第四十五話(ビンセント)
ビンセントは人里離れた森の奥で、セシルと二人で暮らしていた。
ビンセントは絵描きだったが全く絵は売れず、森で見つけた花や薬草を売って、その日暮らしをしていた。
ビンセントはそれでも幸せだった。
笑顔のセシルがいつも側にいたからだ。
セシルもまた、ビンセントさえ側にいれば、他には何もいらなかった。
二人は森で拾った木の実で空腹を満たし、寒い夜は小さなベッドで身を寄せ合って寒さを凌いだ。
花も薬草も生えない真冬になると、さすがに食料に困ったので、ビンセントは街へ行き、危ない仕事で金を工面して、セシルに『絵が売れた』と、嘘をついた。
宗教画しか売れない時代に、ビンセントはセシルの絵ばかりを描いた。
セシルの背中には、いつも白くて大きな翼を描いた。
ビンセントの絵を見た者は皆「神はそんな姿をしていない」
と、鼻で笑った。
神など、誰も見たことがないのに。
ビンセントにとって、セシルは天使だった。
彼女が微笑むだけで、ビンセントは救われる。
そんなセシルが病に侵された。
当然、医者にかかる金は無かった。
薬草の知識も無かったので、何を飲ませれば良いのか分からなかった。
「ただの風邪だから心配しないで」
セシルが微笑んだが、ビンセントの心は救われなかった。
日に日に衰弱していくセシルを目の当たりにして、何もできない自分を悔やんだ。
ビンセントは金を工面するために街へ行ったが、致命的な失敗をおかし、怪我を負って帰ってきた。
ビンセントを見たセシルは「ずっと側にいて……」と、弱々しい声で言った。
ビンセントは、セシルの手を握って祈るしかなかった。
見たこともない神に、ひたすら祈った。
数日後、セシルは病に打ち勝った。
顔半分を失って。




