第四十八話(ビンセント)
ラルフはビンセントを元の美しい顔に戻した。
「今さら顔の美醜など、俺はどうでも良いが」
「自分の顔を見る度、死んだ女を思い出すのも面倒だろう」
「……そうだな」
「ビンセント、あれから女がどうなったか知りたいか?」
「興味がない」
「狼に食われた花嫁は縁起が悪いと、山奥で狼の死骸と一緒の穴に埋められた」
「死んでも俺から離れることが出来なくて、セシルも死後の世界で、さぞ悔しがっているだろうな」
ビンセントは表情も変えずに笑った。
冬が来て、ビンセントはこの世界にも雪が降る事を知った。
この世界の雪は白い羽のような形をしていて、まるでビンセントが描いたセシルの背中の翼が一枚一枚抜け落ちているように思えた。
雪が降るたびビンセントは、血だまりの中で真っ赤に染まったセシルの姿を思い出し、獣へと姿を変えた。
顔さえ変わらなければ、セシルはずっと自分の傍にいただろうか。
セシルは自分の事をどう思っていたのだろうか。
知りたい事は沢山あったが、二度と聞くことは出来ない。
ビンセントは永遠に消えることのないセシルを背負って生き続けなければならなかった。
ビンセントは、何故自分がこの世界に連れて来られたのか、疑問に思っていた。
後から来たハイドは何百もの人間を殺しているのに、反省も後悔もすることもなく、この世界を満喫している。
ビンセントも冬以外はセシルの事を忘れ、大きな屋敷で金や食料、寒さや病気の心配をすることもなく、毎日ゆったりと本を読みふけった。
ビンセントは一度だけ、悪魔たちの間で毎晩開かれる夜会に無理矢理参加させられた。
女たちは皆、きらびやかなドレスと装飾に身を包み、恋愛の話で盛り上がっている。
好みの男を見つけると、女たちは自分のものにしようと、こぞって男に声をかけていく。
ビンセントも女たちに取り囲まれ、うんざりした。
見た目で判断をして近づいて来る女たちが愚かにしか見えなかった。
ビンセントは夜会を途中で抜け、二度と参加するつもりはなかった。
春夏秋は書物を読んで過ごし、冬はセシルを思い出して嘆く……。
そんな毎日を何十年も繰り返し、これから先もそれが永遠に続く。
ビンセントはラルフに聞いた。
「これは俺に与えた罰なのか?」
ラルフは笑った。
「別に。女の事など忘れて、この世界を楽しめば良い。
ハイドは楽しんでいるだろう?」
「ハイドと一緒にするな。俺は二度と相手を信用しない」
ラルフがまた笑った。
「面白い。
悪魔の中で確実に『永遠』と言えるのは、時間と命だけだ。
心も『永遠』でいられるのなら、俺はそれを見てみたい」
ビンセントはハイドが何を考えているのか分からなかったが、自分以外の者は『永遠』に信用出来ないと思った。




