第四十七話(ビンセント)
セシルは今の生活にうんざりしていた。
若くて美しいセシルは、街へ花を売りに行けば、あっという間に完売し、お酒や食事をご馳走するという男達が寄ってくる。
セシルは売った花の代金を、食料ではなく、自分のために使いたかった。
森の奥に、醜い姿をしたビンセントが待っている。
ビンセントの姿では花も薬草も売れないし、たまに調達していた仕事にも就けないだろう。
セシルは花を売った代金をポケットに入れ、食料を買わずに帰り、家で待つビンセントに『花が売れなかった』と嘘をついた。
ビンセントは「俺のせいで済まない」と、毎回謝ったが、セシルは目を合わせようともしなかった。
やがて、花売りの美しいセシルの評判が街中に流れ、セシルと結婚をしたいという富豪が現れた。
「ビンセント。
私はこんな真っ暗な森の中で、一生花を売るためだけに生きていきたくないの。私の幸せを願うのなら、私と別れて」
ビンセントは、金髪の男に『セシルの幸せが俺の幸せ』と言った事を思い出した。
セシルは富豪との結婚を目前に、笑顔に満ち溢れていた。
ビンセントは、そんなセシルの笑顔を見ても全く幸せにはなれなかった。
「一週間後、あの街で立派な馬車に乗るのよ。
良かったら最後の姿を見送って」
セシルはそう言って、ビンセントを捨て出て行った。
一週間後、ビンセントは真っ黒なフードを被って顔を隠し、富豪へ嫁ぐセシルの姿を見に行った。
その日は雪が降っていた。
セシルは豪華なドレスと装飾に身を包み、その姿は二人きりで暮らしていた頃のセシルではなかった。
ビンセントは真っ黒なフードの中で、愛情から憎しみに変わっていく自分を感じた。
ビンセントは真っ黒なフードを脱ぎ捨て、セシルに向かって走った。
「ウォォォ……」
「ビンセン……」
富豪へ嫁ぐ花嫁を見に来ていた街中の人々の歓声が悲鳴に変わり、やがて銃声が響いた。
ビンセントはその様子を金髪の男と一緒に高い場所から見下ろしていた。
馬車の近くで、銃殺された真っ黒い狼と、狼に食いちぎられた花嫁が、並んで血だまりを作っていた。
二つの体の上に、白い雪が降り積もる。
「あの狼は……。俺? 俺は死んでいるのか?」
「ああ。死んだから魂をもらっていく」
「フッ……。
お前の言う通り、あの時セシルを殺していれば、美しい思い出でのままで終わったのにな」
ビンセントは悲しむことなく、悪魔の世界へ行ってしまった。




