表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねがいごと  作者: 流星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/83

第五十九話

 リリアはアスランに別れを告げた。


 もう二度と王やアスラン達に会うことはない。

 城の前でアスランとマイカ、ドニーがリリア達を見送った。


「ドニー。私の部屋にある本を全部ドニーにあげる」


「え、いいの?

 でも、あの部屋には入ったら駄目だって……」


 ドニーはマイカの顔を見上げた。


「いいの。あの部屋はドニーの好きなように使って」


「お嬢様、止めてください。

 あの部屋は、お嬢様が帰って来るまでずっとあのままにしておきますから……」


 マイカは顔を真っ赤にし、眉間に皺を寄せた。


「マイカ。十年も待たせてしまってごめんなさい。

 私はこの場所に二度と戻って来ないわ。

 だからマイカ。後悔しない人生を送って」


 リリアがマイカを抱き締めると、マイカは声をあげて泣いた。

 リリアはマイカが声をあげて泣く姿を初めて見た。


 マイカはどんなに悲しいことがあっても、人前で涙を見せる事はなかった。

 リリアは、そんなマイカが一人静かに涙を流す姿を見るたび、胸が締め付けられていた。


「マイカに会えて良かった。さようなら、マイカ」


 リリア達は馬車に乗り込み、城を後にした。


 リリアは馬車の窓から外の景色を見ていた。

 馬車の中で、ビンセントは城で見つけた厚い本を読み、ハイドは鼻歌を歌い、ラルフはリリアの隣で腕組みをしていた。


「馬車に乗って何処へ行くの?」


「リリアの体は人間のままだ。

 異世界へ移動するたびに気を失っていると、体への負担が大きいだろう。

 今回は、折角来た人間界でゆっくり旅をしよう」


 ラルフが言うと、ハイドが鼻歌を止め、


「それに俺達は、悪魔になってから一度もこの世界を訪れていない。

 まぁ、観光してみるのも悪くないな」


と、言った。


「そうね」


 リリアは少しわくわくしていた。

 四人で旅が出来るなんて、思ってもみなかった。


 ビンセントも、いつもの「俺は遠慮する」を言わないので、きっと一緒に旅をしてくれるのだろう。


「リリア……。本当にこれで良かったのか?」


 ラルフは腕組みをしたまま、リリアを見て言った。


「ん?」


「人間の世界に戻らないと言ってしまって良かったのか?」


「うん」


 窓の外を見ていたリリアがラルフの方へ顔を向けた。


「アスランはずっと待ち続ける人だから、ちゃんと『さようなら』を言っておきたかった。

 戻って来るか来ないか分からない人をずっと待ち続けるより、絶対戻って来ない事を知った方が、アスランの選択肢が増えるでしょ?」


「ああ」


「……でも。

 父様にだけは『さようなら』が言えなかった。

 弱々しい父様の姿を見て、二度と戻らないなんて言えなかった。

 父様の悲しむ顔を見たくなかったの……」


 リリアは自分の手を見て、王の手を握った時の事を思い出した。


「父様の命は恐らく長くは無いわ。

 父様が息を引き取るまで見守ってあげたかったけれど……。

 だけど……」


「リリア、これで良いんだ。

 リリアが別れを告げに来た事ぐらい、王も知っている。

 亡くなる前にリリアに会えたことを、王も喜んでいるだろう」


 ラルフはリリアの体を包んだ。


「……そうね」


 人間の心の中は、本人に直接聞いてみなければ分からない。

 たとえ聞けたとしても、本当の事を言ってくれるかどうかは分からない。


 それでもリリアは、自分の気持ちは正直に伝えたかった。


 窓の外で聖堂の鐘が鳴り響いた。

 死者を知らせる鐘の音だ。

 鐘の音はカラーンカラーンと寂しそうに鳴っていたが、次第に小さくなっていき、馬車の音に掻き消された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ