表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねがいごと  作者: 流星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/83

第七十二話

 リリアとビンセントは、古びた小屋へ向かった。


 近くで見ると木と土で出来た壁はボロボロで、虫に食われたのか所々に穴が開き、今にも崩れてしまいそうだった。

 窓ガラスも全て割れ、部屋の中に散乱していた。


「まだ形は残っていたか……」


 ビンセントはそう言いながら小屋の中に入り、何かを探し始めた。


「あ……。人の家にあるものを勝手に……」


 リリアが言いかけた時、


「ここは、俺が昔住んでいた家だ。心配するな」


と、ビンセントが言った。


 ビンセントはホコリまみれの小さな椅子を出してきて、その辺りにあった布でホコリを払い、リリアを椅子に座らせた。

 ビンセントはリリアの前で膝まずき、リリアの靴を脱がした。


 リリアの足は、慣れない道をずっと歩いていたせいか、小指から血が滲んでいた。


 ビンセントは、先程採った緑色の葉を小さくちぎって、葉から出てきた汁をリリアの足に塗った。


「どうだ? しみるか?」


 リリアは首を横に振った。


「あと少しで、馬車が通る場所に着く。もう少し我慢してくれ」


「……うん」


 ビンセントはリリアの足に靴を履かせると、また何かを探し始めた。


 リリアはその間、椅子に座ったまま部屋の中を見回した。


 今、目の前にいるビンセントが、こんなにも小さな小屋で生活をしていたなんて、リリアには想像ができなかった。

この部屋で、セシルと一緒に暮らしていたのだろうか。

リリアは日記の内容を思い出していた。


「ここにあった」


ビンセントは大きなシャベルを見つけ、リリアと一緒に小屋を出た。

ビンセントが向かう先は、なだらかな斜面が続いている。

ビンセントはリリアの足を気にしてか、リリアの手を握り、リリアの歩幅に合わせて歩いた。


「リリア、疲れたり足が痛かったら、すぐ言え」


「ん? 」


「背負ってやるから」


「あ。大丈夫。……ありがとう」


リリアの口から自然に「ありがとう」の言葉が出てきた。

ビンセントは、リリアの顔を見て笑った。

二人は手を繋ぎ、斜面を登って行った。


「ビンセント、馬車が! 私たちが乗っていた馬車が見えた」


「ああ。俺たちより早く到着したようだな」


ハイドは馬車から降り、リリアとビンセントを見下ろしながら何かを言っているようだ。

ラルフも馬車から降りて、二人の様子を黙って見ていた。


「随分遅かったじゃないか」


リリアとビンセントが馬車を停めている場所へ到着すると、真っ先にハイドが言った。


「ああ。懐かしくてな」


「へぇ……。俺の思い出の場所は、跡形もなく消えていたけれど、ビンセントの思い出の場所は、まだ残っていたのか」


「ああ。人が住むような場所ではないからだろう」


「ビンセント、この辺りだ」


ラルフが指をさした方を見ると、土が少しだけ盛り上がっている所があった。

ビンセントは早速、小屋から持ってきた大きなシャベルを掴んで、地面を掘り始めた。


「何か宝でも埋まっているのか? 」


ハイドの言葉に、


「さあな。既に誰かが掘り起こして、もう無くなっているかもしれないが」


と、ビンセントが手を動かしながら答えた。

日が暮れていき、空がオレンジ色になったが、ビンセントは手を休めることもなく、掘り続けた。


「リリア、寒くなるから、馬車に乗っていろ」


ラルフが言ったが、リリアは首を横に振った。


「……見付けた」


ビンセントはシャベルを置き、自分が掘った穴の前に膝を付いて、穴の中にあったものを両手でそっと取り出した。


「……骨か? 」


穴の中を覗いたハイドが聞いた。


「……ああ。人間だった頃、一緒に住んでいた奴の骨だ。こんな場所にずっと閉じ込めたままで悪かったな」


骨は脆く、ビンセントの手のひらの上で、あっという間に崩れて白い砂のようになった。

ビンセントは立ち上がり、手のひらの白い砂を優しく吹き飛ばした。

ビンセントの手の中の白い砂はサラサラと、オレンジ色の空に舞い上がり、やがて二羽の白い鳥になって、遠くの空へ消えていった。


「二羽ってことは、二人死んだのか? 」


「……ああ。多分、そういう事だ」


ビンセントは静かに笑って、掘った穴を埋め直し、大きなシャベルをその上に突き刺した。

夕日も落ちて、夜空の星が輝き出すと、ビンセントは突然リリアを抱き上げ、崖を滑り降りた。


「きゃ……! 」


リリアはビンセントに掴まり、目をぎゅっと閉じた。


「あの辺りを見てみろ」


リリアがそっと目を開けると、蒼白い光が点いたり消えたり、ゆらゆらと飛んだりしていた。


「……蛍? 」


「ああ」


「綺麗ね」


リリアが、ビンセントに微笑みながら言った。

何故か、その姿がセシルに重なった。


「……ああ。綺麗だ」


ビンセントは、今まで見せたことのない優しい笑顔で答えた。

リリアは黙って俯いた。


「ラルフが心配する。そろそろ戻ろう」


ビンセントはそう言って、またリリアを抱き上げ、崖を掛け上がった。

馬車は星空の中を走った。

リリアは、自分の心臓の音が、馬車の音で掻き消されることを願った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ