるようになった。
ラルフは人間界へ行き、次々と人間の願いを叶えていった。
金が欲しい、病を治して欲しい、愛が欲しい、才能が欲しい、長く生きたい、美しくなりたい……。
人間の願いはさまざまで、どれも自分の欲望を満たすためだけのものだった。
ラルフの仕事は尽きることがなかった。
ラルフは願いを叶えてやった人間達のその後を全て見届けた。
人間達は、願いが叶えばまた新たな願いが生まれ、欲深くなっていく。
善人だと思っていた者が、悪人へと身を落とす。
結局最後は叶えられた願いに満足できず、より不幸になっていった。
「何故だ……。俺が間違っているのか?」
ラルフは自分が落とされた世界に、神を憎み、人間でいることに疲れた者達を連れてきた。
悪魔は次々と増えていき、ラルフの世界は次第に賑やかになっていったが、ラルフの孤独は癒えなかった。
人の心は複雑で理解し難い。
飢えや病の心配もなく争いもないこの世界で永遠の命を与えても、ある者はそれを『罰』だと言い、ある者は人間だった頃の悪夢を見続ける。
誰も未来に向かって新しい人生をやり直さない。
「何故だ……。願いなど、叶わない方が幸せに生きられるのか?」
ラルフは自分が関わった者、全てが不幸になっていくのを見て、自分が悪魔であることを改めて思い知った。




