第四十六話(ビンセント )
セシルは顔半分が赤黒くただれ、目蓋が開かなくなってしまった。
それでもビンセントは嬉しかった。
セシルが側にいるだけで。
セシルの顔から笑顔が消えた。
ビンセントはセシルの絵を描き続けた。
笑顔のセシルを。
「この絵は何? 私への当て付け?」
ビンセントが絵を描くたび、セシルはその絵を破り捨てた。
ある日、セシルとビンセントは薬草を採りに外へ出た。
久しぶりに青空の下に出たセシルは、笑顔で言った。
「ビンセント、私を殺して」
ビンセントは首を横に振った。
「これ以上生きたくない……、生きていたくないの!」
ビンセントはセシルを抱きしめた。
セシルが大声で何かを叫び続けていたけれど、ビンセントの耳には入ってこなかった。
セシルが疲れて泣き止むまで、ビンセントはセシルを受け止めた。
毎晩、セシルが眠りにつくまで、ビンセントは起きていた。
ビンセントは堅い椅子に座って眠り、少しの物音でも目を覚ました。
「神は何故こんなにも残酷なんだ……」
ビンセントは椅子に座ったまま、頭を抱えて呟いた。
「願いとは、そんなものだ。
何かを得るために、何かを失わなければならない」
ビンセントが顔を上げると、目の前に金髪の男が立っていた。
「お前がセシルをこんな目にあわせたのか?」
ビンセントは立ち上がり、金髪の男の胸ぐらを掴んだ。
「こんな目に?
お前は女が生きてさえいれば幸せではなかったのか?
まあ、俺なら他のものと引き換えに願いを叶えるが」
「何かを引き換えに願いを叶えられるのなら、セシルの病を俺に移して欲しい」
金髪の男は静かに笑った。
「それで幸せが得られると思っているのか?
俺なら今ここで女を殺すのが、一番良い選択だと思うが」
「セシルの幸せが俺の幸せだ」
「まあ良い。それでどうなるのか見てやろう。
願いの代償として、お前が死んだ後、お前の魂をもらっていく」
「ああ、何でも持っていくが良い。死後に興味はない」
金髪の男は目を閉じ呪文を唱え、そのまま消えてしまった。
ビンセントはいつの間にか椅子に座ったまま眠っていた。
先程の出来事は、夢だったのだろうか。
ビンセントは、ベッドで眠っているセシルの顔を覗いた。
そこには病気になる前の、美しい顔をしたセシルが眠っていた。
セシルがビンセントの気配に気付き、目を覚ますと、目の前のビンセントを見て叫んだ。
「キャァ……!」
ビンセントは、手で自分の顔を触った。
今までと違う感触に、金髪の男がいたのは夢では無かったのだと確信した。




