第六十九話
リリア達はハイドの生まれ育った町で一泊することになった。
慰霊祭は夜まで続き、宿の窓から花火が見えた。
あれからハイドはずっと黙り込んで部屋で酒を飲んでいる。
「ハイド。今ここにいる人間達は、過去の過ちを繰り返さないよう、生きている。
お前達がやってきた事、全てが無駄だった訳では無いだろう」
ビンセントもハイドの酒に付き合った。
「ああ。分かっている。
だけどあの頃、俺たちは、自分で何をしているか、何の為にやっているのか、分からないまま戦っていたんだ」
花火が上がるたび、大きな音が鳴り響く。
そのたびにハイドは、爆音の中にいた自分を思い出した。
リリアはラルフと寝室の窓から花火を見ていた。
「綺麗ね……」
リリアは返事をしないラルフの横顔を、そっと見た。
ラルフの顔は花火が上がるたびに、赤や青や緑色に染まって、相変わらず美しいけれど、何処か寂しげに見えた。
「ラルフ?」
「ん?」
リリアの方を見たラルフは、いつもと変わらない優しい微笑みを浮かべていて、リリアは少しほっとした。
「どうした? リリア」
「……何でもない」
「リリア、そろそろベッドに入ろう。また風邪をひいたら大変だ」
「……うん」
ラルフはカーテンを引き、リリアをベッドに連れて行った。
リリアがベッドに入ると、ラルフはベッドの側に小さな椅子を持ってきて、そこに腰をかけた。
花火の音がするたび、カーテンの色が変わる。
「ラルフ、花火を見るのは、初めて?」
「いや。……何故そう思う?」
「ううん。何となく、そんな気がしたから」
ラルフが静かに笑った。
「私は初めて見たわ。
私の国では、お祝いのたびに花火を上げていたそうだけど、私が生まれた時が最後だったって……」
ラルフはリリアの頭をそっと撫でた。
「リリア。過去は変えられない。
死んだ者を生き返らすことも、過去をやり直すことも……。
悪魔も人間も、未来に向かって生きていくんだ」
「……うん。分かっているよ」
「……そうか。良かった」
ラルフがまた静かに笑った。
その笑顔が、やはりリリアの目には寂しそうに映ったが、
「ああ……。今夜はリリアが眠った後に、朝までハイドの酒に付き合わされるんだろうな」
と、背中を反らすラルフの姿を見て、リリアは笑って、
「おやすみなさい。ラルフ」
と、言った。




