第七十六話(ラルフ)
ラルフは神の世界にいた。
神の子として、毎日仕事が与えられた。
ラルフは、死に行く人間達の魂を死後の世界へ連れていく、人間の世界で『死神』と呼ばれる仕事をしていた。
連れていく人間は毎日抽選で決まる。
ラルフは、そのリストを頼りに仕事をこなした。
ラルフの背中には大きな白い翼が生えていた。
ラルフの姿は、死の淵にいる人間にだけ見えたが、ラルフの姿を見たものは皆『天国からの迎えが来た』と幸せそうな顔をした。
ラルフはこの仕事に不満を持っていた。
神は人間の願いを叶えるのも、人間を生かすも殺すも、全て抽選で決めていた。
悪人の願いを叶えたり、善人の命を奪ったり、全て決められた通りにしか動けない。
何故、悪人を救い、善人の命を奪わなければならないのか。
何故、目の前で救いを求める人間を見過ごさなければならないのか……。
毎日自分の心と葛藤しながら仕事をしていた。
ある日、戦場で生まれたばかりの子どもの魂がリストに載っていた。
ラルフが戦場へ向かうと、今にも命の炎が消えそうになっている赤ん坊を抱いた母親が泣き叫んでいた。
「神様、この子を……。どうかこの子の命を救って下さい!」
ラルフは拳を握りしめた。
この世に生まれたばかりなのに、なぜ命を奪わなければならないのか。
母親の悲痛な叫びがラルフの胸に突き刺さる。
そこへ、敵の弾を受け瀕死状態の兵士がラルフの足下まで這ってきた。
「貴方は神か?
俺は何百もの命を奪ってきたが、天国へ行けるのか?」
「お前は、俺の姿が見えるのか?」
「ああ……、見える。美しい姿だ。
お願いだ。先に天国へ行ってしまった妻に会いたい。
私も天国へ連れて行ってくれ……」
息も絶え絶えの兵士が、ラルフの足を掴もうとした。
おかしい。この男はリストに載っていない。
しかしこの男は今まで何百人もの命を奪っていて、生まれたばかりの赤ん坊は何も悪いことをしていない。
この男は、持って二、三日の命だろう。
ならば、目の前の赤ん坊に与えた方が良い。
ラルフは、こっそりリストに載っている名前を変え、赤ん坊の代わりに兵士の魂を連れて帰った。




