第五十三話
ビンセントは黙って手紙を読んだ後、バラバラになった日記と共に手紙を暖炉の炎の中に放り込んだ。
「あ……!」
「これで良い」
慌てて立ち上がったリリアをビンセントが制止した。
暖炉の炎はメラメラと日記と手紙を包み込み、やがて全てを灰にしてしまった。
その様子を静かに見ていたビンセントは、穏やかな顔をしていた。
「リリア。
お前の言う通り、人の心の中は本人に直接聞いてみなければ分からないものだな」
燃え上がる炎を見ながらビンセントが呟いた。
リリアは黙って、もう一度ソファーに座った。
「ビンセント……。
手紙を燃やしてしまって本当に良かったの?」
「ああ。
本当の気持ちを伝えられなかった、臆病者の思い出など必要ない」
ビンセントは、自分の事を言ったつもりだった。
「臆病なんかじゃないよ。
大人になればなるほど、相手を想えば想うほど、言いたいことが言えなくなってしまうって、アスランが言っていたわ」
「フッ……。確かにそうだな。
だが、自分の気持ちを相手に伝えられなかったことをずっと後悔する位なら、言った方が良いだろう。
そんな事を言っても今さら遅いが……」
ビンセントは静かに笑いながら立ち上がった。
「リリア……。俺はお前の事を嫌いではない」
ビンセントがリリアの頬を優しく撫でた。
ビンセントにとって、最高の誉め言葉なのだろう。
「リリア。お茶を入れてやろう。
廊下で待っているあの寒がりも、この部屋に入れてやれ」
リリアは頷いて、部屋の外で待っていたハイドを呼んだ。
「リリア! ビンセントに何もされてないか?」
ハイドは部屋に入ると真っ先にリリアの体をチェックした。
「何もないよ」
リリアが笑顔で答えると、ハイドはほっとして暖炉の前でビンセントが淹れた熱いお茶を飲んだ。
「あー。生き返る!」
リリアとビンセントは、窓辺で雪を見ながらお茶を飲んだ。
「雪がこんなに優しく降るのは初めてだ」
ビンセントが窓の外に手を伸ばすと、羽の形をした雪がビンセントの手のひらの上に優しく落ち、やがて溶けて消えていった。
セシルはビンセントに引き止めて欲しかったのだろうか。
一緒に死にたかったのだろうか。
結局、セシルにあの頃の気持ちを聞くことは出来ないが、ビンセントは心が少しだけ軽くなった気がした。




