第三十二話 (ハイド)
ハイドは毎晩のように夜会に入り浸るようになっていた。
初対面の悪魔との挨拶は、大抵、自分が人間だった頃の身の上話だ。
話をして、酒を飲んで、カードゲームで夜を明かす。
夜会がお開きになると、シャワーを浴びて食事を摂り、次の夜会の準備をする。
ハイドはいつもそうして一日を過ごしていた。
ラルフはたまに夜会に顔を出す程度で、あとは誰かの願いを叶える為に異世界を飛び回っていた。
「人の願いを叶えて何が楽しいんだ?」
一度ラルフに聞いてみたことがあったが、
「お前もやってみれば分かる」
と、笑うだけだった。
ハイドはビンセントが苦手だった。
ラルフもビンセントも、人間だった頃の事は何も話さないが、特にビンセントからは聞いてはならないオーラがいつも放たれていた。
ラルフが異世界へ行くために長期間、屋敷を留守にする時は最悪だ。
昼食をハイドとビンセントの二人で摂らなくてはならないが、全く会話が続かなかった。
「ビンセント。
お前もたまには夜会に出てみればどうだ?」
「行く必要がない」
「ビンセント。俺にも術の使い方を教えてくれ。
なるべく簡単で、なるべく派手なのがいい」
「書庫にある入門書でも読めばいい」
「ビンセント。いつも何の本を読んでいるんだ?」
「お前に言っても分からないだろう」
「……」
ハイドは昼食を食べ終え、席を立つ前にもう一度
「ビンセント。今日、夜会に出てみないか?」
と、聞いてみたが、
「遠慮しておく」
と、相変わらず素っ気ない答えが返ってきた。
翌朝、ハイドが夜会から戻って来ると、ハイドの部屋のテーブルの上に魔術の入門書が置かれていた。
ハイドは本を手に取り、パラパラめくって、一番簡単そうな『炎を操る術』を練習した。
人間だった頃、この術が使えていたらゼロは今でも生きていただろうか……。
そんな気持ちが一瞬頭をよぎったが、考えるのが馬鹿馬鹿しくなって、手にしていた本を閉じ、テーブルの上に置いた。




