第三十五話
リリアは一人、書庫にこもって読みたい本を選んでいた。
いつもなら、大抵この書庫でビンセントを見掛けるのだが、ラルフやハイドが言っていたとおり、ビンセントの姿は無かった。
書庫でビンセントとばったり出くわした時、ビンセントは必ず嫌そうな顔をして、何も言わず書庫の奥へと消えてしまう。
リリアもビンセントの態度にはすっかり慣れてしまったので、構わず自分が読めそうな本の辺りへ行って本を選んだ。
リリアが手が届きづらい場所にある本を背伸びをして取ろうとすると、リリアの後ろからビンセントの手がすっと伸びてきて、リリアに本を手渡してくれる。
「あ……、ありがとう」
リリアが礼を言うと、ビンセントは黙ったまま面倒臭そうな顔をして、また部屋の奥へと消えていく。
そんなビンセントが今日はいない。
書庫は暖房が無いため、凍えるような寒さだ。
リリアはラルフが用意した大きめのフカフカしたコートを羽織っていたが、吐く息は白く、あまり長く居られそうにはなかった。
リリアは本を何冊か選んで取り、最後の一冊は背伸びをすれば何とか取れそうな場所にある本に決めた。
「んーっ……」
あともう少しで取れそうだが、手がかじかんでなかなか目当ての本が動いてくれない。
「キャ!」
目当ての本とその両隣にあった本が、まとめてリリアの頭に落ちてきた。
落ちてきた本の衝撃は大したことがなかったが、目当てでなかった本がバラバラになってしまった。
リリアは急いで本のページをかき集め、とりあえずラルフの部屋まで持って帰った。
部屋にラルフはいなかった。
さっそくバラバラにしてしまった本のページを順番通りに並べて元通りにしようと、一枚一枚見ていった。
「……日記?」
紙は相当古いようで、ところどころ虫が食った後や日に焼けて変色しているところがあるが、インクで書かれた手書きの文字と日付が並んでいた。
本のようにページ数はふられていないし、毎日書いているようでもなかったので、順番どおりに並べ替えるのには時間が掛かりそうだ。
「リリア、夕食の準備が出来たから行こう」
「あ……、うん。今行く」
部屋の外からラルフの声が聞こえたので、とりあえず日記は鏡台の引き出しに隠し、食卓へ向かった。




